第14話 全員で戦う
読んでくださりありがとうございます。ブルータートルはどんな魔法をしてくるのでしょうか。
発動された魔法は【水球】。レイモンドが使う魔法だがそれよりも大きくそして濃い魔力がこもっているのが目で見ても分かる。直撃は避けなければ。そう思ったマシューは大きく横っ飛びをして回避を試みたのである。だがその瞬間マシューを追いかけるようにブルータートルは首を動かしたのだ。
ブルータートルの首の動きを横目で察知したマシューはせめてダメージは減らしておこうと十字紋の小盾を構えた。とはいえこの盾で全てを防ぐのは厳しいだろう。咄嗟の判断でマシューは少し傾けて【水球】を待ち構えた。
放たれた魔法は十字紋の小盾が手から弾き飛ばされるほどの威力だったが正面から受けずに勢いを殺したためマシューへのダメージはほぼ無い。弾き飛ばされた盾にも構わずマシューは再び接近を仕掛けた。レイモンドもようやく接近出来たようでブルータートルの横側から攻撃を仕掛けているようだ。
今ブルータートルは横側から攻めてくるレイモンドに集中しているらしい。それならば大胆に攻めても反撃を食らうことは無いだろう。マシューは一気に距離を詰めるため思い切りブルータートルに飛びかかった。
そんなマシューに気付いたブルータートルは頭突きを仕掛けようと勢いよく頭を引っ込めた。それを見たマシューはウェイトソードを前に構えると、引っ込んだ頭目掛けてウェイトソードを突き刺した。やわらかいものを突き刺す感覚と吹き出す血を浴びている感覚をマシューは同時に感じたのである。ウェイトソードが刺さったブルータートルはそのまま動くことは無かった。
「……討伐完了だな。いきなり飛んできたからびっくりしたよ」
「悪い悪い。見ていたらレイモンドに気を取られてる気がしたから一気に攻めてやろうと思ってさ」
そう言いながらマシューは突き刺したウェイトソードを引き抜いた。討伐の証はレッドタートルと同じく甲羅である。マシューは討伐したブルータートルをそのまま丸ごと収納袋へ入れて後ろを振り返った。数メートル先に十字紋の小盾が見える。どうやらかなりの距離を跳んだようだ。弾かれたその盾を拾いながらマシューは首を傾げていた。
「……俺こんなに遠くから跳んだのか? 鎧もあるしそこまで遠くには跳べないと思うんだが」
「それは多分僕のおかげじゃないかな」
「エルヴィスの?」
「あぁ。君たちの援護に回ると言っただろう? マシューには【速度支援】をかけておいたのさ」
そう言うエルヴィスはどこか得意気である。それを聞いたレイモンドは納得したような表情を浮かべていた。
「それでなのか。1人で仕掛ける必要は無いって言ったのにマシューがすごいスピードで接近を仕掛けるからよ。正直焦ったんだぜ。……ところで俺にはどんな援護を?」
「レイモンドには【防御支援】をかけておいたよ。……まあ、必要無かったみたいだけどね」
どうやらエルヴィスはマシューとレイモンドのそれぞれに別の補助魔法をかけていたようだ。【速度支援】は目に見えて変化が分かるが【防御支援】は中々変化が分かりづらい。レイモンドが自分にかけられた補助魔法が分からなかったのは仕方ないと言えよう。
「補助魔法にも色々あるんだな。俺らが習得した魔法しか知らないからそんな魔法があるなんてちっとも知らなかったぜ」
「魔法にも色々と種類があるんだよ。カテゴリさえ分かっていれば書庫にある本で粗方把握出来るはずだよ。今度行った時に読んでみたらどうだい?」
エルヴィスのその言葉で最初に会った時に持っていた本をマシューは思い出した。あの時2人は魔法が覚えられる本を中心に読もうとしていたので魔法について書かれた本は頭に無かったのだ。
「なるほど、今度書庫に行った時に探してみよう。……ところで番人のいる部屋はあとどれくらい進めば良いんだ?」
これまで2体のモンスターと遭遇し今のところ無事に全て討伐出来ている。攻略としては順調と言えるだろう。この分なら番人も何とか討伐出来るのではと思えて来るのだ。……だが、それには気になることがあるのである。それだけにマシューはあとどれくらい進めば良いか気にしているのだ。
「……はっきりとは分からないが、多分もうすぐ辿り着くんじゃないだろうか」
「それって結構マズイんじゃないのか? 先に進んでいる人がいるんだろう? それならその人はもう既に番人の部屋に到た……」
その時3人から少し離れた場所から地響きが聞こえて来た。それは自然現象と言うよりも人為的に感じられる。どこかで戦闘でもしているかのようだ。
「……この先で誰か戦闘をしているようだな。急ごう。追いつけるかもしれない」
3人は進むペースを上げるため明かりは確保しつつ早足で狭い通路を進んだ。程なくして大部屋らしき開けた場所が見えて来たのである。番人がいるとすればそこだろう。
……だが、戦闘をしている人はそこには誰もいなかった。代わりに今にも力尽きそうなほど衰弱した男性が壁にもたれかかっていたのである。