第7話 肩の荷が下りる
読んでくださりありがとうございます。エルヴィスは不安だったようですね。
「……失望? なんで?」
「なんでって、……。僕は君たちが思うエルヴィスじゃないんだ。本当は騎士になれなかったただの落ちこぼれが少し魔法に関しては詳しくなっただけの人物なんだよ。だから、……だから」
「だから? だから何だって言うんだ?」
「……だから君たちはきっと失望しただろう。僕は君たちにそのことを隠していたんだからね」
エルヴィスは少しばかり卑屈になりそして落ち込んでいるようだ。恐らくエルヴィスのその過去は彼にとってトラウマであり大きな負のエネルギーを持つようだ。だがエルヴィスの考えは全くの的外れなのだ。マシューもレイモンドもエルヴィスの過去に驚きこそしてもエルヴィスに対して失望の気持ちなど微塵も無いのだ。
落ち込んだエルヴィスにどう言葉をかけるべきかマシューは悩んでいた。上手く言葉に出来ないものならば頭に浮かんでいるがそれを発する勇気は無い。どうしたものかと悩んだマシューはふとレイモンドの様子を伺った。レイモンドは穏やかな笑みを浮かべている。その表情を見てマシューはレイモンドに任せようと思ったのだ。
「……なるほど、それじゃあ俺が知ってるエルヴィスをちょっと言葉にしてみるか。それが答えになるのかは分からないけどな」
「……」
「俺の知ってるエルヴィスは魔法が詳しくて何も知らない俺たちに色々と教えてくれる人だ。それに助けたい人のためなら精一杯頑張る姿も知ってる。だから俺たちにとってエルヴィスは尊敬しているし信頼してる大切な仲間だよ。なあマシュー、そうだよな?」
「ここで俺なの? ……まあでもレイモンドの言う通りかな。どこまで一緒にいられるかは分からないけど、出来ることならずっと一緒にいて欲しい。俺にとっても尊敬しているし信頼している大切な仲間だな」
2人とも穏やかな笑みを浮かべていた。その表情は嘘偽り無いくもりのないものであり、2人が本心でそう言っていることがエルヴィスに伝わって来たのだ。恐らくエルヴィスはマシューたちに自分の過去を隠していたことを引け目に感じていたのだろう。大きな肩の荷が下りたかのようにエルヴィスは大粒の涙を流していた。
「え? 何で泣いているんだ? 俺変なこと言ったっけ?」
「……済まない。そんな風に言われると思って無かったんだ。嬉しい、……本当に嬉しいよ」
エルヴィスが突然涙を流し始めたことでレイモンドはかなり焦っていたのだが嬉し涙と知ると安心したように息を吐いた。大粒の涙を流していたエルヴィスは少し落ち着くと隠していた気持ちを少しずつ口に出し始めた。
「……初めて会った時のことを覚えているかい?」
「初めてって言うと……書庫の時か?」
「あぁ、そうだ。書庫であまり見ない人たちが白紙の本を読もうとしているのが気になって僕は君たちをちらりと見ていたのさ。すると君たちのうちの1人も僕を見ているようだった」
「……俺か」
「あぁ、見ていたのはレイモンドだったね。僕はクラーク家から追放された落ちこぼれ。人から見られることなんてしょっちゅうあった。だから今回も知らんぷりしてやり過ごそうとしたんだが、なぜだか話しかけに行ってしまったのさ。それがなぜなのか今も分からないや」
「俺は覚えてるよ。魔法について知りたかったからな。エルヴィスなら教えてくれそうだと思ったんだよ」
「……僕はそれが嬉しかったのさ。今まで僕は落ちこぼれとしか扱われ無かったからね。僕の過去を知らない故に僕のことを魔法の詳しそうな人として扱ってくれたことが何より嬉しかった。だから君たちの手助けをしようとその時思ったのさ。そして僕の過去を隠そうともね」
「失望されると思ったからか?」
「……あぁ。君たちが僕にそんなことを聞くのは僕の過去を知らないからだと思っていたからね」
レイモンドはそれを聞いて呆れたように笑った。エルヴィスからすれば自分の過去は知られてはいけないものであり、知られればすぐにでも失望されるものであるようだ。だがレイモンドはそうは思わない。過去がどうあれ今のエルヴィスを頼りにしているのだ。そしてそれはマシューも同じである。
「そんな風に思われていたとは心外だぜ。俺らはあんたが心からエレナを救いたいって思っていたからこそあんたの頼みを聞いたんだ。それに過去は一切関係無いね」
「俺も同じだな。エルヴィスが本気だったからこそ一緒に攻略しようって思ったんだ。……むしろ知恵の樹上を攻略する時は黄金の林檎をめぐって敵対してしまうのを気にしていたくらいなのにどうして失望するだなんて思っていたんだい? むしろ真逆だよ。俺たちはエルヴィス、君を心から信頼しているんだよ?」
マシューもレイモンドもエルヴィスをどう思っているのかを言葉にしたのだ。それは本心から生まれる信頼の現れであり、エルヴィスはそれを聞いて本心から嬉しく思ったのである。そして同時に自分が2人を信じられていなかったことを恥ずかしく思ったのだ。
「……あぁ、そうか。そうだろうな。……多分僕は心のどこかで君たちなら僕の過去なんて関係無いと言ってくれると思っていたんだ。でも、……同時に失望されたならどうしようと、……どうしようもなく怖かったのさ」