第4話 その悩みは切実
読んでくださりありがとうございます。2人は雑貨屋であるものを探すようです。
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雑貨屋
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雑貨屋に入った2人はとあるものを探すため店内を注意深く見渡していた。嵐馬平原でミニ魔力回復薬と携帯食料を使ったためその補充が必要ではある。だがそれ以上に2人はあるものが欲しくてかなり熱心に探しているのだ。
「……お前さんたちはいったい何を探しているんじゃ?」
「何をってタンクを探してるのさ。水分が入れられるようなタンクってどこに置いてあるんだ?」
「……タンク? そんなもの何に使うんだ?」
メリッサは2人の考えがいまいち分からず首を傾げていた。2人は携帯食料を食べた時水分が無いことにかなり難儀を感じた経験から水分が補給出来るものを求めていたのだ。もちろん携帯食料を食べるためだけなら水筒でもあれば充分ではあるが、どうせならたくさんの水分を確保しておきたい。それ故に2人は水分を入れるタンクを探していたのだ。
「携帯食料を食べた時に水分が手元に無くてかなり困ってね。だからいつでも好きなだけ水分が取れるようにしたいなって思って」
「……なるほど、つまりお前さんたちは欲しい時に水分が好きなだけ手に入れば良いと言う訳だな? ならあれが使えるかもしれんな。ちょっと待っておけ」
「……あれ?」
ようやく2人の意図に合点がいったメリッサは店の奥へ引っ込むとあるものを2つ持って戻って来た。持って来たものはどこかで見覚えのある気もする透明な瓶であり、その瓶にはやや小さい水晶が入れられていたのだ。
「そう言うことならこれが良いだろう」
「これは?」
「ただの瓶に魔水晶を入れただけのものだ。試しに魔力を込めてみろ」
メリッサはそう言うとレイモンドにその瓶を1つ手渡した。言われるがまま瓶に魔力を込めるとあっという間に瓶に綺麗な水が溜まっていったのだ。
「……この水、飲めるのか?」
「その魔水晶にかけられた魔法は【水源】と言っての。ただ綺麗な水を少しずつ出すだけの魔法じゃが、水分補給として使うならそれでも充分じゃろう。それなら魔力さえあればいつでも水分が補給出来る」
「へぇ! それはかなり良いものだな。値段はいくらくらいなんだ?」
「瓶はフル回復薬の空き瓶だし魔水晶は人気のない余りものを活用したただけだ。本来捨てるものを組み合わせたものなんだから無料で良いぞ」
そう言われてマシューはなるほどとレイモンドの手の中にある瓶を見つめた。回復薬の空き瓶と言われれば納得出来る。そこまで考えてようやくマシューはそれが無料だとメリッサが言ったことを頭で聞いた。お金を払う必要が無いのはかなりありがたいことなのだ。
「……本当に無料で良いのか?」
「あぁ、構わないね。本来不要なものを組み合わせただけの商品ですら無いものを押し付けるんだ。金を貰うわけにはいかねぇな。気にせず使うといい。……だが、そうだな。使ってみて良さそうって言うなら商品化してみても良いかもしれないね」
どうやらそもそも商品ですら無かったようである。2人はありがたく無料で貰うことにしたのだ。さすがに無料で貰っただけで店を出るわけにもいかないので2人は使ってしまったミニ魔力回復薬と携帯食料も買うことにしたのだ。
「ミニ魔力回復薬が1つに携帯食料が2つだな? 合わせて銀貨1枚と銅貨5枚貰うが良いか?」
「もちろん」
こうして目的のものを全て揃えた2人はとても満足して雑貨屋を出た。雑貨屋を出た時時刻はもうすぐお昼と言うタイミングだったため2人は緋熊亭に昼食を食べに戻るのであった。
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緋熊亭
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昼食を食べ終わった2人は午後の予定を決めるために一旦部屋に戻って来ていた。所持金の確認をするためレイモンドはテーブルに収納袋の中の硬貨を1枚ずつ丁寧に並べた。銀貨4枚と銅貨5枚。それが2人の今の全財産である。
「こうして見ると結構お金を使っちゃった気がするね。まあ武器は基本高価なものだから仕方ないか」
「良いものを買ったからな。むしろお金が残っていることを喜ぶべきかもしれないぞ」
そう言いながらレイモンドはシュバルツスピアを撫でるように触っていた。戦闘では無いため収納袋に入れたままでも全く問題無いのだがどうやらかなり愛着が湧いているようだ。
「さて、午後はどうする?」
「……出現したって言うダンジョンも気になるところではあるが、俺的には書庫に行ってみたいかな。魔法を覚えられる本も興味があるしそろそろ親父にも会いたいからな」
「そうか、そう言えば親父さんは書庫の役人って話だったな。お金もあることだし午後は書庫で調べものをしようか」
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書庫
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2人が帝都で 2番目に大きい建物である書庫を訪れたのはこれで 2度目である。もっとも1度目はお金が無かったため中に入れず書庫の中に入るのはこれが初めてとなる。それぞれの利用者カードを貰うため受付の女性に合計銀貨 2枚を渡して2人はようやく書庫の中へ入った。
「……これはすごいな」
「……あぁ、いったい何冊の本がここにあるんだ?」
2人は絞り出すようにそう言った。帝都で 2番目に大きな建物と言うのは伊達では無い。カテゴリ別に纏められ綺麗に整頓された本棚がズラリと並ぶその光景はまさに圧巻である。まるでこの世の全ての本がここに集結しているのでは無いか。そう錯覚させるほどの迫力が目の前にあるのだ。
「こう数が多いとまずどれから調べるか迷ってしまう」
「そうだな。……こう言う時はこの場所に詳しい人の力を借りるのが一番良いだろう。まずはレイモンドの親父さんを探そう」