第42話 試練の始まり
読んでくださりありがとうございます。鎧馬アルマはかなりの難敵です。
「マシュー! 大丈夫か!」
「あぁ、何とか大丈夫だ。……盾はもう使えなくなったけどな。接近するのは少々厳しいだろう。こういう時は魔法で畳み掛けるぞ!」
アルマと2人の距離は少しばかり離れており先程の魔法を回避しながら距離を詰めるのは厳しい。ならば遠距離でも攻撃可能な魔法の出番である。2人はそれぞれの属性の魔法を発動させた。
「【火球】」
「【水球】」
ほぼ同時に発動されたその魔法はまっすぐアルマに向かって飛ばされた。これに対してアルマは何ひとつ動きを見せない。それは動けないからでは無くどうやら動く必要が無いからのようだ。
「……【魔力吸引】」
アルマは魔法が着弾する寸前にそう呟いた。透明な円状の壁が2人の魔法の着弾点に正確に2つ構成され飛んできた魔法を全て吸収してしまったのである。何が起こったのか分からず困惑した表情の2人をアルマは涼しい顔で見下ろしていた。
「……⁉︎」
「……なるほど。魔法は効かないと言う訳か」
マシューの表情はかなり険しいものである。実はマシューは魔法による攻撃でどれくらいのダメージを与えられるかで勝負の行方が決まると感じていたのだ。しかしその結果ダメージどころか【魔力吸収】によって完全に防御されてしまったのである。
これにより魔法による攻撃は不可能であり討伐のためには何とかしてアルマに接近し、直接ダメージを与えるしか方法が無くなったのである。だが見るからに頑丈そうなアルマを魔法を使わずに倒すのは至難の業だろう。
討伐するには回避出来ないほど接近した状態で思い切り攻撃を仕掛けなければならない。かなりの難題ではあるがその方法がゼロでは決して無い。マシューはレイモンドを呼んだ。作戦会議である。
「(……レイモンド、1つ試したいことがある)」
「(……なるほど、了解)」
聞かれないようマシューは小声でレイモンドに思い浮かんだ作戦を伝えた。レイモンドはマシューの作戦を聞いてニヤリと笑った。レイモンドもまた勝算を見出したようだ。
マシューはアルマ目掛けてまっすぐ走り始めた。居場所がバレている以上回り込むメリットはさほど無い。それならば真正面から接近した方が距離が短くなる。
どうやらマシューはそう考えていたようだ。だがマシューのスピードよりアルマのスピードの方が速く真正面から接近することは出来なかった。
接近しては離されてを何度か繰り返し体力の限界が近くなったマシューはその場で手を膝についていた。思い切り接近を仕掛けたためにマシューはかなり体力を消耗したようだ。息が切れ肩で息をしており、それを見ているアルマはやや冷めた表情である。
「無闇な攻撃は何も生まない。それすら分からない訳では無いだろう?」
「……確かに無闇な攻撃かもしれない。だが、……これで両側から攻撃が可能になった。」
「ふむ、挟撃とは悪くない。……だが挟んだところで、攻撃が当あるようにはならん」
アルマは挟み撃ちにされたことを全く気にしていないようだ。なにしろアルマはマシューよりスピードが速いのであり、ダメージを与えるためには速度を上げるか、回避出来ないような攻撃を仕掛けるかしか無い。この状況を打破するために、マシューは自分の足に魔力を集中させた。
「ならば速度を上げるまでだ。……【速度強化】」
【速度強化】の効果によりアルマに接近しようとするマシューのスピードが上昇した。倍率にしておよそ1.2倍程度の上昇ではあるが、先程見た速度が頭に入っている分回避の難度は上がっているのだ。
だが、それすらアルマには対処可能なのである。冷静に最小の動きでアルマはマシューの接近をやり過ごしたのだ。せっかく挟み撃ちしていたにも関わらずろくにダメージも与えられずに2人は隣に並んでしまったのである。
「……悪い。やはり【速度強化】だけで接近するのは不可能だ」
「なら次を試そう。何度だってやってみればいいさ」
「いや、……何度も挑戦することは出来ない。……魔力に限りがあるからな」
そう言うマシューの表情は青みがかっていた。どうやら魔力がそろそろ限界に近づいているのだろう。だがしかし、【速度強化】無しで接近するのは到底不可能である。次なる一手を打つためにマシューは収納袋に手を入れてミニ魔力回復薬を取り出し勢いよく飲み干した。
「俺の分も飲むか?」
「いや、これ1本で大丈夫だ。あの感じなら作戦は上手く行きそうだ。アシストは頼んだぞ。……【速度強化】」
マシューはもう一度【速度強化】を発動させ勢いよくアルマに接近を仕掛けた。これに対してアルマはやはり最小の動きでこれを回避してみせた。
回避されてしまったマシューは大きく足を踏み込んで体を回転させアルマに向き直った。アルマはじっとこちらを見つめている。最小の動きで回避するには徹底してこちらを見ておく必要があるためである。
ここまでマシューの作戦通りである。
マシューの接近を回避するためにはマシューを注視している必要がある。すなわちこの時レイモンドの方は視界の外にいるために攻撃を仕掛けられたことに気付くのが遅くなるのだ。つまり攻撃のチャンスである。
そしてレイモンドが仕掛けた攻撃はレイモンドが放つことの出来る最速の攻撃方法の木彫りのアトラトルによる投槍である。放たれた槍は狙い通りまっすぐ飛んでいき反応が遅れたアルマの鎧の隙間を正確に貫いた。
さらに攻撃を畳み掛けようとマシューがウェイトソードを思い切り振りかぶってアルマに迫った。アルマはダメージを食らったためか硬直しておりマシューは自分の攻撃が当たることを確信した。
だがマシューの渾身の攻撃が当たる寸前にアルマは緑の光を放ち消えてしまったのだ。突然行き場を失ったウェイトソードは虚しく空振り当然マシューはそのまま石の床に転倒したのである。2人とも何が起こったのか分からず困惑の表情を隠せなかった。
「……マシュー! 後ろだ‼︎」
レイモンドの突然の声に慌ててマシューは後ろを振り返った。するとマシューのすぐ後ろで緑の光の柱が現れたのである。何が現れるのか警戒しているとやがて光の柱から見覚えのあるモンスターが現れた。
「……一角獣……ユニコーン!」
「その通り。我の名は一角獣ユニコーン。ここ嵐馬平原の守護者であり、あるものを守っている」