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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第2章 知恵の果実は近くもあり遠くもある
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第35話 正しい道はどれだ

 読んでくださりありがとうございます。試練の開始です。


「……これを攻略しなければならないのか」


「そうみたいだね。……まさか部屋全体が迷路になってしまうとは」


 エルヴィスは険しい表情で目の前の光景を眺めていた。作り上げられた迷宮の灰色の壁は天井まで届くほど高く中に入ってみないとどのように道が続いているのか全く予想がつかない。


試練が始まったと言うことは目的である黄金の林檎はもう目の前であると言うことではある。試練さえ達成出来れば手に入るのだからその試練で戦闘が課されないことをまずは素直に喜ぶべきである。だが、だからと言って試練の難易度が下がった訳では無いのだ。目の前に広がる迷路は恐らく複雑に入り組んでいて適当に進んでいては到底たどり着けないだろう。


「ここであれこれ考えても仕方ないね。まずは中に進んでみよう」


 いち早く行動に移ったのはマシューである。マシューは入り口で留まることを無意味と判断して他の3人にも中へ入るよう促したのだ。4人が迷宮の入り口へ入ると退路を断つかのように入り口が閉まり、先程いた場所には戻れなくなってしまった。


「……なるほど、全ての道をしらみ潰しにして行くことは出来ない訳か」


「一度進めばもう戻れないと思った方が良さそうだね。……出来れば戻れた方が良かったんだけど」


 そう言うマシューは渋い表情である。どうやらソフィアと名乗ったあの老人は案外意地悪のようだ。迷宮へ入った4人を待ち受けていたのはいきなりの分かれ道であり、しかもそれは4方向に分かれていたのだ。


「……進めば戻れない状況で分かれ道とはね。しかもご丁寧に4つに分かれている」


「何かヒントでもあれば良いんだが、清々しいほど何も無い。……これじゃあ勘で選ぶしか無いな」


 そう言うレイモンドの声にはため息が少し混じっていた。目の前には全員分かれてちょうどの分かれ道があり、それ以外は何も無いただの壁である。かなり厚みがあるようで手持ちの武器ではとても壊せそうにない。


つまり今全員が取るべき行動はそれぞれ道を選んで進むことしか無いのだ。そして肝心のその道を選ぶ根拠も何も無いのである。ただ思いつきで選ぶしかない。《知恵》の象徴をめぐる試練にしては頭を使う要素が見当たらなかった。レイモンドの言葉にため息が混じっていたのもそのせいである。


「……引き返せないんだ。ひとまず進むしか無いだろう」


「進む道はどうやって選ぶ? 恐らく黄金の林檎にたどり着くルートはこの中でひとつだけだ。道選びは慎重にするべきだと思うぜ」


「ひとまず今は好きな道で良いんじゃないかな。どうせ道は4人分に分かれているんだ。どの道を選んでも誰かは黄金の林檎にたどり着くさ」


 エルヴィスはそう冷静に分析してみせた。判断材料が少ないので判断が難しいがマシューもエルヴィスの言うことに概ね賛成である。エレナも無言で頷いた。レイモンドにも反対する理由は無い。渋々ながら納得したレイモンドは真っ先に選んでしまおうと正面の道を指差した。


「好きな道で良いんだろ? なら俺はこの道を進もう。なんとなくこの道が正しい気がするんだ」


「それなら私はこの道かな」


「……僕はこの道かな」


「なら俺はこの道を進もう」


 運の良いことに誰の希望も被っていなかった。それぞれ正面に道があったからだろうか、すんなり進む道が決まったのである。まだ迷宮に入って分かれ道以外見ていない。自分たちがそれぞれ選んだこの道が正しいのか現時点では何も分からなかった。ただ確かなことはこの道の中のどれかが黄金の林檎に続いているであろうと言うことだけである。


 この道は果たして正しいのだろうか。そしてこの先は一体どんな迷路が続いているのだろうか。自分で決めた道な癖に少し不安に思う気持ちと道の先を楽しみに思う気持ちとが複雑に混じり合って少しむず痒い。無意識のうちにマシューは微笑みを浮かべていた。


 進もう。進むしか無いのだ。自分が黄金の林檎にたどり着く可能性がある限り。


 気持ちの整理をつけたマシューは前だけを見据えて迷宮の続きへと足を踏み出した。そしてそれに続くようにして他の3人も前に進み始めた。そして4人の中で最も遅く足を踏み出したエレナが完全に進み終わった瞬間、4つの分かれ道の入り口うちの3つが封鎖された。誰も振り返らなかったためそのことに誰も気付かなかったのである。




「……しかし今どの辺りを進んでいるか分かりにくいな」


 進みながらレイモンドは少し不満そうである。曲がり角が多く同じような道が続くため自分がどれくらい進んだのか分かりにくいのだ。しかしそんな愚痴をこぼしながらレイモンドは少しにやけていた。実はレイモンドが真っ先に目の前の道を進むことに決めたのには理由があったのだ。


 ゆっくり歩きながらレイモンドは鼻に神経を集中させていた。先程から漂う匂いが強くなって来ている。そのことがレイモンドのテンションを高めさせていた。レイモンドが感じ取っているのはタバコの匂いである。そう、レイモンドは黄金の林檎ではなくその前にいるソフィアのところへ行こうとしているのだ。


 にやける顔を抑えながらレイモンドは曲がり角を道なりに左に曲がった。まだ迷路は続いていた。攻略はまだ先のようだ。だがそれも時間の問題である。大分進んで来ておりそろそろたどり着いても良い頃なのだ。曲がり角を曲がる度にレイモンドの期待はどんどん膨らんでいた。


 だがレイモンドは一転してテンションを落としてしまう。目の前の曲がり角を曲がろうとしたその瞬間人影が見えたからである。もちろんソフィアでは無い。困惑した表情で近づいて来るエルヴィスをレイモンドは苦笑いで迎えたのであった。


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