エピローグ ~『祖父の想い出と親友』~
エピローグ『あやかし古書店の名探偵』
これは夢だと、美冬は見ている景色からそう判断する。本に囲まれた薄暗い土蔵の二階で、亡くなったはずの祖父が生きていたからだ。
祖父は死ぬ間際よりも若々しく、赤ん坊の女の子が膝の上で眠っていた。女の子が赤ん坊の頃の美冬だとすると、二十年以上前の記憶が夢になって現れたのかもしれない。
「寝てしまったか。ここからが面白いというのに……」
祖父の手元には栞が挟み込まれた『宮川舎漫筆』が置かれている。彼は残念そうな口ぶりではあるが、頭を撫でる手つきには優しさが込められていた。
「そこにおるか、親友よ」
祖父が虚空に呼びかけると、じんわりと空間が歪み、銀髪の美青年、善狐が姿を現す。彼はいつものように慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「この娘が儂の孫じゃ。可愛いじゃろ?」
「…………」
「相変わらず無口な男じゃの。我らもすでに十年以上の付き合いじゃ。そろそろ口を利いても良いじゃろうに」
だが善狐は笑みを浮かべるだけで口を開こうとしない。話せないなら仕方ないと、祖父はふぅと一息吐く。
「思えば出会いは偶然じゃったな。古書店でワゴンセール品として売られておった『宮川舎漫筆』を見つけた時の喜びは今でも思い出せる」
「…………」
「それからお主は儂の前に現れ、今まで尽くしてくれた……妻との出会いもお主がハンカチを風で飛ばしてくれたおかげじゃったし、娘が病気で苦しんでいた時は隣町から医者を呼んでくれた」
「…………」
「義理堅いお主のことじゃ。きっとこれからも儂の味方でいてくれるじゃろ。だがそれでは駄目なのだ。儂は欲張りでのぉ。儂は孫娘のことを永遠に守り続けたいのじゃ」
「…………」
「だが酒にも煙草にも目がない儂じゃ。いつ死んだとしてもおかしくない。故にな、もし儂が死んだら、今度は孫娘を幸せにしてやってくれぬか?」
「…………」
「答えはいらぬ。儂はお主を信じておるからな……頼んだぞ、無口な親友よ」
善狐は何も口にせず、ただ微笑みを浮かべる。『任せてください』と、そう伝えているような笑みだった。




