第24話 勇者伝説
読んでくださりありがとうございます。エルヴィスは賢いのです!
レイモンドは素直にエルヴィスを称賛し始めた。ここまで言い当てられれば隠し通すことは無理である。それにエルヴィスは共にダンジョンを攻略した間柄である。それ故にレイモンドは信頼しても良いだろうと判断したようだ。
「……これはあくまでも予想に過ぎないから、君たちがそんな風に肯定すると本当のことになってしまうよ?」
「そうは言っても、……本当のことだしなぁ。そこまで言われると否定も出来ないぜ」
「ならば君たちは本当に象徴を探しているのか⁉︎」
エルヴィスは驚きと期待が入り混じった表情である。なぜエルヴィスがそんな表情をしているのか2人には分からなかった。ふとエレナの様子を伺うと彼女は希望を見るかのような表情で2人を見ていたのだ。
「……ちょっと待ってくれ、まず俺たちは確かに象徴を探している。だが、それがどうしたって言うんだ。……まさかエルヴィスたちも象徴を探しているのか? だって黄金の林檎は《知恵》の象徴なんだろう?」
「少し違う。僕……と言うよりはエレナの目的になるのかな。彼女は父親を追いかけているのさ」
「父親?」
「ええ、そうよ。私の父はマルクと言って実は5年前、時の勇者様と共に戦っていた勇敢な戦士だったのよ。でも勇者様は志半ばで消息を絶ってしまった。そして仲間である私の父も修羅の国へ行ったきり行方不明になっているの」
マシューとレイモンドは静かにエレナの話を聞いていた。だが、知らないことが多くエレナの言っていることの半分も理解出来なかった。そもそも当たり前のことのように使われている時の勇者様がどういう存在なのか2人は知らないのである。
「ええと、時の勇者様と言うのは……誰だ?」
「あぁ、そうか。それを知らなかったら何のことだか分からないよね。……それじゃあまず僕らが今いるアーノルド帝国の始まりの話をしようか。アーノルド帝国は昔凶暴なモンスターが蔓延る危険な場所で、それらのモンスターを統べる魔王がその地を支配していたんだ」
「魔王?」
「そう、魔王。魔物を統べる王様だから魔王と呼ばれている存在だよ。長らく魔王の支配下にあったこの地に約300年前のある日初代の勇者様が生まれたのさ。初代勇者様はとても勇敢な人で立ちはだかるモンスターを次々になぎ倒してついに魔王を討ち取ったんだ。そしてその場所に国を作ったんだ。勇者様の名前を取ってその国はアーノルド帝国と呼ばれるようになったんだよ」
「へぇ、それは良い話だ。それがアーノルド帝国の始まりの話ならその後時の勇者様の話に続くんだよな?」
「まあ、そう慌てない慌てない。まだアーノルド帝国の始まりの話は終わってないんだ。魔王は討ち取られる寸前に自分の力を部下に継承させていたらしくてね。そいつが次の魔王となり今度は裏の世界を作り上げたんだ。そして今もなお裏の世界からモンスターを送り続けている……。これが今もなおモンスターの脅威が残るアーノルド帝国の始まりなのさ」
これでアーノルド帝国の始まりの話は終わりのようだ。言い終わったエルヴィスは満足気な顔である。これで2人はアーノルド帝国の始まりについて理解したことになる。だが、それはあくまでも前段階。2人はまだ5年前にいたと言う勇者様について分かっていないのだ。
「それじゃあその……時の勇者様? ってのは誰なんだい?」
「ん? あぁ、そうか。始まりの話をして満足しちゃったよ。ええと、時の勇者様についてだね。さっき説明した裏の世界の脅威は今に至るまで続いている。だからそれに抵抗するために勇者様の力もまた受け継がれて来たのさ。今から5年程前になるのかな? 勇者様の力を受け継いだ高名な魔法使いが現れたんだよ。そしてその方はエレナの父親であるマルクさんを含めて4人で次々とモンスターを討ち取り魔王まで迫るかとも言われた」
「……その人が突然消息を絶ったと」
「そう、その通り。勇者様は突然行方知らずになってしまったんだ。そして勇者様の仲間も誰ひとり行方を知らなかった。まるで元からそんな存在がいなかったかのように。そしてそのタイミングでマルクさんが修羅の国へ行ったきり行方が分からなくなったんだ」
「それでエマは修羅の国に行こうと?」
「そう。でもね、修羅の国の入り口は閉ざされていて通れない。恐らく何か特別な何かが必要だと思われるの」
「だからまず僕たちは《知恵》の象徴である黄金の林檎を手に入れようとしているのさ」
ここまで聞いてようやくマシューたちにも話が見えて来たのである。確かに《知恵》の象徴があれば修羅の国の入り口を通るための方法が思い浮かぶのかもしれない。それを分かった上で手に入れようとしているのか確かめるためにマシューはエルヴィスに向けてあることを聞いてみることにしたのだ。
「エルヴィス、象徴を手に入れれば何か良いことがあるのか?」
「もちろん。黄金の林檎がもし手に入れば相応の対価があるのさ。《知恵》の象徴だから、もし僕が手に入れれば勇者様くらい高名の魔法使いになれるかもね。そしてその知恵があれば……」
「修羅の国への行き方も分かる?」
「……少なくとも僕はそう考えている。だからこそ無理をしてでも黄金の林檎を手に入れようとしていたんだからね」
エルヴィスとエマがどれほど黄金の林檎に情熱をかけているのか2人には伝わって来た。それはもしマシューたちが手に入れたとしても譲ってあげたいと思える程である。だがそれをするには確かめるべき大切なことが残されていた。
「……エルヴィスは象徴について詳しいんだろう? 良ければ他の象徴について教えてくれないか?」