第3話 モンキーパーク⁈
読んでくださりありがとうございます。モンキーパークとはいったい…?
「……トウエンの森にモンキーパーク? 何だか楽しそうな名前だな。見た目はただの森っぽいし、とてもそんな楽しそうな名前の場所であるとも、厄介な場所であるとも思えないけど……」
マシューは首を傾げながら森をじっと見ていた。通り抜けた向こう側がここから確認出来ない程には大きな森であるらしい。そのため日が落ちれば通り抜けることは難しくなるだろう。
とは言えまだ日が落ちるには早く、とてもこの場所がそれほど恐ろしい場所には思えなかった。……もっとも楽しそうな場所にも思えないのだが。レイモンドの表情は真剣なものでありそこに嘘や偽りは感じられない。
「見た目はただの森だが、ここにはとあるモンスターが潜んでいるって言う噂だ」
「……さっきもそんなこと言って警戒してたけど、結局何のモンスターにも遭遇しなかったじゃないか」
「あぁ、運良くな。遭遇した時に警戒してないより警戒してたら何にも遭遇しなかったことの方が良いだろ? ……俺らは戦闘の経験が浅すぎる。闇雲に進んで遭遇し続けるより遥かに生存率は高いはずだぜ?」
「まあ、それはそうなんだけどさ。……ええと、それでどんなモンスターがいるんだい?」
マシューがそう問いかけるとレイモンドはニヤリと笑うと図鑑を取り出していた。それを見た瞬間マシューは少し首をひねった。どこから図鑑を取り出したのかまたも見逃したからである。
実は出発する時にもこの図鑑を見ているのだ。つまりレイモンドがこの図鑑を取り出すのはこれで2回目となる。遭遇するモンスターを対策するために持ち歩いているのだろうがマシューはレイモンドがこの図鑑をどこから出しているか見逃している。
「……この図鑑によれば、闘猿の森にはゴブリンやコボルトの目撃報告がかなり多いらしい」
「なるほど、ゴブリンやコボルトか。それじゃあさっきまでの道でも遭遇の可能性があるモンスターだな」
マシューたちが住んでいた田舎町からこの闘猿の森までの道のりにもゴブリンやコボルトは出現する。それらは比較的簡単に倒せるモンスターではあるが、帝都まで無事に辿り着くためにも無闇に遭遇しない方が良いのだ。故に10分程度の道のりを30分もかけて慎重に進んだのだ。
「あぁ、それだけなら普通の道とそう変わらない。ただ、闘猿の森はコイツらを軽くあしらえるくらいじゃないととてもじゃないが通過は出来ないらしい」
「……当然他にモンスターがいるんだよな」
「あぁ。……ここにはエイプ種と呼ばれる知能の高いモンスターが寝ぐらとしているらしいんだよ。奴らは1体1体がそれなりに強くそして群れる。なるべく見つからずに森を通過したいところだ」
「……なるほどね。それじゃあなるべく見つからないよう今まで以上に慎重に進んでいく。……これで良いか?」
「まあ、良いだろ。慎重に行きたいがあまり悠長にはしていられない。日が落ちると一気に暗くなるからな。作戦名は“慎重かつ大胆に“だ! ……(これから先は小声で話すぞ)」
「(了解。それじゃあ出発しようか)」
マシューを先頭にして2人は闘猿の森へと足を踏み入れた。膝にかからないくらいの高さの草が全域に渡って生えており、剣と盾以外の装備を持ち合わせていないためただの布のシャツとズボンで通行せざるを得ない2人にとってはやや逆風である。
「(……中々進みづらいな)」
「(我慢しろ。この森を越えないと帝都には行けないんだ。早いとこ森を抜けて装備を買わないとな。……このお金でね)」
レイモンドは得意気に腰に下げている革袋を指で弾いてみせた。マシューは中まではまだ見てないがハンナに渡された革袋の中には相応にお金が入っているだろうことは分かる。得意気にしているレイモンドを見たからだろうか、マシューは森の中だというのに少し笑みがこぼれた。
「……(! ……前方にモンスターがいるな。……ゴブリンが1体か?)」
前を歩くレイモンドがモンスターの気配にいち早く気付き手を上げた。草むらと木の影に隠れつつ様子を伺うとどうやらゴブリンが1体辺りを見渡しながら歩いている。見渡していると言っても周囲を警戒している訳では無く、どちらかと言えば食料を探しているようである。
「(気付かれては無さそうだね。……どうする?)」
「(……どうするって?)」
「(気付かれてないんなら無視して通過するのも手なんじゃ無い? さっき君は自分で言ってただろ? なるべく遭遇はしたくないって)」
どうやらマシューは遭遇したゴブリンと戦わずに進むことを考えていたようだ。確かに装備がまだ手薄で戦闘経験が浅い2人にとっては比較的弱いモンスターであるゴブリンも戦闘が避けられるなら避けた方が消耗は確実に抑えられる。
だがそれはあくまでも気付かれ無かった場合の話である。進みにくい道で気付かれないよう俊敏に動くのは難しい。通過している途中で気付かれては全く意味が無いのだ。
「(……いや、ここは戦っておこう。この感じなら位置取りさえ上手く行けば気付かれずに倒すことが出来る。ここはひとつ大胆に行こうぜ)」
「(了解。……それじゃあどの辺りで待ち構えようか)」
「(……あの辺りで良いんじゃないか? 隠れやすそうだ。二手に分かれよう)」
そう言ってレイモンドはとある地点を指差した。その場所は周囲と比べて太めの幹をした木が数本あり、見つけたゴブリンの進行方向と重なっており隠れて攻撃するには絶好の位置と思える。
2人はゴブリンに気付かれないように注意しつつ目指す隠れ場所まで急いで移動した。ゴブリンには気付かれていない。相変わらず見つけたゴブリンは食料を探して辺りを見渡している。そのことに安心してマシューは一つ息を吐き別の木の影に隠れたレイモンドの様子を伺った。
レイモンドも同じように隠れることが出来たようだ。満足そうに口角を上げているのが見える。マシューはレイモンドの表情を見て微笑むと再びゴブリンへ視線を戻そうとして視界の端にあるものを捉えた。
「マシューっ! 伏せろ‼︎」
レイモンドの声が響く。目と耳を最大限使って素早く反応したマシューだが不意の攻撃に対して剣で防ぐのが精一杯である。硬い物質と剣がぶつかり合う音が静寂を切り裂いた。