表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第2章 知恵の果実は近くもあり遠くもある
74/234

第26話 エマの願い

 読んでくださりありがとうございます。感動の対面ですね。


「ママ、ごめん。心配かけたね」


「良いの。あなたが無事なら私はそれで充分よ」


 そう言いながらエマは目の辺りを拭っている。どうやら涙ぐんでいるようだ。そんなことをマシューが考えていると突然横から間抜けな音が鳴った。感動の場面を見ているにも関わらず、すっかり気が緩んでいたのだろうかレイモンドの腹が鳴ってしまったのだ。


 それを聞いてエレナもエマも吹き出して笑っている。それを見てかレイモンドは恥ずかしそうに下を向いていた。ふとマシューは階下から美味しそうな料理の匂いがただよって来ているのに気が付いた。なるほど、この匂いをかいでレイモンドは腹を鳴らしたらしい。


「やっぱり冒険者さんなら鼻が利くのかしらね。……あなたたちが来た時、エレナの病気が良くなると思って張り切ってちょっと遅いけどお昼ご飯を作ったのよ。……エレナ、あなたの好きな物よ」


「え! 本当?」


「ええ、食べに降りていらっしゃい。あなたたちがご飯を食べているのかがちょっと不安だったのよ。もし食べていたのなら要らないお世話になっちゃうからね。……だけど、心配いらないみたいね。一緒にお昼ご飯にしましょう」


「良いんですか?」


「もちろん! たくさん作ったから遠慮せずに食べてちょうだい」


 そこまで言われて断るのは最早失礼である。レイモンドのように腹こそ鳴らないもののマシューも相当腹を空かせていたのだ。顔からは分からないがエルヴィスもそうだろう。エマに呼ばれた4人は急いで1階に降りてエマの作ったお昼ご飯を腹がはち切れるほどに楽しんだのである。


「エレナ。……あなたにひとつだけ聞いていいかしら」


 食事を終え箸を置いたエマがエレナをまっすぐ見てそう言った。その顔には誤魔化すことを決して許さない圧が感じられた。出来ることなら逃げてしまいたいくらいだが、それを拒むことは出来ないだろう。


「……ひとつだけって?」


「あなた、……もしかしてマルクを探しているの?」


 その質問にエレナの息が一瞬止まった。実はエレナはエマに何も言っていないのである。そのため彼女はエレナがどこで何をしているのかを一切知らないのだ。だが石化して帰って来たことからエマはエレナの行動について何となく見当がついたのだろう。


 それにしては、とマシューはわずかに首を傾げた。同じくレイモンドも不思議そうな表情をしていた。エレナは返答に迷うかのように一度目を伏せてから顔を上げた。その目には覚悟が宿っていた。


「……そう。パパが今何をしているか知りたいの。だから、……だから。私を止めないで欲しいの」


「……そうだと思ったよ。大丈夫、私はあなたを止めはしないわ」


 エレナの言葉にエマは微笑んでそう答えた。意外なその返答にエレナは戸惑いを隠せない。エレナはエマに止められると思っていたが、エマにはその気は無いようだ。エマは立ち上がるとゆっくりとどこかへ歩いていった。


 しばらくしてエマが4人のもとへ帰って来た。その手にはとある写真か握られていたのだ。それを全員によく見えるようにエマはテーブルの上に置いたのである。その写真には若い男女の姿が写っていた。


「これは……?」


「私とマルクよ。……この写真はエレナが生まれる直前かしらね」


 そう言われると写真に写る若い女性はエマに似た人に見える。だがすぐには信じられなかった。なにしろその女性は魔法使いを思わせる大きな白いローブの下に重そうな鎧を着ていたからである。


「これエマさんなんですか⁈」


「ええ、私よ。内緒にしていた訳じゃ無いんだけど、実は私も冒険者だったのよ。と言っても随分昔のことだけどね」


 そう言ってエマは懐かしそうに写真を見ていた。その顔からはかつて冒険者だったとは思えないのだが、確かに写真に写る女性は冒険者であるとすぐに分かる強者の表情をしていた。そしてエマは顔を上げまっすぐエレナを見つめて口を開いた。


「だからね、エレナ。あなたの気持ちはよく分かるわ。私だってマルクが今何をしているのか知りたくて仕方ない。だから止めない。……大丈夫、あなたならきっと辿り着けるわ。素敵な仲間もいるみたいだしね」


 そう言ってエマは3人をゆっくり順番に見ていった。まるでそれは3人にエレナを託すかのように思え自然と背筋が伸びた。


「エレナは僕たちが守ります。エマさんはゆっくり待っていてください」


「ええ、頼んだわよ。……エマ、精一杯頑張るのよ。後悔なんて許さないからね」


「うん、頑張る。私精一杯頑張るよ!」


 エレナはエマの言葉に笑って答えた。そんなエレナを見てエマもまた笑っていた。そうして送り出されるのだから自分たちも失敗出来ない。そう思いマシューとレイモンドは口には出さずとも覚悟を決めたのであった。


「よし、それじゃあ明後日から知恵の樹上の攻略を始めよう」


「明後日? 明日からじゃないのか?」


「このまま攻略しに行くよりもしっかり準備してからの方が絶対に良い。あそこはコカトリスを始め厄介なモンスターがいっぱいいるからね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ