第9話 紅玉の祠
読んでくださりありがとうございます。ダンジョン攻略のためにまずは入り口を目指すようです。
次の日の朝早くに起きた2人はすぐに紅玉の森の入り口へ向かった。すると入り口には既にエルヴィスがいたのである。2人が近づくとエルヴィスも2人に気付いたらしく顔を上げた。
「エルヴィスは朝早いんだな」
「普段は割と遅いんだが今日は早くに目覚めちゃってね。それじゃあ早速ダンジョンの入り口へ向かおうか」
そう言うエルヴィスは照れ笑いを浮かべていた。実はマシューとレイモンドは今回のダンジョンの攻略に気合いを入れるためにいつもよりも30分早く起きたのである。それなのにエルヴィスの方が早く来たと言うことはエルヴィスもまた気合いが入っていると言うことである。2人はそのことに気付きさらに気合を入れて紅玉の森へと足を踏み入れたのであった。
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紅玉の森
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紅玉の森は帝都の北西部に広がる大きな森林地帯である。森……と言えば複数種類の木や草で構成された場所と想像するかもしれない。そう言う意味ではここ紅玉の森はかなり変わっていると言えよう。なぜならこの森のほとんどがたった1種類の木で構成されているからである。
「……すげぇな。これ全部りんごの木か?」
目の前に広がる光景に思わずレイモンドはそう呟いていた。それもそのはず紅玉の森に入った3人の前にはどこを見てもりんごの木があると言う不思議な光景が広がっていたのである。
「僕も初めて見た時は驚いた記憶があるね。……あれは5歳くらいの時だったかな?」
「へぇ、そんな小さい時にこの場所に来たことがあるのか」
「僕は帝都の近くで生まれ育ったから小さい頃はよくここで遊んだものだよ」
「それじゃあどう言うモンスターがどの辺りに多くいるとかは良く知ってるってことか」
「もちろん。安心してついて来たら良いよ」
そう言ってエルヴィスは胸を張った。昨日のエルヴィスは黒い服に身を包んでいただけの一般人のように見えたが、今日の身軽そうな鎧に黒いローブを羽織った姿は凄腕の魔法使いを思わせる。そんな姿のエルヴィスが自信満々に胸を張っているのだ。2人はそこに頼もしさを感じていた。
しばらく歩くとそこだけ木があまり無いのか上空から光が差し込んで来る広い空間に出たのである。その場所の中心には一際大きな木が鎮座していたのだ。興味深そうにその木を眺めていたマシューは思わず立ち止まってしまった。
「マシュー? どうしたんだ」
「……あれを見てくれ!!」
「あれ?」
マシューはある一点を指で示した。その先を見たレイモンドはマシューと同じように驚きエルヴィスは真顔であった。マシューが指差した場所は一際大きな木の上部分。果実がなる場所である。そこにはたった1つ黄金に輝くりんごがあったのである。
「……あのりんごは金色なのか⁈」
「そうだよ、あのりんごは金色だ。木の下に祠があるのが見えるかい?」
言われて目線を下に向けると確かに木の下には小さな祠が建てられていた。そしてその祠の前には数個のりんごが供えられていた。何かを祀っているのだろうか。
「この祠は紅玉の祠と言って神様が祀られているんだ。紅玉の森の奥に無事に行けますようにと願いを込めて皆がりんごを供えるのさ」
「へぇ、だからりんごが供えられているんだな。……でも俺たちは今りんごなんて持ってないぞ?」
「無い時は近くのりんごの木から1つもらったら良いよ。まあ、今回は僕がこの森で獲れたりんごを持って来ているんだけどね」
エルヴィスはにこりと微笑んで収納袋からりんごを取り出した。赤く熟れたそのりんごはとても美味しそうであり今すぐ食べてしまいたいほどである。レイモンドがじっとその取り出したりんごを見ているのを構わずにエルヴィスは果物用ナイフを取り出すと慣れた手つきでりんごの皮をむき始めた。
綺麗に皮をむき6等分にするとそのうちの3切れをエルヴィスは祠の前に置き2人に振り返った。なぜ半分だけ供えたのか分からないマシューは首を傾げレイモンドはエルヴィスの手元のりんごをじっと見ていた。
「さ、君たちもどうぞ」
「……良いのか?」
「もちろん。祠の前でりんごを神様と一緒に食べる。そうすれば神様が紅玉の森の奥まで行けるように守ってくれるのさ」
そう言うことならとマシューとレイモンドはエルヴィスからりんごを受け取った。りんごの良い香りを感じながら一口かじると口の中いっぱいに甘酸っぱい濃厚な味わいが広がった。こんなに美味しいりんごを食べたのは初めてだと2人は食べ終わった後の余韻に浸っていた。
「美味しいだろう?」
「あぁ、……とても美味しかった。今まで食べたことのあるりんごの中で一番美味しかったよ」
「それは何よりだ。そう言ってくれて神様も喜んでいると思うよ」
そう言いながらエルヴィスは微笑んでいた。りんごが褒められて嬉しいのだろうかとマシューが考えていると不意にエルヴィスの表情が真剣なものに変わった。何かあったのだろうか。
「さて、ここから先は気を引き締めて進もう。今まではモンスターが居ない場所を選んで進んでいたがここからはそうはいかない。いつ戦闘になっても良いように心の準備はしておいてくれよ」