8.小太りは犯罪です。
「それから、そこで何もしていないルイス、あなたには人を集めて貰います。ターゲット層をお金のある富裕層に変える予定です。ワンナイト目当てでも良いので小太り以外の貴族の18歳以上の男を30人程見繕ってください。あなたがすでに手をつけた女でも良いので貴族令嬢も30人程お願いします。今回は高級志向に変えていこうと思っています」
貧困層から掠め取るのではなく、富裕層の小銭を集める作戦に変更しようと思った。
悪っぽい雰囲気の兄ルイスはおそらく、外で結構遊んでいて軽く声を掛ければ婚約者がいても集まってくれるような知り合いがいそうだ。
「何言っているんだよ。そんなに集められる訳ないだろ」
兄ルイスは将来性のない子だ。
彼が国王になったら、レオ王国は暗黒期に突入だろう。
やろうとする前から、できないという自分に甘い男の子。
彼は次期国王でも絶対にヒロインの相手役ではない。
どう考えても正統派ルイ王子がヒロインの相手だ。
「別に指輪を外してくれれば既婚者でも良いですよ。とにかくマッチングを目的としたパーティーを開催することを目的とするんです。正直、この結婚相談所が開店したことも周りにあまり気がついて貰えてない気がします」
最低でも60人は集めてパーティーを開催すれば話題になりそうだ。
私の世界でも、きっと既婚隠しをして婚活パーティーに出席する輩はいるに違いない。
「イザベラ、どうして小太りを除いたのか聞いてもよろしいですか?」
ルイ王子はいつも落ち着いて、疑問があったら必ず聞いて私の希望を叶えてくれようとする。
どうして、彼のような素晴らしい存在がダメ兄貴のサポートに徹しなければいけないのか世の中は不公平だ。
「小太りは犯罪です。私は常に自分の体型に気を遣っているので小太りが許せないのです。サッカー選手、野球選手、バスケットボールプレーヤーと付き合っても相撲取りとは付き合いません」
相撲取りは仕事で太っているのかもしれないが、太ることが仕事なんて羨ましい。
10年に一回の制服のデザイン替え以外で、私は制服を変えたことがない。
そもそも離職率の高い職場だったから、太ったら仕事を辞めていたのだろうか。
太ったから制服変えてくださいなどと恥ずべきことを言うくらいなら確かに離職しそうだ。
「相変わらず、訳のわからないこと言ってるな。とにかく、貴族を合計60人も集めるのは無理だから⋯⋯」
兄ルイスは王宮でたくさんの貴族を見ているのに、声を掛ける貴族はいない悲しい男だ。
「なぜですか? 次期国王なのにあなたはそこまで人望がないと言うことですか? 私はこの1週間王宮で暮らして気がついたことがあります。ルイ王子の方がルイスより倍以上仕事をしていると言うことです。それなのに全てルイスがした仕事となってますよね。あなた最低の上司ですよ。ルイ王子へにはかなりの借りがあることをルイスは気がついているはずです。この結婚相談所は私とルイ王子の共同経営です。是非、人を集めることで借りを返してください」
私は王宮暮らしで兄ルイスに搾取され続けるルイ王子を見てこれだけはいつか言っておこうと思っていた。
「イザベラ、兄上は兄上にしかできない仕事をしているんですよ」
すかさず、フォローしてくるルイ王子の性格の良さにまた感嘆する。
彼は金髪だし、どう考えても男主人公だろう。
「それはお部屋でのハッピータイムですか?年 頃の少年の仕事と言えない訳ではありませんね。見えない仕事をしているとは、実は私にはあまり理解できません。私の前職の仕事は常に周りがやっていることが見えてました。それから、ルイスは妙な色気がありますよね。外で悪い遊びをする仲間とか、体だけの関係の女とかいないのですか? そういった方でもとにかく人数合わせに呼んで頂きたいのです」
前職はどのポジションがどの仕事をするのか全部把握している。
見えない仕事が存在しないので、見えないところで仕事しているから気を遣えと言われても無理だ。
「ちょっと記憶喪失とか錯乱とかのレベルじゃないだろう。イザベラ、お前、性格もおかしくなっているぞ」
1週間、王宮暮らしをしていたら年の近い私達は3兄弟のように過ごすようになっていた。
そして、使えない長男ルイスは私をイザベラと呼び捨てにするようになっていた。
「おかしいのはあなたですよルイス。私のいた世界では長男なら我慢できたけれど次男なら無理だったという趣旨を伝えたい作品が大ヒットしています。しかし、はっきりいって私達3兄弟は、長男が一番使い物になっていません。次期国王の人脈を見せつけて挽回してください」
会話の中で私はよく前の世界の話をしているのだが、兄ルイスもルイ王子も夢の話として受け取っているようだった。
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