第1話 納品は午後から
読んでくださりありがとうございます。これより第3章の始まりです。
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帝都
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紅玉の森を出た4人はまっすぐ帝都へ戻って来ていた。昼の時間の帝都の門は出入りの人で賑わっている。それを横目で見ながら4人は帝都の門を潜った。朝早くから動いていたこともありかなり腹が減っている。マシューとレイモンドは早く緋熊亭に戻りたかった。
「……ふぅ。帝都に帰って来たね。マシューたちはこれからどうするんだい?」
「宿に戻って昼ご飯を食べるさ。もう昼だろ? 俺はさっきから腹が減ってしょうがないんだ」
「そうか、もうお昼なんだね。……それじゃあ討伐の証の納品は午後にしようか。僕も一緒に納品したいものがあるからギルドの近くで待っているよ」
エルヴィスのその言葉に笑顔で応えながらマシューは内心冷や汗をかいていた。また討伐の証の納品のことをすっかり忘れていたのである。
エルヴィスは知らないだろうが収納袋の中には嵐馬平原のものも入っている。お昼ご飯を食べたらすぐにギルドに向かうことを決意しながらマシューは先に行くレイモンドを追いかけたのであった。
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緋熊亭
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緋熊亭の扉を開けると何やらピリついた雰囲気である。恐る恐る様子を伺うとカウンターの奥にはかなり怒った顔のポーラがいた。そしてよく見てみるとカウンターの端でぱバーナードが小さくなっている。なるほど、どうやらバーナードがまた何かやってしまったらしい。
「おや、お帰りなさいませ。お昼はどうされますか?」
「……お願いします」
「かしこまりました。それでは作って来ますので食堂でしばらくお待ちくださいませ」
そう言ってポーラは笑顔でキッチンへ入って行った。2人に気遣わせないために笑顔で対応したのだろうが先程のピリついた雰囲気を見ているだけに逆にその笑顔が怖いのである。
「……何やったの?」
「……こっそりタバコを買ったのがバレた」
「買うだけで? 他に何も無いの?」
「……手持ちの金が無くて、つい……売り上げから……」
なるほどバーナードは自分のお金では無く緋熊亭の売り上げ金を使ってタバコを買ったらしい。それなら怒られるのも無理は無い。これを機に禁煙でもしてみたらどうだと言おうと顔を上げたマシューは思わず苦笑いを浮かべた。
「……【着火】。……ふぅ、全く悪いことはするもんじゃないな。そういえばあんたら朝から出てたみたいだけどどこへ行っていたんだ?」
「紅玉の森だよ」
「あぁ、黄金の林檎があるって言うあの森か。あんなもの手に入れたらそりゃあ良いだろなぁ。きっと売ればタバコが買い放題だぜ」
「ごはっ」
いきなりバーナードが黄金の林檎の話をしたためだろう。レイモンドは思わずむせてしまった。幸いバーナードはそのことに気付いていないようでただただ美味そうにタバコを吸っている。
これ以上ここにいると自分たちが黄金の林檎を手に入れたことを言ってしまいそうだ。さすがにタバコ代にされたくは無いので2人はそそくさと食堂へ向かった。食堂の中には誰もおらず電気すらついていなかった。
2人は電気をつけて手近な椅子に座ろうとしたその時、後ろから何かが高速で激突したような音がした。何かあったのだろうかと怪訝に思っていると食堂の扉が開き1人分のお昼ご飯を持ったポーラが現れたのだ。
「すみません、ちょっと持てませんでしたので一つずつ運びますね」
見るとポーラはトレーに丼を載せていた。確かにこれでは2つ運ぶのは難しいだろう。マシューは立ち上がりポーラから丼を受け取るとレイモンドの前に置き、自分の分を取りに行こうと席から離れようとしたのだ。だがそれに気付いたポーラはすぐに制止し口を開いた。
「バーナードがじきに持ってきますので座ってお待ちくださいませ」
そう言ってポーラは食堂を去って行った。何故か少し怒っているようにも見える。マシューに心当たりは全く無いが、言われるがまま席に座ることにしたのだ。すると前に座るレイモンドが険しい表情をしているのが見える。いったい何かあったのだろうか。
「どうした?」
「……気付いたか? ポーラの右の手のひら、少し赤くなってたぜ。と言うことはさっきの大きな音は……」
レイモンドがそこまで言ったその時、食堂の扉が開き丼の載ったトレーを持ったバーナードが現れたのだ。その左の頬は心なしか赤くはれて見えた。
「へい、天丼お待ち」
「……」
この様子から考えるに恐らくバーナードはポーラに思い切り引っ叩かれたのだろう。売り上げに手を出してタバコを買ったことを怒られたと言うのに反省するばかりかすぐにそのタバコを吸っていたからに違いない。
さすがのバーナードもどうやら反省している様子だ。これを機に禁煙をして欲しいと願いながら2人はお昼ご飯の天丼を腹一杯に頬張ったのであった。
腹を満たした2人はすぐにギルドへ向かった。緋熊亭に着いてすぐにお昼ご飯を食べたことや特に寄り道をしていないことからエルヴィスよりも早く着くだろうと2人は思っていたのだが、2人がギルドへ着くと先に到着していたエルヴィスが手を振っているのだ。
「……早いね。お昼ご飯はちゃんと食べたのかい?」
「ははっ。……もちろん、ちゃんと家で食べてきたよ」
「エレナはいないのか?」
「エレナは疲れたから寝るんだってさ。……それじゃあ中へ入ろうか」
「おや? そこにいるのはマシューとレイモンドじゃないか?」