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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第2章 知恵の果実は近くもあり遠くもある
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第19話 年寄りの戯言

 読んでくださりありがとうございます。目的の本が手に入りました。


――

紅玉の森

――


 【転移ゲート】の効果で3人は無事にダンジョンの入り口まで帰還したのである。古代樹の空洞の入り口となっていた切り株は役目を終えたとばかりに朽ちていった。なるほど攻略したダンジョンに二度と入れなくなると言うのはこう言うことらしい。


「……そういえばこの古代樹の空洞で中級回復魔法が手に入るって攻略する前から知っていたよね? 何でそれが分かるんだ?」


 ふと思い出したようにレイモンドがエルヴィスに訊ねた。エルヴィスは手に入る本の種類を事前に知っていたがダンジョン内で遭遇するモンスターの種類は把握していなかった。そして思い返してみればダンジョンをまだ攻略していないらしきヴィクターもまた手に入る本の種類を把握していたのだ。きっと何か秘密があるに違いない。


「あぁ、それは簡単だよ。まずは入り口の大きさだね。あのダンジョンへの入り口は1人ずつしか入れないくらいの大きさだっただろう? それなら手に入る魔法の本は中級程度だ」


「なるほど、入り口の大きさか。魔法の種類はどうやって判別しているんだ?」


「それにはこれを使うんだ」


 そう言ってエルヴィスは収納袋から魔水晶を取り出した。どうやらそれを使えばダンジョンを攻略せずとも奥で手に入る魔法の種類が分かるようである。


「これを使えば【探知サーチ】と言う魔法が使えるようになる。【探知サーチ】はダンジョンの奥にある魔法が覚えられる本の種類を教えてくれる補助魔法なのさ」


「へぇ、便利なものがあるんだな。それで色んな人がダンジョンの中に入らずに魔法の種類を知っていたのか」


「そう言うことさ。……さ、早く帝都へ帰ろう。さっきの戦闘で大分消耗しているはずだから注意して進まないとね」


 【転移ゲート】で移動して来たのはあくまでも古代樹の空洞の入り口までである。そのため紅玉の森から帝都に帰還するのは自分たちで帰る必要があるのだ。なるべくモンスターに遭遇しないよう注意して3人はまず紅玉の祠を目指して進み始めた。


「……ふぅ、辿り着いたか。運が良かったみたいだね」


 何かしらのモンスターと遭遇することを予期していた3人だったが意外にも遭遇することなく紅玉の祠に辿り着いたのだ。エルヴィスはここから帝都まででモンスターと遭遇しない道を把握している。つまりここまで来ればもうモンスターと遭遇しないと考えて問題ないのだ。レイモンドは安心したように深く息を吐いた。


「……ここまで来れば一安心だな。ここから先の道はエルヴィスに任せて大丈夫なんだろ?」


「もちろん。モンスターと遭遇しない道を選ぶから帝都まで安全に帰還できるはずだよ。……マシュー? 君はどこを見ているんだい?」


 紅玉の祠に着いたことでレイモンドとエルヴィスは共に安心している表情を浮かべていた。だがマシューだけは不思議そうな表情で紅玉の森で一番大きな木を見ているのだ。


「あの人……何をしているんだろう?」


「あの人? ……あぁ、あそこにいるおじいさんのことか?」


 マシューが見ていたのは木にもたれかかるように座ってパイプタバコを吸っている1人の小柄な老人の姿である。その老人は何をする訳でも無くこの場所でただゆっくりとパイプタバコを楽しんでいるようだ。


「……ただパイプタバコを吸っているだけみたいだね。さ、ここまで来ればもうすぐ帝都だよ。早く先に進もう」


 エルヴィスはそう言ってマシューに先に進むよう促した。マシューはこの人物が無性に気になるのだがその理由は分からなかった。ただパイプタバコを吸っているだけ。それだけのことである。


 気にしないことにして先へ進もう。少しの間をおいてそう決めたマシューは帝都へ帰るために前に進み始めた。そして老人を横切ろうとしたその時。横から低い声が響いて来たのである。


「……何をそんなに急いでおるのじゃ」


「……え?」


 思わずマシューは立ち止まって横を向いた。その老人はただまっすぐマシューを見ていた。どうやら聞き間違いでは無いらしい。


「ふむ、……どうやら話を聞くだけの余裕はあるようじゃの。それじゃあお主の答えを聞かせてくれるかな?」


「……ええと、何をそんなに急いでいるか……、早く助けたい人がいるから……かな」


「……なるほど、それは引き止めて済まなかった」


「……?」


 マシューの頭の中は疑問でいっぱいであった。なぜこの老人はそんなことを聞いて来たのか。そしてなぜそれに対して答える訳でも無かったのか。しばらく考えてもその答えは出なかった。既に先行していた2人はマシューを振り返って不思議そうな顔をしていた。


「マシュー? 早く帰るよ?」


「あ! 悪い、早く行くよ」


 立ち止まっていたマシューは2人に追いつくために駆け出そうとした。その時、ゆっくりとまた低い声が響いて来たのである。


「……1つ助言をするならば、無茶をする前に1度立ち止まることを覚えることじゃ。目の前に何も無いのならどんなに急いで前に行っても何の成果も生まれん」


 それは自分に言っているのだろうか。思わずマシューはまた立ち止まって老人を見ていた。その老人はパイプタバコを咥えてマシューの方へ首を向けニヤリと笑った。老人は綺麗な目をしていた。


「……年寄りの戯言じゃよ。信じるも信じないもお主次第じゃ。……引き止めて済まなかったな」


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