第3話 新しい武器
読んでくださりありがとうございます。パウロは少し不満そうです。
もしかすると買うのを諦めるかもしれないとさらに様子を伺っているとパウロは収納袋から金貨3枚を取り出して無言でライアンに渡した。態度では高いと言っているようだが金はきちんと払うようだ。
「毎度。せっかく買ってくれたんだ。武器のメンテナンスは無料でやってやろう。何かあればまたここへ来ると良い」
「そいつはありがたい。それではまた。……君たちもどこかでまた会えると良いね」
パウロは丁寧に剣を収納袋に仕舞ってその場にいる全員に会釈をするとさっさと武器屋を去っていった。店を出たのを確認してからレイモンドは1つため息をついた。マシューにはその理由が分からなかった。
「……パウロだったっけ? 君の知り合いかい?」
「まさか。初対面だよ。武器を選んでいたらいきなりどっちの武器が良いか聞いて来たんだ。正直どっちかなんてあんなに分かりやすいこと無いのに何で聞いて来たんだろうな」
予想外なことにやや疲れたのだろうか。レイモンドは自分の手で自分の肩を揉んでいた。知り合いでも無い人間にいきなり武器選びの助言を求められるのは確かに疲れるだろう。そんなレイモンドを見てマシューは納得と憐れみの表情であった。
「……レイモンド、あの男自身はどちらの武器が良いと言っていたんじゃ?」
「個人的には右の方の武器が良さそうに思えるんだがって言っていたよ。そんな前置きをしてからあなたはどう思う? っていきなり聞かれたのさ」
「何て答えたんだ?」
「俺は逆だと思うけどって答えたよ。そうしたら最近冒険者になったばかりで……とか、武器の良し悪しがまだ分からない……とか。そんなこと俺に聞かれても困るなぁって思っていたらマシューもライアンもこっちを何故か見てるからさ。助けを求めたって訳さ」
そう言うとレイモンドは肩をすくめてみせた。彼はまた会えると良いなと言っていたがこれを聞く限り会わない方が良さそうである。
「……話を聞く限りではあまり良い人には思えんな。むしろ気をつけた方が良いかもしれない。あぁ言う奴は何かしら秘密を隠してるもんだ。最低限の関係性を保つことをわしからは助言してやろう。……それでレイモンド。お前さんも何か武器を買いに来たんだろう?」
「そうなんだけど、まだ何も決まって無い……。ちなみに近距離武器でライアンのおすすめの武器はあるのか?」
「近距離武器……か。他の防具は変えないつもりか?」
「そのつもりだよ」
「なら武器種はあれが良いだろうな。何本か見て来てやろう。そこでちょっと待っとけ」
そう言うとライアンは店の奥に引っ込んで行った。ライアンが武器を探している間自分でも武器を探そうとしているのだろう。キョロキョロと辺りを見渡していた。そして端に並べられているある武器でレイモンドの目は止まった。何か見つけたのだろうか。
「なぁ、マシュー。……あれ、どう思う?」
「あれ? …あれって言うとあの長槍か?」
レイモンドの視線が集中していたのはとある長槍である。背丈の1.5倍はあるその長槍は先は鋭く研ぎ澄まされ柄の部分は持ちやすそうな太さに見えかなり使い勝手は良さそうである。レイモンドはゆっくりと近づくとその長槍を手に取ってみた。
「……へぇ。中々良さそうだ」
「……ほう? それが気に入ったのか。中々良い見立てだ」
感心したような表情を浮かべながらライアンがゆっくりとこちらへ歩いて来た。その手には何本かの長槍があった。どうやらライアンおすすめの武器種も長槍のようである。
「……それも長槍なのか?」
「あぁ、そうだ。わしがお前さんにおすすめしたい武器種は長槍だよ。お前さんは鎧を筆頭に比較的重めの装備じゃからの。動きをあまり必要としない武器の方が適性が高いと思ったのじゃ。……それで? お前さんはどうしてそれを?」
「良い武器が見えたから手に取ってみたんだ」
「……なるほどな。だったらわしが持って来たこいつらよりもそっちを買うべきだな。お前さん自身が何の前情報も無く良い武器だと思ったんだ。お前さんにとって良い選択だと思うぜ。わしもその長槍を買うことをおすすめしておこう」
そう言うライアンは穏やかに微笑んでいる。武器屋の店主が勧めるものを買うのも良いが自分で決めるのも良いものである。今回はその両方なのだから買わない選択肢はレイモンドに無かった。
「……よし! 買おう」
「毎度。それじゃあ金貨 2枚をもらおう」
「 2枚で良いのか?」
先程パウロの剣が金貨3枚と言われたところを見ていたからだろう。決して金貨2枚は安い値段では無いのだがこんなに良さそうな武器の値段が金貨2枚と言われるとなぜかかなり安いように感じてしまうのだ。
「あぁ、本来なら3枚は貰っておきたいくらい良いものだが2枚で構わない。前にも言ったがわしは武器が人を選ぶと信じておるのじゃ。せっかくの良い武器との出会いじゃ、値段なんかで邪魔はしたく無い。最大限値引きさせてもらったぜ」
ライアンは変わらず穏やかな表情である。レイモンドは深く感謝しながらライアンに金貨2枚を手渡した。
「毎度。そいつはシュバルツスピアと言う名前でわしの店でも屈指の長槍じゃ。少し重いがその分扱いやすい。最初はリーチの違いに少し戸惑うかもしれんがお前さんならすぐに慣れるだろうな」
納得のいく買い物が出来た2人はライアンに礼を言うと武器屋を出た。現在時刻は10時を少し過ぎたところ。少しばかり早起きしたこともあって昼には早い中途半端な時間である。少し迷った後に2人は雑貨屋にも寄ることにしたのだ。