第17話 レイモンドの気付き
読んでくださりありがとうございます。キャッスルタートルは難敵です。
結論は出た。直接攻撃を仕掛けるのとほぼ変わらぬタイミングで魔法攻撃をすること。それがキャッスルタートルを攻略する方法である。恐らくこれが出来た時キャッスルタートルの甲羅が紫色になり、ダメージを負わせられるのはずなのだ。
……だが、それはそう簡単に出来ることでは無い。
そもそも最初からほぼ同時に攻撃するように狙っているのだ。それが2秒以上ズレてしまっているのであり、今からそのズレを修正しようとしているのである。
「現状俺ら3人の中なら、魔法攻撃の威力が一番高いのはエルヴィス。そして直接攻撃の威力が一番高いのはマシューだな。だから攻撃するならその2人だ。俺はサポートに回ろう」
「さっきと同じ攻撃の仕方で着弾のタイミングをうまく合わせれば良いんだろう? ……大分タイミングが難しいが、何とかしてみよう。補助魔法はさっきと同じで良いかい?」
どうやら3人は先程と同じように攻めてみるようだ。生じたズレはエルヴィスが少し早く魔法を発動させることで修正するつもりらしい。エルヴィスはマシューを見た。マシューには不都合な点は1つもない。視線に応えるように力強く頷いた。それを確認したエルヴィスは次にレイモンドを見た。と言ってもレイモンドにも不都合な点は無いはずである。どうせ頷きが返って来るだろうと思っていた。だがレイモンドは慌てて首を横に振ったのだ。
「おっと⁉︎ ……何か分からないことがあったのか?」
「悪い、集中していたよな。俺には【防御支援】じゃなくて【速度支援】をかけてくれないか? 多分そっちの方がサポートしやすいと思うんだ」
「……何か考えがあるんだね。それじゃあ2人ともに【速度支援】をかけるよ。……それで良いかい?」
エルヴィスのその呼びかけに今度こそ2人とも力強く頷いた。作戦を考えている間キャッスルタートルはただじっとこちらを見ているだけである。それはまるでこちらの攻撃を待ち構えているかのようである。
そんな余裕を見せているキャッスルタートルにダメージを与えるために。エルヴィスが魔法の発動のために杖を掲げたのを合図にしてマシューがまっすぐに走り出した。
先程はマシューが剣を薙ぎ払ったのを見てから魔法を発動させたが、今回は違う。まだ半分ほどの距離しかマシューが詰められていない状況から既に魔法の発動準備を始めた。恐らくこのタイミングならほぼ同時か、少し【闇弾】が早いかのタイミングになるだろう。魔法が発動されたことをここにいる全員に分かりやすく伝えるためにエルヴィスは叫んだ。
「そろそろ行くよっ! 【闇弾】!」
ところで薙ぎ払いは手にした剣を横に振るう攻撃である関係上攻撃範囲がかなり広いと言う特徴がある。今回3人はキャッスルタートルに直接攻撃と魔法攻撃の両方を同時に食らわせようとしているがために、攻撃同士がかち合ってしまう可能性があるのだ。
そのことに走りながら気付いたマシューは咄嗟に薙ぎ払いでは無く上からウェイトソードを振り下ろすことに変えたのだ。それにより攻撃のタイミングは僅かに先程よりも早まったのである。……そしてそれが結果として上手くハマったのだ。
同時にくり出された攻撃に対してキャッスルタートルは3人の予想通りに甲羅の色を紫色に変えて対処したのである。その結果どちらに対しても中途半端な防御性能となり、その結果この戦いで初めてキャッスルタートルはダメージを負ったのである。
マシューが振り下ろしたウェイトソードは確かにダメージを与えた感触と何か硬いものに当たった時特有の弾かれる感覚をマシューに同時にもたらした。マシューはキャッスルタートルに対してダメージを与えたことを確信しながら弾き飛ばされたのである。
弾き飛ばされたもののマシューはすぐに立ち上がり更なるダメージを与えようとウェイトソードを構えた。そんなマシューをキャッスルタートルは見ていたのだ。その目には先程の余裕は微塵も無い。ただ倒すべき敵を見る目である。その迫力に一瞬マシューの足が竦んだ。
その隙をキャッスルタートルは見逃さない。キャッスルタートルは即座に魔法を発動させマシューに向けて放ったのだ。発動された魔法は【水弾】。【水球】よりも遥かに早い速度で放たれた魔法を一瞬竦んだ足で回避することは不可能である。
回避出来ない。そう悟ったマシューはせめてダメージを減らそうと咄嗟に十字紋の小盾を前に構えた。防ぎきれるかは分からないがやらないよりは遥かに良い。その判断が間違っていたか正しかったかは分からない。ただ、結果としてマシューへのダメージは全く無かったのだ。マシューの目の前で大盾を構えたレイモンドが誇らしげに笑っていた。
「どうだい俺のサポートは。最高だろう? こんな時のために【速度支援】をしてもらったのさ」