第11話 明かりを確保せよ
読んでくださりありがとうございます。エルヴィスはダンジョン攻略の経験があるようです。頼もしいですね。
「3回目⁈ それはすごいな。……それじゃあベテランのエルヴィスに聞くがよ。このダンジョンはどういう特徴があるんだ?」
ダンジョンに入ってから少しテンションが上がっているらしいレイモンドは大袈裟に驚いてみせた後冷静な顔になってそう質問した。マシューとレイモンドの2人はそもそもダンジョン自体が初めての経験である。特徴があるなら是非教えてもらいたいと2人の視線がエルヴィスに集まった。エルヴィスは2人の表情を順番に見て、静かに口を開いた。
「……まずどのダンジョンにも言えることなんだが、基本的にダンジョンの最奥部には番人と呼ばれるモンスターがいるのさ。そしてダンジョン自体もその番人の性質に寄った形状をすることが多いんだよ」
「なるほど、最奥部には魔法が覚えられる本を守る番人って言う奴がいるってことだな。……それは良いんだけどよ。ダンジョンの形状ってのはここからじゃ真っ暗でとてもじゃないが見えないぜ?」
そう言ってレイモンドは目の前に広がっている暗闇を手で示した。入り口付近は辛うじて見えているものの進むべき道は真っ暗で何も見えないのだ。これではダンジョンの形状を知ることなど到底出来ないだろう。
「……そう言えばレイモンドはランプを持ってなかったかい?」
「……家の納屋だな。もう使うことが無いと思ってたのよ」
「まあ、この場合ランプは大して必要じゃ無いかな。それなりの大きさの木の枝があれはそれで充分だよ。見つからなければ紅玉の森に戻れば枝くらいならあるはずだ」
「……そのそれなりの大きさの枝ってのはどうやって探すんだ?」
「まあまあ、そう慌てるな。探す間の視界はこれで確保するのさ。……なるべく早く探してくれよ? 【暗視】」
エルヴィスが【暗視】を発動させた瞬間から全員の視界が明瞭になったのである。周囲は暗いままなのにも関わらず自分の周囲のどこに何があるかはっきりと見えるのだ。2人にとって初体験の感覚であり、その不思議な感覚に戸惑いを隠せなかった。
「……これはすごいな。暗いままなのに見えるとはどう言うことだ?」
「それを詳しく説明しても良いが、今は早く探してくれ。見た感じでは周囲はかなり湿度が高いのかもしれない。出来るだけ乾いている方が望ましいな。頑張って探そう」
それから3人は出来るだけ乾いたそれなりの大きさの木の枝を探した。エルヴィスの言うようにダンジョンの中はかなり湿度が高いようで木の枝が落ちている雰囲気はあまり無かった。
「……駄目だな、無さそうだ」
「これなら一旦戻った方が……」
「あったよ!」
すぐに見つからなかったためレイモンドとエルヴィスは紅玉の森に一旦戻る方が良いと考え始めていたその時嬉しそうなマシューの声が2人に聞こえて来た。近寄ってみるとマシューが乾燥した木の枝を1つ握りしめていた。大きさこそ少し頼りないがこれは間違いなく木の枝である。
「……少し小さい気もするがしょうがないな、ひとまずこれで明かりを作ろう」
「明かりを作る……? もしかしてこれに火を着けるのか?」
どうやらエルヴィスのランプ代わりの木の枝と言うのは松明のことのようだ。エルヴィスは火を着けるために魔水晶を収納袋から取り出した。それを見てマシューとレイモンドは2人とも制止したのである。その魔法はわざわざ魔水晶を使う必要が無いのだ。
「……【着火】が使えないと火を着けることは厳しいと思うぞ? 焼き尽くしてしまったら意味が無いからね」
「使えるからこうやって制止してるのさ。……【着火】」
マシューは拾った木の枝の先に【着火】を発動させた。木の枝の先端に灯された火は明るく燃え辺りを照らした。
それにより【暗視】で明瞭になった視界が【暗視】無しでも確保出来るようになったのだ。改めて周囲を見渡すとこの場所はかなり複雑な地形をしているようだ。何か目印のようなものが無ければすぐに迷ってしまうだろう。
「……これはすごく迷いそうな構造なんだな。何か目印のようなものが欲しいところだ」
そう呟きながらレイモンドはエルヴィスの様子をうかがった。2人はダンジョン攻略は初めてであり、道に迷わないための目印はどういうものがよく使われるか全く知らない。故にエルヴィスの意見を聞こうとしているのである。だが、エルヴィスは考え込むようにしてダンジョンの奥を見つめていた。
「……マシュー、ひとつ聞きたいんだが良いか?」
「ん? なんだい?」
「さっき見つけた木の枝はどこにあったんだ? 周りを見る限り他に枝らしきものがありそうな雰囲気が無いんだが」
「あぁ、これならそこの壁に沿うようにしてあったよ」
「……やはりか。マシュー、ひとまずその枝は火をつけたまま元の場所に戻しておこう」
そう言いながらこちらに振り返ったエルヴィスは納得と焦りの表情が混ざった複雑な表情をしていた。何かに気付いたようである。言われた通りマシューは元あった場所に火の着いた枝を立てかけるようにして戻した。
「……似た枝が同じように立てかけてあるのがここから見えるか?」
エルヴィスは立てかけた壁に近寄りそう言ってダンジョンの奥を指で示した。その指を頼りに2人が目を凝らして見てみると、確かに少し離れた場所に同じように枝が立てかけてあるようだ。
「……本当だ。確かに似た枝があるや」
「それじゃあこの枝は誰かが置いた目印ってことか?」
「そう考えて間違い無いだろう。……先に攻略をしている誰かがいる」