4.お色気要員は隠しキャラ?
「サクラとは何ですか? 僕はイザベラがやることには協力します。あの、僕からも提案があるのですがイザベラが本当の自分を取り戻せるまで王宮で暮らしませんか? 」
ルイ王子が心から心配そうに私の手を握りながら話してくる。
確かに娘がおかしな言動をしても娘の心配よりも、王子の顔色を伺うような父親と暮らすよりは王宮暮らしの方が良さそうだ。
「それも、アリかもしれませんね。でも、申し訳ございませんがルイ王子の知るイザベラは戻ってこない確率が非常に高いです。私、実は39歳の未婚女性で異世界からイザベラの体に憑依しています。本物のイザベラは消えてしまったか、もしくは私の詰んだ来月無職の人生を歩んでいるかのいずれかです」
ルイ王子がイザベラ帰還に期待しているなら、その確率は低いことを私は伝えた。
「イザベラ、僕は誰が君を何と言おうとずっとあなたの側にいます。何も怖がることはありませんよ、大丈夫です。一緒に王宮に行きましょう」
彼はひたすらに涙が溢れそうになるのを耐えながら、私に訴えてきた。
私は自分がざまぁ要員であることに確かに恐怖を感じていた。
しかし自分の元の世界で悪いこともしていないのにすでにざまぁ後のような人生しか残っていないことを考えると、イザベラ人生を歩む方が幸せだ。
「ありがたいです。では、王宮に行きましょう。」
とりあえず、「ざまぁ」とやらはアカデミーの卒業式あたりだろう。
5年は安泰な人生が過ごせるのなら王宮ライフを5年満喫した後、貯めた金で隣国に逃れれば良い。
♢♢♢
「兄上、今日からイザベラを王宮で生活させようと思っているので、よろしくお願いします」
王宮に辿り着いてはじめに出会したのはルイ王子の兄だった。
黒髪に翡翠色の瞳をしたお色気系だ。
なんだか、彼は隠しキャラの匂いがぷんぷんする。
もしかして、ここは小説の世界ではなく乙女ゲーの世界なのかもしれない。
だとしたら私は全てのルートでのざまぁ要員である悪役令嬢の確率が高くなる。
「バーグ公爵令嬢、挨拶は?」
不機嫌そうにルイ王子の兄が私に話しかけてくる。
私の苗字はバーグというらしい、何という適当な苗字だ。
ざまぁ要員にしても酷すぎる。
アゼンタインとかにして欲しかった。
珠子時代も苗字が佐藤だったが、本当は小笠原が良かった。
「兄上、申し訳ございません。イザベラは今、記憶喪失で少し錯乱状態にあるのです。本当の自分を取り戻せるまで王宮でゆっくりさせてあげたいのです」
ルイ王子が慌てたように、偉そうなお色気兄貴に頭を下げている。
「イザベラ、申し訳ございません。僕が気が利かなくて嫌な思いをさせてしまいましたね」
その後、私にしか聞こえない小声で謝ってくる彼は性格が優しすぎないだろうか。
「挨拶はあなたもしてないですよね。目上の者に向かって何様ですか?」
私は明らかに12歳から13歳くらいに見えるルイ王子の生意気な兄に言った。
こっちは彼の3倍以上の時を生きたいい大人だ。
「はあ? 何言ってるんだこいつ、頭おかしいだろ」
ルイ王子の兄が名前も名乗らず、私を頭おかしいと言ってくる。
「人に面と向かって頭おかしいとは何ですか? 言葉遣いも粗雑だし、とても次期国王の器とは思えませんね。あなたの弟さんは私の様子を見ても、本当の自分を見失っているという優しい表現しかしませんでしたよ」
ルイ王子の兄は子供のくせにお色気ムンムンな感じもおかしいし、王族なのにルイ王子のような品格や育ちの良さも感じない。
私はクズ男には決して屈したくないのだ、自分が40歳手前だったから弱気になり過ぎていたが今の私は無敵の10歳だ。
「レオ王国の小さな太陽ルイス・レオ王太子殿下に、ルイ・レオがお目にかかります。このような感じにします。ちゃんと教えておいてあげれば良かったですね」
ルイ王子が私と兄ルイスの間を取り持とうと必死に挨拶をしようとしてきた。
「お兄様はルイスとおっしゃるのですか? ちなみに、ショタ枠のル様にはいつ会えるのでしょうか?」
兄をルイス、弟をルイなどと適当な名付けをする親の顔が見てみたい。
もっと名前とは丁寧に考えるものではないのだろうか。
「また、この女、おかしなこと言ってるぞ。俺たちは俺たちは2人兄弟だよ。こんな女表に出せないだろ。婚約破棄した方が良いんじゃないのか?」
兄ルイスが心底見下すような視線で言ってくる。
「おかしいのは王太子であるのに品格がないルイス様です。一人称、俺はないですよ。私とか余に変更することをおすすめします。年長者のアドバイスは聞いておいた方が良いですよ」
私は品格のない兄ルイスに指導するように言った。
珠子時代、私はプライベートでは品格がないが、仕事中は品位を保つことを心がけていた。
身内でも、恋人でもないイザベラの前で適当な自分を見せている兄ルイスは教育の余地がありそうだ。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると嬉しいです。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。