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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第2章 知恵の果実は近くもあり遠くもある
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第15話 助けたい人のために

 読んでくださりありがとうございます。ここまで来て引き返すわけにはいきません。


「大丈夫か⁉︎」


 マシューは力なくもたれているその男性に呼びかけた。意識はあるようでゆっくりとその男性は顔を上げた。その顔には諦めの感情がべったりと塗られていた。


「……大丈夫ではない。このダンジョンなら1人で攻略出来る。……そう思い上がった俺の判断は甘かったようだ。……君たちはこの先に進むのか? 自信が無いのなら撤退したって誰も責めはしない」


「忠告ありがとう。確かに誰も責めないかもしれないね。だがその代わり僕が僕を責めるさ。覚えられる魔法でエレナが救える可能性があるなら、……途中で逃げ出すのはあり得ない」


 中級回復魔法が覚えられる本を手に入れたからと言ってエレナを呪いから助けられるとは限らない。だがそのためにこのダンジョンに来たのに番人ガーディアンを目の前にして撤退なぞ出来るはずが無い。


 そこにはエルヴィスの強い決意が込められていた。エルヴィスがエレナを助けたいと思う気持ちを2人はよく知っている。だからこそここまで一緒に攻略して来たのだ。ふと男性の顔を見ると涙を一筋流していた。その理由が何なのかマシューには分からなかった。


「……俺にだって、助けたい人がいるんだ……! なぜ俺は、……出来ないんだ……!」


 絞り出すような声が彼から聞こえて来た。この男性もまた助けたい人のためにこのダンジョンを攻略しているのだ。たった1人でも攻略しようとするその気持ちは計り知れないだろう。涙の理由が分かったマシューは収納袋から回復薬ポーションを取り出しその男性の近くにしゃがみ込んだ。


「なぁ、これでも飲まないか?」


「…………回復薬ポーション? なんで俺に?」


「俺たちは今から攻略するんだ。助けたい人がいるエルヴィスのためにもね。……あなたにも助けたい人がいるんだろう? なら今度は一緒に攻略しないか?」


 彼は信じられないものを見るような表情で回復薬ポーションの瓶とマシューの顔を交互に見て、そして力無く笑ったのだ。


「……ありがとう、君は優しいんだな。……でもこれは受け取れない。君が使うべきだ」


「いや、あなたこそが使うべきだ。一緒に攻略するかどうかはさておいても、あなたの役割はここから無事に帰ることだよ」


「無事に帰る……?」


「そう。そのためにも回復をしておくべきだ。……あなたの助けたい人は呪われているのか?」


「……あぁ、そうだ。石化の呪いにかかっている」


「なら僕と同じだよ。【解呪ディスペル】があればその人も救うことが出来る。…だが、あなたが無事に帰れなければ助けられない。その人がどこにいるのか僕たちは知らないからね」


「……君たちは本当に優しいんだな。俺の助けたい人も救おうとしてくれるなんて。……そうだな、俺が帰れないと意味が無いよな」


 そう言ってその男性は自分の収納袋から回復薬ポーションを取り出した。それを一息に飲み干すと彼はゆっくりと立ち上がった。


「俺ではあの番人ガーディアンを倒せなかった。優しい君たちの足をひっぱる訳にはいかない。だから俺はここから撤退することにするよ。……大丈夫、君たちならきっと攻略出来るさ」


 そう言ってにこりと笑うと男性は番人ガーディアンのいる場所とは逆方向へと歩いていった。彼はダンジョンからの撤退を選択したようだ。その後ろ姿を心配そうにマシューは見つめていた。


「……大丈夫、心配しなくてもあの人は無事に帰れるはずさ」


「……そうだね」


 エルヴィスのその言葉に納得したマシューは前に向き直った。この先にはあの男性が攻略を諦めた番人ガーディアンが待ち構えているのだ。気合いを入れ直さなくてはいけない。1つ息を吐いてマシューたち3人はダンジョンの最奥部へとさらに足を進めた。


――

古代樹の空洞 最奥部

――


 その場所は今までのどの場所よりも広い空間であった。そして地上からかなり近い場所のようだ。外からの光がところどころから漏れ出しており明かりが無くても視界は確保出来た。


「……あそこに置いてあるのが目的の本か?」


 そう言ってレイモンドは奥を指差した。確かにその先には台座がありその上に分厚い本が置かれているようだ。本当ならばすぐにでもその場所に行って確かめたいのだが、3人とも中々その場所へ向かう勇気が出ない。理由は明白である。待ち構えているはずの番人ガーディアンの姿が見えないからである。


番人ガーディアンはどこだ? ……そう言えば2人は番人ガーディアンとなるモンスターの見当がついているんだっけ?」


「……あぁ、番人ガーディアンはタートル種である前提だがな。俺はキャッスルタートルと言うモンスターじゃないかと予想している。……エルヴィスはどうなんだい?」


 2人の視線はエルヴィスに集中した。だが当のエルヴィスは何かを探しているように周囲を見渡していたのだ。そしてやがてその顔が止まった。エルヴィスはただ一点を見つめている。2人もその場所に視線を向けた。その場所は台座の手前にある六角形の床である。その床は綺麗な紫色をしていた。


「……床?」


 次の瞬間地面が揺れ始めた。地震が起こったのでは無い。番人ガーディアンとなるモンスターが地面から這い出て来たのだ。姿を現したそのモンスターは最も図体が大きく鮮やかな紫色の甲羅のタートル種であった。


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