第6話 クラーク家の闇
読んでくださりありがとうございます。エルヴィスには壮絶な過去があったようです。
「……遺書には何と書いてあったんだ?」
「意味をなす言葉は何ひとつ書かれていなかった。その当時はその文字かどうかも分からない遺書のこともなぜ兄が自殺したのかも分からなかった。ただひとつ分かっていたことはもうこの世に兄はいないと言うことだけだった。そしてその日から僕にとっての地獄のような日々が始まったのさ」
「……」
最早2人とも言葉を出せなかった。それはそれほどまでにエルヴィスの過去に闇があると思っていなかった故である。そしてあくまでも淡々とそのことを話すエルヴィスがさらにその闇の濃さを加速させていた。
「クラーク家にとって兄が自殺したことは後継ぎがいなくなったことを示す。だから兄が自殺したその日から後継ぎの役目は僕に受け継がれた。……だがさっきも言ったように僕には騎士になる才能はどうしようも無いほど無かった。出来もしない訓練をただただ毎日毎日繰り返す。その日々は地獄と言って差し支えなかった。……そんなある日僕は家の書庫である本を見つけたのさ」
「……本?」
「そう、本。クラーク家の歴史と表紙には記されていた。……少し興味が湧いた僕はその本を部屋に持ち帰って読んだのさ。そこには表紙に書いてある通りクラーク家の歴史が事細かに記されていた。……クラーク家が抱える闇も含めてね」
「その闇ってのは?」
「……以前裏の世界の話をしたのを覚えているかい? アーノルド帝国の始まりの話だ」
「それなら覚えているよ。確か討ち取られる前に最初の魔王は力を部下に受け継いでいて、その受け継がれた魔王が作った世界だったよね」
「そして、そこからモンスターが送り込まれることになり今もなおその脅威が続くって話だったな」
ようやく知っている話が出て来たからだろう。マシューもレイモンドもスラスラとエルヴィスの質問に答えた。自分の話を覚えていることを嬉しく思ったのかエルヴィスはこの瞬間だけ満足そうに微笑んでいた。そしてすぐに顔を引き締めると話の続きを言い始めたのだ。
「そう、その通りだよ。そしてクラーク家が抱える闇はそのことが深く関わってくるんだ。……クラーク家は僕らの世界にやって来るモンスターの数を統制する役割がある。その役目を代々受け継ぎながら担っているのさ」
それを聞きながらマシューは首を傾げた。今のところ闇を感じる点が無かった故である。裏の世界から送り込まれるモンスターの数を制限するのは必要なことである。つまりその点において闇は感じられないのだ。
「……本来ならモンスターが送り込まれることは最大限防がなければならない。そうしないとモンスターで溢れてしまうからね。だから役割の名前としては制限と言った類の言葉になるはずなんだ。……だが、僕は今統制と言う言葉を使った。その意味が分かるかい?」
「……最大限防いでいる訳では無い?」
「そう言うことだよ。クラーク家は時にその役目を自主的に放棄することによって表と裏のバランスを保つことを使命としているんだ。そしてその役割を果たすために創設されたものこそが神聖の騎士団だよ。騎士団と名乗り帝国を守るために日々戦う騎士でありながら、帝国へ送り込まれるモンスターを時に野放しにする。神聖の騎士団ユニコーンはそんな組織だったのさ」
つまり神聖の騎士団は騎士団でありながら騎士でないあべこべな存在だと言う訳である。マシューはそれを聞きながらかつて見た白と銀の鎧を身に纏う神聖の騎士団の騎士たちを思い出していた。
「……これがクラーク家の抱える闇だよ。そしてそれを知ってしまった僕はその闇に蓋をするために牢屋に入れられたんだ」
「牢屋……? 聞く限りではエルヴィスには後継ぎの役目があったはずだ。それはどうなったんだ?」
「……僕には自殺した兄の他に妹がいてね」
「なるほど、エルヴィスの代わりに妹が後継ぎになった訳か」
「いや、多分違うな。妹がいるならエルヴィスが闇を知る前に後継ぎにしていたはずだ」
「……よく分かったね。そう、妹が後継ぎになった訳じゃない。僕が牢屋に入れられてすぐの頃妹が有望な騎士と結婚したのさ。その騎士の名前はアンガス。高貴な生まれで騎士の実力は申し分なく兄に匹敵するほどの人格者だと噂が牢屋まで聞こえて来たよ」
アンガス。その名前には聞き覚えがある。確か神聖の騎士団の副団長だったはずだ。エルヴィスの妹と結婚したと言うことは、アンガスは騎士団長であるガブリエルの義理の息子となる。ここでアンガスを後継ぎにすればエルヴィスはもう用済みである。故にエルヴィスは追放されたのだろう。
「……だからエルヴィスは追放されたんだな」
「あぁ。アンガスが後継ぎとなり僕はお役御免となって家から追放されたのさ。……しかもご丁寧に落ちこぼれの烙印を押した上でね。実の息子でありながら才能が無い故に後継ぎになれなかった可哀想な人。それが世間が知っている僕なんだ」
エルヴィスは自嘲するかのような笑みを浮かべていた。その表情から今までどれだけの扱いを受けて来たのかが読み取れた。ミゲルがエルヴィスのことを知っていたのも、そしてミゲルが言おうとしたことをいち早く制止したのも、これで全て理解出来るようになったのである。
「……失望しただろう?」