第10話 エルヴィスの実力
読んでくださりありがとうございます。ダンジョンの入り口はもうすぐだそうです。
「なんだ、今までは遭遇しない場所を選んでくれていたのか。むしろ俺たちは最初から戦闘の準備は万端だぜ」
「それは頼もしいな。見つかったダンジョンの入り口はもうすぐらしい。モンスターに注意しながら進んでいこう」
こうして3人は祠を後にして目の前に広がる紅玉の森の奥へと進んで行ったのである。
「……どうやらモンスターに見つかったようだな」
祠から歩き始めて1分も経っていないのだが、3人の目の前には今にもこちらに襲い掛かろうとするモンスターがいたのである。りんごを大事そうに抱えながらそのモンスターはこちらをじっと睨みつけていた。
「こいつはマウスラビットだな。小型のモンスターで好物は大きく熟れたりんご。紅玉の森はこいつらにとって楽園なんだろうよ。食べ物への執着心がかなり強く厄介なモンスターとして図鑑では説明されてる。……戦闘は避けられないがどうする?」
レイモンドは今日ここに来るまでに紅玉の森で遭遇する可能性のあるモンスターで図鑑に載っているものは全て頭に入れて来ていた。そのため図鑑を取り出すことなく目の前のモンスターの特徴を説明することが出来るのである。
しかしそれはあくまでも説明が出来るだけであり戦闘となれば別問題である。マシューとレイモンドはマウスラビットの攻撃に備えて武器を取り身構えた。その2人を手で制止してエルヴィスは前に出たのである。
「君たち僕の戦闘は見たことが無いだろう? ここは僕1人に任せてくれよ」
「……なるほど、なら俺たちは後ろからサポートするよ」
「それも要らないな。今から僕らはダンジョンを攻略するんだ。このくらいは1人であしらえないとね」
そう言われてマシューとレイモンドは顔を見合わせてにこりと笑うと後ろに下がった。それを見てエルヴィスは微笑みマウスラビットをじっと見つめた。
「……さて、せっかく戦闘を見てくれるんだ。小手調べも手加減も無しで行くよ! 【闇弾】」
エルヴィスは収納袋から杖を取り出すとすぐに魔法を発動させた。発動させた魔法は【闇弾】。闇属性の魔力を圧縮し高速で飛ばすその魔法の威力は高く大事そうに抱えているりんごごとマウスラビットの体を貫いた。
「……すげぇな、魔法で1発か」
「これでも魔法使いを名乗っているからね。これくらいの魔法だったら何回でも発動出来るよ」
そう言ってエルヴィスは得意気に胸を張った。マウスラビットは紅玉の森に出てくるモンスターの中では体力が少ない部類のモンスターではあるのだが、それでも1発の魔法で倒し切るのは至難の業だろう。
「僕の実力が分かってくれたならマウスラビットを回収してすぐに奥に進もう。ダンジョンのことを考えると無駄な戦闘は出来るだけ避けたい。討伐の証は大体誰が持っているんだ?」
「大体俺だよ。マウスラビットの討伐の証はどこになるんだ?」
「ええと、……確か毛皮だったかな。採取が面倒だから一旦全部入れておけばいいんじゃないか?」
「それもそうだな。……これで良し、と。それじゃあ奥へ進もうか」
「あぁ、入り口はもうすぐだよ」
3人はマウスラビットの死体を回収し、さらに奥へ進み始めた。幸いこれ以降モンスターに遭遇することなく3人は目的地へとたどり着いた。まるで落雷があったかのように木の中が焼け落ち空洞となった切り株。それが今回見つかった紅玉の森のダンジョンの入り口である。
「……ここが入り口なのか。こんなの良く見つかったな」
「半月前の落雷で出来た入り口だろうと予想されているけどこの場所が見つかったのは2日前。だから発見されるまでかなり時間がかかったダンジョンになる。まあ、この場所は紅玉の森から少し横道にそれた場所だから見つからなかったのも仕方ないのかもね。……この奥に中級回復魔法の本があるはずだ。気をつけて進もう」
エルヴィスのその言葉に2人は無言で頷いた。ダンジョンの入り口まではエルヴィスのおかげであまりモンスターに遭遇しなかったがここから先はそうはいかない。3人は1つ深呼吸をして心を落ち着かせると順番に切り株の空洞へと飛び込んだ。
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古代樹の空洞
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古代樹の空洞へと入ったマシューは信じられないと言いたそうな表情を浮かべていた。入り口から漏れるわずかな光以外の一切の光が無いため入り口付近しか見えない。そのため進むべき方向は何も見えない暗闇に覆われているのだ。ダンジョンとは異質なものであることをマシューはここで確信したのである。
「お、予想通り中はかなり暗いな」
「……冷静だね。ここに来たことがあるのかい?」
マシューに続いてレイモンドも古代樹の空洞へ入り同じような反応を示したがエルヴィスは特にリアクションを示さなかった。それ故にマシューはエルヴィスがここに来たことがあるのではと予想したのだが、どうやら違うようである。エルヴィスは首を横に振っていた。
「ここは初めてだよ。だが、ダンジョンに入るのは……3回目になるかな」