第8話 呪われた理由は?
読んでくださりありがとうございます。エレナはいったいなぜ呪いにかかってしまったんでしょうか。
何度か来たことがあるのだろう。エルヴィスは流れるように2階へと繋がる階段へ足を向けた。2人にとっては初めて来た場所であり遠慮がちになりながらエルヴィスの後を追った。そしてとある部屋の扉の前でエルヴィスは足を止めたのである。
「……エレナはこの部屋にいるんだ」
「今までの話からするとそのエレナって人が呪いにかかっているんだよね?」
「あぁ、石化の呪いにかかっている。……開けるぞ」
エルヴィスは軽く扉をノックしてから扉を開けた。部屋の中はベッドと小さなテーブル以外何も置かれていない殺風景な眺めであった。そして部屋の真ん中に置かれたベッドの上に腰掛けて座る人がいたのである。
黒く長い髪によく似合った白い服を着た肌の青白い女性。それが2人が初めてエレナを見た時の印象である。エレナは少し右手を上げようとした姿勢で固まっていた。
「これが石化の呪い……。いったい何があったんだ⁈」
「…… 二月ほど前のことだ。あるものが欲しかった僕とエレナは紅玉の森のとある場所でコカトリスと遭遇したのさ」
「コカトリス?」
「……なるほど、コカトリスに石化の呪いをかけられたのか」
あまりモンスターに詳しくないマシューはコカトリスと言われても何もピンとは来なかったが、図鑑をかなり読み込んでいるレイモンドには心当たりがあったようだ。
エルヴィスの言うコカトリスとは小型の鳥型モンスターであり基本的には戦闘しやすい部類のモンスターではあるのだが、時折放たれる石化の呪いが戦闘難易度を極端に跳ね上げる危険なモンスターなのである。
「コカトリスと遭遇する可能性があることは把握していたのか? 図鑑の表記を読む限りでは対策せずに勝てるようなモンスターでは無いはずだぞ」
「もちろん対策していたよ。石化は初期状態なら初級回復魔法の【治癒】でも充分解除出来るんだ。僕もエレナも【治癒】なら問題なく発動出来た。……だから大丈夫だと思ってしまったんだ」
そう言ってエルヴィスは肩を落とした。話を聞く限りでは対策としては充分のように聞こえる。だが目の前のエレナは石化してしまっているのだ。何か予期せぬことが起こったに違いない。2人ともそう思いエルヴィスの次の言葉をじっと待っていた。
「……石化さえ回避すればそれほど危険なモンスターでは無い。そう思っていたんだが、実際はかなり苦戦したんだよ。そして魔力も残り少なくなったその時にエレナが石化されてしまったんだ。エレナに【治癒】をかけた上でコカトリスに魔法を食らわせられるほどの魔力が当時の僕には無かった。エレナを治すかコカトリスを倒すために魔法を放つか。……僕はエレナへの【治癒】を諦めてコカトリスに魔法を放つ決断をしたのさ」
言い終わったエルヴィスは肩を落としていた。エルヴィスの判断は間違っているとは思えない。戦闘中にエレナに【治癒】をかけるかコカトリスに攻撃を仕掛けるかの判断をするのは難しいだろう。判断が遅くなったばかりにエルヴィスも石化の呪いにかけられてしまったら一巻の終わりである。コカトリスに攻撃を仕掛け見事に倒し、石化したエレナを安全な場所まで退避させたのは最善の結果と言えよう。
だが、その結果【治癒】では治らないほどエレナの石化の呪いが進んでいることも間違いないのだ。故にエルヴィスは【解呪】を求めているのであり、出現したダンジョンの攻略を目指しているのだ。そのことが2人にも伝わりレイモンドは大きく大きく頷いたのだ。
「あんたのこだわりはよく分かった!」
「……さすがにそんなことを聞いてお断りだとは言えないよねぇ。俺らで良ければ喜んで」
「本当か! ……ありがとう。これできっと……エレナを救ってやれる」
相当思い詰めていたのかエルヴィスは一筋の涙を流していた。そんなエルヴィスをなんとか宥めて3人はエレナがいる部屋を後にしたのである。
階段を降りると何やら美味しそうな料理の匂いが漂って来た。そう言えばもうすぐ夕食の時間である。急いで2人が緋熊亭に帰ろうとすると奥にいた人物に呼び止められた。振り向くとそこには家の玄関で出迎えてくれた女性がエプロン姿で微笑みながら立っていたのである。
「これから夕食なんだけど、良かったらあなたたちも食べて行きなよ」
「エマさんの作るご飯は絶品だぜ? 是非食べて行きなよ」
「あなたたちはエルヴィスくんの友達なのでしょう? それなら遠慮することはないわ」
2人は思わず顔を見合わせていた。こんなことをしてもらえるとは思っていなかったのである。エルヴィスとはまだ会ったばかりで友達と言えるのか正直怪しい。だが先程エルヴィスの力になりたいと思ったのは事実であり、そう言う意味では友達と言っても良いのかもしれない。
結局2人は夕食をこの家でいただくことにしたのだ。エルヴィスが絶品と言った通りエマの作るご飯はとても美味しく2人はいつの日かまた来たいと思ったほどである。心行くまで食事を堪能した2人は明日の朝紅玉の森の入り口で会うことを約束し緋熊亭へ帰ったのである。