奴隷解放って簡単に言うけど実際簡単には出来ないってなんでご都合主義使えねぇんだ!
都バスの長距離路線、割と便利
「奴隷解放を悟られないようにやる必要がある。」
アーサー王子と本来のヴィラン王女は奴隷解放反対派。その為、奴隷を解放するという行為は表立って出来ない。現在はアリスに頼んで解放を目指すマリーの援助をして貰っているが、それでは限界がある。奴隷からお金を巻き上げるこの仕組みを変える必要がある。
「ヴィラン王女!都バスシステムの輸送力不足が指摘されております!どうすれば良いでしょうか?」
アーサー王子側の使用人、レインが都バス増便を求めてきた。馬車で運行しているこの世界の都バスはやはり人員不足が否めなかった。
「そうね…国民は新時代の乗り物開発に力を割いているし、仕方ないわ、奴隷を使いましょう。人手はこういう時に役に立つわ」
実際この案件、棚から牡丹餅である。奴隷は今、劣悪な環境で強制労働を強いられている。それを国民が仕事として従事するぐらい良い環境へ持っていくことが出来たのだから。まぁ一部の国民運転手は反発したが、都バスシステムの為と言って落ち着かせた。
「川越様、東夢の人たちが、都バスの運転手になったことで、どれぐらい環境を改善できるのでしょうか。」
アリスが聞いてきた。
「まだ全員が良い環境で働いているわけじゃない。もっと雇用が必要だ。とりあえず都バス勢は国民の給与を上げる前提で、奴隷と言われる彼らの給与も増やせるからここは一安心だな。国民の安全のためとか言っておけば、金を巻き上げるシステムを無くすこともできるさ。」
もしも奴隷が反乱を起こし国民の安全が脅かされることになれば大変だ。
そこで奴隷が稼いだお金は奴隷が使えるということにして、反乱させないようにした。これがカバーストーリーである。
外に出て、都バスの偵察を行う。やはりかなりの混雑を見せていた。
「まるで、白61系統の目白駅前みたいな混雑だな。乗り切れないほどの列だ。」
練馬車庫から新宿駅を結ぶ長距離路線を例に挙げている。当然アリスはわからない。
「川越様、列に並びますか?」
「そうだな、偵察だからと言って横入りは日本人として失格だ。」
30分待ってようやく乗れた。現在かなりの本数出しているがそれでもここまで待つのは、この世界に鉄道などがないからである。
「そういや、前にいるあの人、マリーじゃねぇか?」
「確かに、そのように見えます。その横にいるのは東夢の奴隷…ように見えます。」
「解放運動か、人知れず行ってるんだな。」
「おら!退け!!」
突然乗客の1人が大声を上げる。狭い車内。いくら拡大したといえ馬車なので10人しか乗れない。そんな中で喧嘩など始まれば惨状は防げない。
怒鳴る乗客の前にはマリーと例の奴隷がいた。
「げ、面倒なことになったな。」
「奴隷如きがバスに乗ってんじゃねぇ!!お前か?スカーレット家から追い出された女は!あの国の奴らを神聖な国に入れてやってるだけ感謝しろ!ほら!ヴィラン王女も乗ってらっしゃる!空気を悪くするな!」
空気を悪くしているのはお前である。
「アリス、止めてくれ。喧嘩は見たくないとか言えば抑えられる。」
俺は情けないほどか弱かった。こんな喧嘩も止められないとは。
「ヴィラン王女より、偵察中に我が国の評価を落とすような行為をするなとお達しです。我が国の発展のために奴隷を輸送しているのだから、其方の行為は反乱分子として考えても良いとのことです。」
かなりキツイ言葉で叱ってもらった。その乗客は慌てて次の停留所で降りていった。
偵察を終え帰路に着こうとした時、マリーに止められた。
「あなた、ヴィランじゃない…誰なの?」
え?というのが第一感想である。俺はヴィランらしく奴隷扱いしたわけだが、ダメなのか?
「あら、また虐められたいの?」
「ほらやっぱり」
は?というのが第二感想である。虐められたいの?ってヴィランの声で言ってるのだが
「何が言いたいのかしら?私を揶揄っているのかしら?」
「本物のヴィランならそんな苦しそうに言わないわ。あなた、ヴィランの見た目して、中身は別人。それもヴィランと違って優しい人でしょ?」
なんだこの人は、エスパーか?ここまで言われるとどうしようもない。
「アリス…言っていいか…?」
「…そうですね、仕方ありません。」
「マリー、少し他の人のいない場所へ行きましょう。」
「落ち着いて聞いてほしい。確かにヴィランではない。そもそも女でもない。俺はある日、このヴィランと入れ替わってしまった日本という国のサラリーマン。川越稜だ。」
俺は現実世界っぽくしたいこと、ヴィランが悪役令嬢だから仕方なく演じていたこと、奴隷解放に賛成なことを伝えた。
「…あなたが本物のヴィランならどれほど良かったでしょう。あなたを信じます。
私は、スカーレット家から絶縁され、身寄りのない者となってしまいました。
隣国から無理矢理連れて来られて奴隷にされてしまった方をなんとしてでも救いたい。」
ざっとマリーからはこんなことを伝えられている。お金は自分が出したことは伝えたので、これからもこっそり資金援助をするということと、六本木からほど近い渋谷にマリーの家を用意することを伝えた。アリスを伝達係として、これから共に奴隷解放を行うことを約束した。
「やはり女の感覚って恐ろしいな。」
「そうですね、私も女ですからわかりますが、本当に怖いものです。」
もしかして、アリスへの好意。バレてる?
さてついにマリーに正体を明かしましたね。
この作品は、現実世界っぽくしていくのがテーマの一つですが、奴隷解放という少し重い内容も入れているというのが特徴です。
女主人公であり男主人公の彼女であり彼、なかなか不自由な生活ですから、宮廷暮らしも大変です。