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17番目の君に  作者: ゆでたま
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第13話 邪悪の接近

「ここが、ゼシルの根城か……」


 俺とユニコーンは、巡に案内され、ゼシルの根城に来ていた。巡はここで、ゼシルに肉体を改造されたらしい。


「やっぱここだったのか……」


 ゼシルの根城を見上げる。予想通り、ゼシルの根城は市の合併によって寂れた廃墟群にあった。


「そんじゃ行くぞ」


 巡を先頭に進んでいく。が、ビル内にはゼシルはいなかった。


「たぶん入れ違いやな、魔力の残滓がまだここに滞留しとる」


 じゃあどこに行ったんだ? そう思ったとき、俺のスマホの着信音が鳴った。見てみると、妃からだった。


「どうした?」


 用件を訊くと――


「助けて――」


 その声を最後に、電話がプツリと切れるのだった。


 ◇


 それは、岐とユニコーンが父親の捜索に出かけた後のこと。


 家の中は不穏な雰囲気に包まれていた。ホロン、妃、シエラの三人は終始無言。それもそのはず。

 ホロンは異世界を滅ぼした。シエラはそんなホロンを殺しにこの世界にやってきた。妃は岐がホロンを庇うことに懐疑的である。そのため、ホロンにとって三人だけのこの状況は妙にいたたまれなかった。


「ね、ねぇ…前にやったゲームしようよ」


 と、この雰囲気を変えるためにホロンは妃に話しかけた。父親が行方不明の状況でこの提案は無頓着すぎるのでは……? と直後にホロンは思ったのだが――


「いいよ」


 杞憂か、妃は気に留めず、快諾したのだった。

 二人でスマブラをしている途中、妃はホロンにある問いかけをした。


「ねぇ、もし自分のせいでくーちゃんが死んだらどうする?」

「そのときは死ぬよ。でもそうならないように頑張る」


 ホロンは即答した。


「なんでくーちゃんはホロンちゃんを助けるかわかる?」

「……わからない」

「くーちゃんと私は血が繋がってない、孤児なの」


 えっ、とホロンは驚き、コントローラーを操作する手が止まった。


「くーちゃんと私は同じ孤児院にいてさ、そこでお父さんに拾われたの」


 妃はゲームを操作する手を止めることなく、何でもないように話す。


「まあ本当の親がいないから色々あってね、特にくーちゃんは。それからくーちゃんは善か悪かの二択でよく物事を考えるようになったの。本当は二択で絞れるほどシンプルじゃないのにね。それなのにくーちゃんは0か1かの答えを追求してるからいつも苦しむ。真面目すぎるんだ」


 ホロンは思い当たるフシがあると思いながら聞き入っていた。


「くーちゃんは今のホロンちゃんは善だと考えてる。でも、本来のホロンちゃんはどうなのかな? 記憶を取り戻したホロンちゃんは悪かもしれない。もしそうだったら、くーちゃんは多分ためらわない」

「クナトに助けてもらわなかったら、そもそも私は生きてない。だからクナトに殺されるんだったら、本望だよ」


 その回答に妃はそう、と言い、二人はゲームを続けるのだった。


 そのとき――シエラがおもむろに立ち上がった。


「ゾンビたちがこちらに来ている」


 妃とホロンは一瞬顔を見合わせたあと、シエラのもとに集まる。


「それにゼシルも来ている」

「!?」


 黒幕の接近に、二人は驚く。


「私が迎撃する。ここで待っていろ」

「……わかった」

「う、うん」


 シエラは二人を引き連れて外に出る。そこには大量のゾンビがいた。そして、その中に――


「やあ、久しぶり、シエラ」


 正義の神――ゼシルがいた。シエラはゼシルの姿を認めると、すかさずゼシルへと接近し、斥力せきりょくを込めた攻撃をゼシルへと浴びせた。

ゼシルは肉の壁を作り、それを防ぐ――。が、シエラの攻撃が凄まじく、その肉の壁は一瞬にして瓦解した。


「ちょっ――強すぎでしょ‼」


 ゼシルは肉の壁を貫通した衝撃波が到達する前に、横へと退避した。


「あ~あ、結構本気で防いだんだけどな~」

「お前、ユニコーンがいなくなったところを狙ってきたのか?」


 シエラは追撃をかけながら、ゼシルへそんな質問をした。


「そうだよ」

「私を倒せるのか?」

「もちろん」


 余裕な笑みを浮かべるゼシルだが、防戦一方だった。ゼシルはシエラの攻撃を肉壁で威力を削ぎ躱すことしかできていない。かろうじての生存。もはやゼシルが倒されるのは時間の問題であった。


「さすが、最強の神。地力が全く違うや」


 ゼシルはシエラから傷を受ける。ゼシルの笑みに余裕がなくなっていた。


「お前のことだ、なにか策を講じてきているんだろう? 見せてみろ、ことごとく潰してやる」


 そう言って、シエラは両手を合わせた。斥力と斥力に掛け合わさることによって生ずる膨大なエネルギー。シエラはそれを解き放とうとしていた。


「別に策なんてない。でもさ、ちょっと周りをよく見てみなよ」


 そのときシエラの耳に、人の声がかすかに聞こえた。妃やホロンからではない。地面から声が聞こえた。

 そこには――


「タ…、たすけテェ……ころ、して」

「なんだ、これは………」


 思わず、シエラは絶句した。とても生きているとは思えないほどぐちゃぐちゃになった肉塊が、こちらに話しかけているのだから。


「シエラの攻撃を防ぐために使ったこれ、何だと思う?」


 ゼシルは、その肉壁をもう一度作って見せた。


「――!」

「気づくの遅いよ、ホント頭は悪いよね」


 まだ色欲の権能を完全に制御できていないゼシルがあの肉壁を構築するためには元となる材料が必要になる。

 それは、有機体。ゼシルは人間を使ったのだ。


「こんなふうにさ、人間をアクセサリーにしていつでも取り出せるようにしてるんだ」


 ゼシルは両腕、服の内ポケット、腰に取り付けたソレをおもちゃのように見せびらかす。


「極限まで小さくしたこの子たちを、次は極限まで大きくしてシエラの攻撃を防いだ。でもさ、シエラの攻撃が思った以上に強いから一回の防御に10人は使ったよ、アハハ!」


 面白そうにゼシルはそう言った。


「可愛そうだよねこの子たち。あんなにおっきくしても実はまだ生きてるんだ。それなのに君は無惨に殺しちゃって……。そこに散らばってる、君が殺した子たちはざっと60ってとこかな、まったく血も涙もない」


 ゼシルやれやれといった感じの手振りをする。


「これがお前の策か?」


 シエラはゼシルの揺さぶりに動じず、ただ毅然にそう問いかけた。


「策ではないかな。でも君には一番効くよね、これは。お人好しの君にはさ…」

「私はお人好しではない。全員の命を守り抜けるほど強くない。ただ救える命を救うだけだ」


 シエラは腰に携えた十手じってを引き抜いた。


呼極こごくか…。それ使ってもいいけど、あの二人も巻き添えになっちゃうよ? いいの?」

「言ったはずだ、救える命を救うだけだと」


 シエラは呼極と呼ばれた、十手を目の前に掲げるだった。

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