第10話 地図の中心は帝都ではない
読んでくださりありがとうございます。どうしてマシューは地図が正確ではないと思ったのでしょうか。
数秒ほど何とも言えない空気が流れた。エルヴィスもエレナも、そしてレイモンドでさえもマシューが何が言いたいのかを理解出来なかったのである。皆のその反応に気付いたマシューは慌てて訂正するかのように手を動かした。
「あ、違う違う。ええと、……これを見てくれ」
そう言ってマシューは収納袋からあるものを取り出して3人に見せた。それを見てレイモンドはようやくマシューが何が言いたいのかを理解した。だがエルヴィスとエレナはそれを見ても何も理解が出来ない。マシューが取り出したそれはどうやら古い紙のようだ。
「……これ、もしかして地図なのかい?」
「そう、地図だよ。俺の父さんが俺に残してくれたものさ」
「へぇ、ちょっと見させてもらうよ」
取り出したものが地図と分かるとエルヴィスはマシューが取り出したそれを興味深そうに手に取るとじっくりと見始めた。一方エレナは少し渋い表情で何か考えているようだ。やがて意を決したかのようにマシューの目をじっと見つめて口を開いた。
「……マシュー、あなたのお父さんについて聞いてもいいかな?」
どうやらエレナはマシューの父のことが気になるようだ。事情を知っていれば何も気にならないが、知らなければ気になるのも無理はない。4人の中で事情を知らないのはエレナだけであり、そう言う意味では1人浮いているのだ。
「あぁ、そうか。エレナはまだ聞いていないか。マシュー、エレナにも話してやってくれないか?」
「もちろん。…………」
マシューはエレナにも自分の過去を話したのである。エレナはマシューの目をじっと見つめて真剣な表情でマシューの言葉を聞いていた。やがてマシューの話が終わり、エレナはマシューの過去と並々ならぬ思いを知ったのである。
「……マシューにそんな過去があったなんてね。全然知らなかったわ」
「僕も最初にそれを聞いた時は驚いたよ。……でも同時に納得したかな。何の意味も無く象徴を集める人はいないからね。さて、この地図に話を戻そうか」
そう言ってエルヴィスは古びた地図を全員に見えるように置いた。横にある帝都を中心に描かれた地図と見比べるとところどころ違うように描かれていた。この地図を見たことがある故にマシューは地図の正確性が気になったのだ。
「……大きい方の地図の裏を見てもらえるかい?」
「裏?」
言われるがままレイモンドは大きく広げられた地図を裏返した。その地図の裏面には右下に小さく署名のようなものが記されていた。
「それは帝都が管轄しているものである証明となる署名だよ。……つまり分かりやすく言えばこの地図が正確に描かれたものである証明なのさ」
「……それじゃあこっちの地図が間違っているのか」
エルヴィスが持って来た方が正確と言うことは、マシューの持つ古びた地図は正確では無いと判断出来る。ケヴィンが残したこの地図が正確ではないと思ってもみなかったマシューは落胆してしまっていた。すっかり意気消沈して古びた地図を仕舞おうとマシューは手を伸ばした。するとエルヴィスがそれを制止したのだ。顔を見上げるとエルヴィスは首を横に振っていた。
「その地図が間違っているとも言っていないよ」
「……そうは言ってもこの大きい地図とところどころ描かれていることが違うんだよ?」
「もし地図の中心に描かれているのが帝都で無いのなら描かれていることが違うのも当然だろう。…………こうして見るとどちらも正確な地図に見えないだろうか」
エルヴィスは大きく広げられた地図と上下を逆さまにして古びた地図を並べた。なるほど、こうして見ると古びた地図もまた正確に描かれているのかもしれない。ところどころ大雑把に描かれている箇所や少し描かれているものが違うことを考えれば概ね同じものと考えて良さそうだ。……正確と言うには少し語弊があるのかもしれないが。
「この地図は帝都を中心に描かれてはいない。これは帝都から紅玉の森……いや、違うな。闘猿の森を越えた場所が中心となって描かれた地図だよ。ええと、ここにある町は確か……テーベとか言う名前の田舎町だったかな」
エルヴィスは古びた地図の中心に描かれているものに心当たりがあるようだ。マシューもレイモンドもエルヴィスの言うテーベと言う名前こそ聞いたことが無かったが、帝都から闘猿の森を越えた場所にある田舎町ならよく知っていた。
「……テーベか」
「何か知ってるのかい?」
「その名前には全く聞き覚えが無いけど、帝都から闘猿の森を越えた先にある田舎町のことならよく知ってる。俺たちはそこの田舎町出身だからな」
「へぇ、それは知らなかったよ。それじゃあこの古びた地図もそこで手に入れたものなのかい?」
「あぁ、そうだよ。俺の家の地下で見つかったものだ」
そう言いながらマシューは置かれた古びた地図を見つめた。地図の中心に描かれているのが帝都だとして動いていたがそれが違うとなると話が変わってくる。マシューは今一度地図に記されたバツ印を目で探し始めた。
「……ちなみに聞くが、バツ印は自分で付けたものかい?」
「いや、それは見つけた時には既に記されていたよ。数からして秘宝のありかを示していると俺らは考えているのさ」
「へぇ、それはまたすごい地図なんだな。……なるほど、紅玉の森らしき場所にバツ印がある。まだ一度きりの事例だけど、仮説としては正しいと考えて良さそうだね」