第1話 まずは作戦会議だ
読んでくださりありがとうございます。これより第1章の始まりです。
「さて、早速作戦会議を始めようか」
「良いね。……ところで扉って埋めちゃったけど、あれはどうしてだい?」
マシューとレイモンドの2人はマシューの家の地下にあったものを全て手に入れると、地下室への扉を元のように埋めてレイモンドの家へと戻って来ていた。扉を埋めておくのはレイモンドの考えによるものである。レイモンドは他にも《七つの秘宝》を探す者がいると考えていたのだ。
「それはもちろんあの場所を悟られないようにするためだよ。ほらあの場所への入り口は隠れていただろ?」
「うん。俺の記憶が正しければ去年はあんな入り口は無かったはず」
「だよな。隠れていた入り口ってのはそのまま隠しておいた方が良いのさ」
レイモンドはそれが当たり前の事のように頷きながら腕を組んでいた。マシューは感心した表情でレイモンドを見ていた。レイモンドがこうした表情をしている時は従っておいた方が良い。今までの経験からマシューはそう判断したのである。
「それでええと、作戦会議だね。レイモンドもちょっとこの地図を見てくれるか?」
マシューは古びた地図を取り出すとレイモンドにもよく見えるように広げてみせた。古びた地図に描かれているのはどうやらこの世界の全体像のようだ。そしてよく見ると意味深なバツ印が7つ記されていた。
「……バツ印が7つ……か。つまり、この古びた地図は《七つの秘宝》がある位置をそれぞれ示している……のか?」
「普通に考えればそうだよね。……と言うことはこの剣はやっぱり関係無かったみたいだね。」
そう言ってマシューは地下室から持って来た剣を取り出した。古びた地図の近くに置いてあったその剣はその他に置いてあった手紙の内容から《七つの秘宝》のうちの1つではないかと予想していたのだ。
「バツ印は7つあって探す秘宝も同じく7つある。そしてバツ印の場所とマシューの家はどれも重なっていない。……まあ、そう考えて良さそうだな」
「もちろんそのバツ印は《七つの秘宝》が最初に置かれた場所を示していて、そこから移動しているなら可能性はまだ残ってるんだけどね。でもこの剣は秘宝にしてはかなり新しいし、バツ印とも被っていない。だから限りなくゼロに近いって判断になるかな」
「なるほど、ゼロでも無いんだな。それじゃあ持ち歩いておかないとね。どうせ持ち歩くんなら武器として使えば良い。……剣の扱いはお前の方が上手いんだからその剣はマシューが使いなよ」
レイモンドは武器としてのこの剣にそれほど興味は無いらしい。だが可能性がゼロでない以上は誰かが持ち歩かねばならない。そしてその役割はどうやらマシューに押し付けられているようだ。
これといって手持ちの武器が無いマシューにとってこの剣を持ち歩くことを押し付けられても大して問題は無い。だが、素直に押し付けられる前に聞いておかなければならないことが1つマシューにはあるのだ。
「これを俺が持っておくのは別に良いんだけど、その場合君の武器はどうするんだ? 俺は代わりに君に持たせるような武器は持ち合わせて無いぜ?」
「お、良くぞ聞いてくれたな。俺はそんな剣よりも魅力的なものを1つ持っているのさ。へへっ、ちょっと待ってくれよ。すぐに持ってくる」
マシューの質問にレイモンドは待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべてどこかへ去った。マシューにはレイモンドが武器らしいものを持っていた記憶はほとんど無い。言われるがまま待っているとやがて得意気に微笑みながらレイモンドが帰って来た。その手には立派な盾があった。
「良いだろ? この盾。俺のお気に入りなんだ」
「へぇ、君がそんな盾を持っているなんてな。全然知らなかったよ」
「それは当たり前だ。知ってるはず無い。……俺のじいちゃんの遺品だからな」
レイモンドの表情から笑顔が消えていた。あの日を思い出しているのだろう。あの日もレイモンドは大きな盾を持っていたのだ。レイモンドが持って来たその盾はあの日マシューに見せてくれたものとはまた違うようである。そのことについて聞こうと思ったマシューだが、マシューもまたあの日を思い出してしまい暗い表情になっていた。
「……おい、そんな表情するなよ。この盾にはそんな暗い表情は似合わないさ」
「……悪い、つい思い出しちゃったよ。……それでええと、その盾はレイモンドのおじいちゃんから貰ったってことか?」
「あぁ、そうだよ。あの日も俺が盾を持っていたのをお前は覚えているか?俺のじいちゃんは俺の誕生日に盾を買ってくれたんだがその次の年の分も既に買っていたみたいでな。……それを見つけた時、俺はそれはそれは泣いたもんだ。散々泣いたら後はもう泣かない。この盾にそう誓ったんだ」
「……なるほど、決意の現れってことだな」
「そう言うこと」
レイモンドはその立派な盾に相当な思いをこめているようだ。それを聞いたマシューは自分が手に持っている剣をじっと見ていた。