第6話 白紙だらけ
読んでくださりありがとうございます。白紙の本がいっぱいです。
「ええ⁈ 俺はこの本で【回復】を習得したんだぞ? それは嘘じゃない。……一旦こっちも読んでみてくれ。俺も君が読んだ二冊を読んでみよう」
2人とも本を読んで魔法が習得出来なかったことは初めてである。それだけに何が起こっているのか理解が出来ない。2人は持って来た数冊の本を互いに取り替えながらその全てに目を通した。その結果、マシューが【火纏】を新たに習得しただけで残りの数冊には何も記されていなかったことが判明したのである。
「……おかしい。こんな白紙の本があって良いのか?」
「一応白紙じゃないものも一冊あったけど、俺もあとは全滅だな」
「何? 何の魔法をどの本で習得したんだ?」
「【火纏】って言うのをここにある初級火属性魔法の本から習得したんだ。……でもそれだけだよ?」
「習得しただけ良いじゃないか。俺なんて全滅だぜ?」
レイモンドはやってられないとばかりに椅子の背もたれにもたれてだらけ始めた。魔法が覚えられる本は割と厚い本が多く閲覧室まで運ぶのに少しばかり苦労したのである。それなのにレイモンドは全く魔法を習得出来なかったのだ。無理もあるまい。
だらけ始めたレイモンドは横に座る黒いローブの若い男性を横目で見ていた。するとその男性はちょうど立ち上がるところだったのだろう。椅子を立ったタイミングでレイモンドと目が合ってしまったのだ。
その男性は少し苛立った表情でこちらを見てそしてその表情が困惑したものに変わったのだ。なぜそんな表情に変わったのかレイモンドには分からなかった。少しの間をおいてその男性は読んでいた本を持ちながら2人が座るテーブルまで近づいて来たのである。
「……君たちはそんな白紙の本をなぜ読んでいるんだ?」
「白紙の本? それはどう言う意味だ?」
「そのままの意味だ。書庫にある魔法が覚えられる本のほとんどは白紙だろう?」
マシューからすれば突然近づいて来たこの人物が何を言っているのかさっぱり分からなかった。だが確かに持って来た本のほとんどは白紙であり、彼の言っている通りである。そこでマシューは先程から思っていたことと同時にそのことについてこの人物にたずねることにしたのである。
「ええと、あなたはレイモンドの知り合いで? そしてほとんどは白紙とはどういう?」
「レイモンドって言うと……この男のことか? 全く知り合いじゃない。たださっきから僕の顔を見ていて少し不愉快だっただけだ」
「レイモンド、それ本当か?」
目の前の男性は見ず知らずであり、どんな人物であるのかも全く分からないが嘘を言うような人には見えない。そこでマシューはレイモンドに聞くことにしたのだ。レイモンドは少し恥ずかしそうに頭をかきながら口を開いた。
「……いや、横見たらさ、明らかに魔法に詳しそうな人がいたから。……つい」
「あぁ、なるほど。確かに僕は魔法に詳しいよ。だからその見立ては正しい。……なるほど、そう思われていたのならちょっと気分が良いな」
そう言ってその男性はにこりと微笑んだ。レイモンドがマシューの知らぬ間に失礼なことをしていたがどうやら許してもらえたようだ。彼の表情が穏やかになったのでマシューは再び先程のことを詳しく聞いてみることにしたのである。
「……それで、ほとんどが白紙と言うのはどういうことで?」
「……それ本気で聞いていたんだね。それじゃあ説明してあげよう。まず魔法が覚えられる本で魔法を習得するために把握しておかない注意点がある。それは同じページで魔法を習得出来る回数には限りがあるってことだよ」
「限りがある?」
「そう。そして限界まで習得し終わったページは白紙となるのさ」
その言葉に思わず2人とも納得の表情である。書庫は利用者カードがあれば誰でも利用出来る。その中には2人のように魔法を習得したいと言う人も多くいるだろう。今2人の手元にある本はそう言う人たちの多くが既に読んでいる本であり、多くのページが既に限界を迎えていた。それがほとんど白紙である理由なのだ。
「……だからか。マシューが習得出来たのに俺が出来ないから運が悪いのかと思ったぜ。そうじゃなくてマシューの運が良いんだな」
自分が魔法を習得出来ないことを気にしていたのだろう。レイモンドは安堵の表情でありそれを見てマシューは微笑んでいた。が、隣の人物はそれを聞いてサッと表情を変えたのである。
「待て、……今習得出来たって言ったか?」
「……言ったがそれがどうしたんだ?」
「習得したのは君の方か。どの本から何を習得したのか教えてくれないか?」
男性の表情は真剣そのものである。なぜそれを気にするのかはさっぱり分からなかったがマシューは素直にそれに答えることにした。
「ええと、……この本で【回復】を、この本で【火纏】を習得したな」
「2つも⁈ ……なるほど」
相当驚いた顔でそう呟くと男性は深く何かを考え込み始めた。なぜそれを気にしているのかの答えが得られずマシューは少し居心地が悪くなったのだが、やがて男性は決心したように顔を上げた。
「君たちに折り入って頼みがある。僕と一緒にダンジョンを攻略してくれないだろうか」
「……はい⁈」