第34話 祠へと続く道
読んでくださりありがとうございます。これで全員落ちました。さてこの場所はどこに続いているんでしょうか。
「エルヴィスとエレナは?」
「さあな。……まあ、待ってれば来るんじゃないか?」
そう言いながらレイモンドは前に歩き始めていた。明かり越しに見えている景色が気になって仕方無かったのだろう。腕を組み見た目はかなり冷静に見ているようだがその目の輝きは誤魔化しきれない。
マシューはレイモンドの顔を見てにこりと笑った。その時再び上空から何かが滑り落ちるような音が2つ響いて来た。エルヴィスとエレナである。2人は滑り落ちてくると目の前に広がる景色に気が付き呆気にとられていた。
そしてエルヴィスは上空を見上げ何かを確認したかと思うと真剣な表情でマシューを見つめた。どうやら何かに気が付いたようだ。
「……エルヴィス。何かに気付いたのか?」
「ああ。これはほぼ確信に近い僕の想像なんだが……。この通路は紅玉の祠の真下を通るんじゃないか?」
「そうだとしたらどうなるんだ?」
レイモンドはそう言われても何もピンと来ていない。そしてそれはマシューも同じである。紅玉の祠の真下に繋がっているとして、何の意味があるのだろうか。
「もしかするとここが正規の道順かもしれないって訳さ」
「黄金の林檎を入手するための?」
「恐らくね。……とにかく進んでみようよ。進めばきっとここがどこに繋がっているか分かるはずさ」
エルヴィスのその言葉に3人は頷き明かりを持つマシューを先頭に荘厳な雰囲気の通路を歩き始めた。数十メートルほど歩いただろうか。やがて4人は明かりの灯った広い空間へ出たのである。
数段の石段を降り4人は石の床で作られた舞台のような場所にたどり着いた。エレナはここに来るのが初めてである故だろう。周囲の様子を見渡しどこか落ち着きがない。そして逆にエルヴィスはただ一点を見つめていた。それはマシューとレイモンドも同じである。
奥に見える台座には黄金の林檎が漂っていた。その場所は唯一の明かりが灯されている場所であり一際目立っていたのだ。そしてその台座に寄りかかるようにして見覚えのある人物が座っていたのである。以前会った時同様彼はパイプタバコをゆっくりと楽しんでいた。
「ふむ、やはりお主たちならここにたどり着くと思っていたよ。……そこにいるお嬢さんがお主が言っていた助けたい人かな?」
「……私⁈」
自分の話が来ると思っていなかったのだろう。エレナは少し声が裏返ってしまっていた。無理もないだろう。目の前の人物と他の3人が会ったのはエレナがいない時である。そのことを知らないのも、それを言われて驚くのも当たり前である。エレナにそのことについて説明しても良かったが、マシューは老人に質問をぶつけることにしたのだ。聞きたいことは山ほどあるのだ。
「……あなたは何者なんです? それになぜ黄金の林檎がこんな場所に?」
「ふふ、何もかも聞きたくなる気持ちは分からないでもない。……じゃが急いで前に進んでも何も生まないのはお主がよく知っているだろう。なにせこの《知恵》の象徴は目の前にあるようで目の前に無い代物じゃからの」
4人とも老人が何を言っているのか分からなかった。明らかに目の前に見える黄金の林檎が目の前に無い代物だと言うことが理解出来ないのだ。やがて老人はゆっくりと立ち上がった。
「……さて、そろそろ試練を始めようかの。私がお主たちに課す試練は簡単明瞭。私の真後ろにある黄金の林檎を手に取るだけだ。その試練に打ち勝ちし時お主たちは晴れてこれを受け取る資格を得る」
やはりこの場所は試練の台座らしい。そして試練を課す者は目の前のこの老人のようだ。課された試練を達成すれば黄金の林檎を手にすることが出来る。それならば課される試練は言葉通り簡単明瞭では無いはずだ。そう思ったマシューとレイモンドは真剣に老人を見ていた。
「……覚悟を決めているようだな、良い表情じゃ」
「当たり前だよ。……あなたを倒して試練を達成させてもらおう」
「……ふむ、少し勘違いしておるの。私は戦闘はせんよ。こんな老いぼれ大した試練にはならん」
予想だにしない返答にマシューとレイモンドは困惑してしまった。てっきり目の前のこの老人と今から戦うと思っていたからだ。だが実際老人には戦う気は無かった。それならばここで課される試練とは一体何なのだろうか。その疑問が頭の中で渦巻き答えは決して浮かばなかった。
そんなマシューたちを見て老人は微笑み懐から杖を取り出して掲げた。何をするつもりだと4人はそれぞれ武器を構えた。だがそれは何の意味も無い行動なのである。これから発動される魔法を防げなかったのだから。
「……【迷宮構築】」
掲げられた杖から凄まじいほどの魔力が解放された。その魔力は空間全体に広がり見る間に次々と高い壁が構築されていったのだ。こうして【迷宮構築】の効果により瞬く間に4人と黄金の林檎との間に複雑な迷路が出来上がったのである。
「これは……」
「正しき道に進めば自ずと道は開かれるものじゃ。《知恵》の象徴を手に入れるに相応しい人間か、見定めさせてもらおう。……さて、それでは試練を始めようぞ。私の名前は賢者ソフィア、試練を与えるものなり。勇気ある者よ、お主の《知恵》を私に示すのだ」