第22話 石化から復活するとき
読んでくださりありがとうございます。エレナの石化の呪いをなおせるようです。
「あら、今日も見舞いに来てくれたの?」
扉を開けて3人を出迎えたエマは少し驚いた表情である。なにせ3人は昨日来たばかりなのだ。それによく見ると3人は少し疲れているような様子である。だがそれ以上に3人はどこか嬉しそうな表情であった。
「いや、見舞いに来た訳じゃないんです」
「……え? ……まさか」
「……2階に上がりますね」
エルヴィスはそう言って静かに階段を上がっていった。2人もそれにならって静かに階段を登った。その途中エマが急いでキッチンへ向かおうとしているのが見えた。ちらりとしか見えなかったが確かにその時エマは嬉しそうな表情であった。
軽くノックをしてからエルヴィスはエレナのいる部屋の扉を開けた。当たり前だが昨日と同じようにエレナは少し右手を上げてベッドに腰掛けていた。
「……、マシュー【解呪】をエレナにかけてもらう前に君にこれを」
「魔力回復薬?」
エルヴィスがマシューに差し出したのは魔力回復薬である。ダンジョンを攻略した帰りとは言えまだマシューは魔力切れを起こすほど消耗はしていない。受け取りながらマシューは首を傾げていた。
「……中級魔法は初級魔法よりも多くの魔力を必要とする。君がどれだけの魔力を持っているのかは知らない。代わりに僕が知っていることは【解呪】を発動させるには相応の魔力が必要なことだ。……ダンジョン帰りで消耗しているだろうから発動する前に飲んでくれ」
エルヴィスはマシューの魔力切れを心配しているようだ。確かにマシューは【解呪】の発動に必要な魔力を把握していないし、エルヴィスはマシューの魔力量を把握していない。ならば先に魔力を回復しておく方が無難だろう。マシューはエルヴィスに感謝し貰った魔力回復薬を一息に飲み干した。
「ふぅ、……それじゃあ発動させるよ。……【解呪】」
マシューはエレナに向けて右手をかざし【解呪】を発動させた。淡くあたたかな光がエレナを包み込んだ。そしてエレナの肌の色がどんどん色味を増していったのだ。あんなにも青白かった肌がみるみるうちに健康的な色合いへと変化したのである。そしてエレナは数回瞬きをしてからゆっくりと動き始めた。
「……ここは、……私の家? 私は……石化していたの?」
「あぁ。……そうだよエレナ。やっと、……やっと石化を直すことが出来たんだよ」
張りつめていた糸が切れたようにエルヴィスの頬には何度も何度も涙が伝ったのだ。それを見ながらマシューとレイモンドの2人は優しく微笑んでいた。
「……そうか、思い出して来た。……私はエルヴィスと一緒に知恵の樹上に行ったんだ。そして、その途中でコカトリスに遭遇したのか。……エルヴィス、あれからどれくらい時間が経った?」
「二月だよ」
「……なら【解呪】くらいじゃないとなおせないんじゃないの? エルヴィスはまだ中級回復魔法は覚えていなかったでしょう? それなら別の人に頼むかダンジョンを探して攻略するしか無いけど……、あら? ええと、エルヴィスこの人たちは誰?」
記憶を取り戻すため真剣に考えていたためだろう。エレナは中々マシューたちの存在に気付かなかった。ようやく気付いたものの当然エレナにとっては知らない人になる。エレナは少しも考えることなくエルヴィスに2人は誰かたずねたのだ。
「エレナにも紹介しよう。マシューにレイモンドだ。この人たちも君を助けるために頑張ってくれたんだ」
エルヴィスにそう紹介されやや照れるようにマシューは頭を下げた。レイモンドはしきりにマシューの方に顔を向けている。人見知りでは無かったはずだから恐らくマシューが頑張ったのだとアピールをしているのだろう。
「初めまして、私はエレナ。エルヴィスの幼馴染の魔法使いよ。……石化した状態で人に会うのは中々恥ずかしいね」
そう言ってエレナは照れ臭そうである。確かに魔法使いが石化するのは滅多に無いことである。こうした状態異常への主な対抗手段は回復魔法であり、魔法使いなら適性の差はあれど誰しも何らかの回復手段を持っているはずなのだ。それなのに石化したと言うことは見通しの甘さや自分の魔法の至らなさを示していると言うことになり魔法使いであるエレナは恥ずかしさを感じるのだ。
「そうだ、エレナ。君にこれを」
「……これは、この本をどこで⁈」
エルヴィスは収納袋から分厚い本を取り出すとエレナに手渡した。手渡したのはもちろん中級回復魔法が覚えられる本である。表紙を見たエレナは今まで見た中で一番驚いた表情を浮かべた。
「ダンジョンを攻略したのさ。……君のためにね」
「これが手に入ってるってことはダンジョンの番人を倒したってことね。……これがあれば知恵の樹上も楽に攻略出来たかも……」
そう言ってエレナは何かを考え込み始めた。エルヴィスは何を考え込んでいるのか分かっているようだがマシューとレイモンドの2人にそれは全く分からなかった。そもそも時折出てくる知恵の樹上が何なのかすら分からないのである。少しの間を置いて、レイモンドはエルヴィスにそのことをたずねることにしたのだ。
「ええと、……知恵の樹上って?」