第20話 向かった先は古い家
読んでくださりありがとうございます。3人は帝都に戻ってきました。
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帝都
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3人は何事もなく紅玉の森から帝都へ戻って来ていた。マシューとレイモンドはこれからエレナの家に向かうのだと思いながらエルヴィスの後ろをついて歩いていた。だが、帝都に着いたエルヴィスはエレナの家とは違う方向へと歩いて行こうとしているのである。
「あれ? エレナの家に行くんじゃないのか?」
「いや? ……違うけど、どうして?」
「中級回復魔法が覚えられる本が手に入っただろ? それを使って【解呪】を習得するんじゃ無いのか?」
「あぁ、それで合ってる。だからこの道を進むのさ」
マシューもレイモンドもエルヴィスの言っていることが分からなかった。首を傾げながらエルヴィスについていくとやがて彼はとある家の前で立ち止まった。帝都の外れに建っているその家はやや年季が入った味わいのある木造の一軒家である。
「……ここは?」
「ここは僕が住んでる家さ。遠慮なく入りなよ」
なるほど、この家はエルヴィスが住んでいる家らしい。なぜエレナの家ではなくエルヴィスの家に案内されているのか2人には分からなかったがひとまずその家に入ることにしたのだ。
家の中も外観から想像されるままである。ところどころ軋んだ音が鳴る階段を上がると少し広い部屋へ出た。どうやら屋根裏部屋のようである。
「まあ、ここでいいかな。ここがこの家で一番広い部屋だし」
「ええと、……エルヴィス。ここは……どこだ? そして何のために俺たちはここへ?」
「ここは僕の家の屋根裏部屋だよ。何のためにってそれは今から魔法を習得するからここへ来てもらったのさ」
エルヴィスは当たり前だと言いたげな表情である。だが2人はなぜこの部屋である必要があるのか分からなかったのだ。マシューは首を傾げレイモンドは少し迷った後に口を開いた。
「……いや、それなら別にエレナの部屋でも良くないか?」
「それはダメだよ。もし、【解呪】が習得出来ない場合エマさんやエレナに無駄に期待をさせてしまうことになるからね」
「……なるほど」
「それに、僕のように中級回復魔法を習得したがっている人がいない訳じゃないんだ。だから僕が今持っていることを大人数に知らせる必要は無い。なら最も人が少ない僕の家が一番習得する場所に適しているかなと思ってね」
その言葉に2人は納得の表情である。確かに中級回復魔法を習得したいと思う人が0人では無いだろう。現にマシューたちより早く攻略しようとしていた人物がいたのだ。他にいてもおかしくは無い。あの人は無事に帝都へ帰れたのだろうか。マシューはあの時出会った男性を思い出していた。
「なるほどね、確かに知らせる必要は無いよな。……そう言えば古代樹の空洞を出た時エルヴィスは俺らにダンジョンの種類の判別方法について教えてくれたよな? あれって他に方法があったりするのか?」
「……無いこともないけど、どうして?」
「いや、そう言えば俺の知り合いが全然違うことを言っていたなと思って。俺の知り合いは確かモンスターが使って来る魔法で判別するとか言ってたんだ」
マシューはレイモンドのその言葉でヴィクターがしきりにダンジョンの攻略を勧めていたのを思い出していた。確かにあの時ヴィクターはそう言っていたはずだ。嘘を言っているようには聞こえなかったがそんな方法もあるのだろうか。マシューもレイモンド同様エルヴィスをまっすぐに見つめた。
「それはあれだな。【索敵】を使った判別方法のことだろうね」
「【索敵】?」
「そう、【索敵】だよ。その魔法を使えばダンジョンに限らずどんなところでも遭遇する可能性のあるモンスターやそいつが使ってくる魔法が大体判別出来るのさ」
「それでダンジョンの奥にある本の種類の判別も?」
「可能だろうね。僕たちは使われる前に倒したけど、多分あそこに出るモンスターは全員何らかの回復魔法を使えるモンスターばかりなんじゃないかな」
どうやらヴィクターも嘘は言っていないようである。そしてそれはつまり3人と死闘を繰り広げたキャッスルタートルもまた何らかの回復魔法を使って来ていた可能性があるということであり、そのことに思い至ったマシューは少し寒気を感じたのだ。
「まあ、【索敵】は上級魔法だから使える人は限られる。……それこそギルドの調査員とか白銀級以上の冒険者とかなんじゃない? 僕たちのような冒険者はそんな魔法は使えないから【探知】で判別することが中心になると思うよ。コストパフォーマンスも良いしね」
「なるほどな。やっぱり俺らは魔法についてまだまだ知らないことが多いんだな。ますますエルヴィスに魔法を教えてもらう時が楽しみだよ」
「……なんだかすごく期待されてる気がするなぁ。まあ、出来る限りそれに応えられるよう頑張って教えるね。……さ、そろそろ今日の本題に移ろうか」