リンク1 コンパスとチズくん
ちょっと変えています。
再掲載です。
第一章
「全てのつながりは絶たれるだろう」
黒ずくめの魔女はチズの夢に毎夜あらわれてこの言葉をくり返す。
チズはこの魔女の正体を知っている、それは……
「起きなさい、チズ! 今日は神官さまに招かれているんでしょう!」
「ぼくだけじゃないし、勇者候補が呼ばれているんだし」
ぐずぐずとベットの中で逆立った黒髪をかきながら、なかなか出てこない彼に母親のバンズは、
「今日は特別な日なんだから、はやく用意なさい」
「わかったよぉ」
チカチカと光るものがその様子を見ていた、コンパスだ。しかし、その横には黒々としたカラスがそばを離れない。
(もう追っ手を差しだしてきた、混沌の女神)
コンパスにはカラスを倒せないし、どうやら戦う気はないようだ。
(あ、またあの魔女の使いのカラスだ。それに今日は見覚えのないのがいるな、仲間かな?)
彼は気づいていた魔女の手下に。夢の中の自分は魔女の正体を知っているのはなぜだろうか、そしていつも目が覚めると忘れてしまうのはなぜ? それに『全てのつながりは絶たれるだろう』ってどういう意味?
「さあ、朝食も食べたしいくか」
「ちょっと、忘れ物はない?」
「もったよ、招待状でしょ?」
「よし! いってらっしゃい」
「いってきまーす」
(あ、ついてくる)
いつもあのカラスはついてくるが何もしてこないので無視している。今日はおまけがついてるけど。
歩いて五分のところに神殿はある。忘れ物があってもすぐにとりにいける距離だ。なのに、バンズは忘れ物の確認をしてくる。よく遊びにいく場所で神官さまとも顔見知りだというのに。
「おお、チズよ。遅いではないか。早くこちらに並びなさい」
この神殿はとても古く神代の時代からあるという。神さまが作ったとされている、みそぎの神殿。裏に湖があり、そこで身を清めるらしいがそれは人だけではない。エネルギーの精もだ。なんか清めないとヤバいことがあるらしい。
「さ、最後の勇者候補も来たことだし、これ。コンパスよ」
すう~、とチズの横からコンパスがあらわれる。勇者候補を集めたのは湖の前。どうやら、みそぎを先に行うようだ。
「よお、うっかりのチズ」
「またママに起こされてきたのか~?」
「忘れ物はな~い~、チズくん」
ニヤニヤ笑いながらやってきたのは彼をいじめる三人組。ホウ、レン、ソウだ。
どおおおおおおおおん
何かが突然湖に落ちてきた。みるみる湖は黒いドロドロとしたものに埋め尽くされていき、弾けた。
「うわああああああ」
泣き叫ぶ勇者候補たち。巻き込まれてドロドロを浴びるとモンスターに変わっていく。ホウ、レン、ソウは、
「なにしてる!? 早く逃げるぞ」
「あ、足が……」
「先に逃げろ、ソウ」
勇者候補だったモンスターが迫ってくる。逃げようにもドロドロが足にくっついて取れないレンとホウ。立ち向かうソウ。
「ああ!」
三人ともモンスターに切りつけられる。足、腕、頭と傷を負う。
「ホウ、レン、ソウ!」
チズが、頭に傷を負い倒れているレンを抱えてホウとソウと逃げる。神殿の奥へと。 そこには、普段立ち入ることを許されない勇者の中庭がある。中庭へ着くとそこに何があるかというと、
「剣だ。木々に埋まってて柄しか見えないけど、それにあの三つは」
「ぐずぐずするな、チズ!」
「剣を取って! チズ!」
え、四人は振り返る。チカチカと光るコンパスがいた。チズは柄に手を取る。木々がするすると取れて、剣があらわれる。
「も、モンスターが……」
「でも、人間だったし」
「大丈夫、剣を、剣を抜いて!」
チズは目の前のモンスターの頭を柄で殴る。すると、モンスターは勇者候補に戻った。
「さあ、みそぎの湖をとりもどすよ、チズ! ホウ! レン! ソウ!」
力強くコンパスは四人に呼び掛けた。
読んでいただきありがとうございました!