第41話 鎧馬
読んでくださりありがとうございます。目指すべき場所はもうすぐです。
「何がある……ねぇ。俺はな、ずっとあの場所のことを考えていたんだ。今この場所には結構な強い風が吹きつけている。しかも目的地に近づくほどに強くなっているようだ」
「……つまり強い風を発生させているものがあの場所にはあると?」
「それともう1つ俺が考えていたことがある。元々俺たちは嵐馬荒原にいたはずだ。そして嵐馬荒原にも、ここにもユニコーン像があった。……考えたくは無いが、あの場所にはユニコーンがいるんじゃないか」
レイモンドは少し苦々しそうに下を向きながらそう言った。どうやらレイモンドは少し不安であるようだ。だが不思議とマシューはそこまで不安には思っていなかったのだ。
「だったら尚更進むしか無いだろ。ユニコーンがいるような場所なら元の場所に戻る手立てだってありそうだ」
「……そうだな、進むしか無いよな」
そう呟いてレイモンドは前を向いた。もう既にマシューは橋へと向かうために歩き始めている。マシューだって不安なはずだがその背中を見てレイモンドは何故だか安心感すら感じたのだ。
準備は整えた。あとは進むだけ。それはレイモンドにも分かっていた。先程霊鳥イナズマと言う絶対に敵わないモンスターを見てしまったからかいたずらに不安を感じていたようだ。だが、いくら不安を感じでも元の場所に戻ることは出来ない。そのためには進むしか無いのだ。
安心感と不安感が混じった感情を前へ進む原動力へ変え、レイモンドは少し早足で歩き始めた。この先何があるか分からず不安感は変わらない。だが、この頼もしい背中のマシューと共に進んだならばきっと何とかなる。根拠が無いにも関わらず何故かそうレイモンドは確信したのである。
橋を越え再び川の向こう側へと渡った2人は慎重に前に進んでいた。そこそこの距離を歩いており何体かモンスターを見かけてもおかしくは無い。そのはずなのだが幸運にも戦闘は起こっていないのだ。
「……モンスターがいないな」
「この場合考えられることは大きく2つ。1つは幸運にもモンスターに遭遇しなかった場合。……まあ幸運と片付けるにはちょっとばかり距離が長いかな。と、なるとモンスターがいない理由はもう1つの方になる」
「……相当強いモンスターがこの奥にいる場合だな」
「あぁ。もちろんイナズマがいる可能性もあるし、さっき君が言ったようにユニコーンがいる可能性もある。……さて、これはいったいどっちなんだろうな」
そう言ってマシューは立ち止まった。2人の目の前には入り口で見たユニコーン像と数段の石段がありどうやら登っていけるようだ。常に吹きつけていた風はかなり強くなっている。そして真上の景色は黒い雲で覆われて見えない。ここが目指していた場所であることは間違いなさそうだ。
「……とりあえず登ってみるか」
「……そうするか」
2人はゆっくり慎重に石段を登り1番上へとたどり着いた。そこは石の床で作られた舞台のようになっており、奥の壁には生き生きとしたユニコーンの壁画が全面に描かれていた。そしてその壁画でいうところのユニコーンの左前脚部分には何も置かれていない台座のようなものが設置されていた。
秘密があるとすればあの場所だろう。2人は台座に近づこうと一歩踏み出した。その瞬間人の体ほどの大きさの風属性の魔法が2人の目の前に現れた。それはやがて形を変え目の前の壁画とほぼ変わらない姿へと変わったのである。
違うところはただ1つ。その全身が何かしらの金属で覆われていることだけである。そして胴体には頑丈で軽そうな鎧が装着されており、見るからに頑丈そうである。
「我が名は鎧馬アルマ、試練を与えるものなり。勇気ある小さき者よ、汝の《幸運》を我に示せ」
どこからかそんな声が聞こえて来た。その声がどこから聞こえて来たのかも何を言っているのかも分からない。1つ確かなことはこれより戦闘が始まると言うことだけだ。
「何か来るぞ! 構えろ!」
アルマと名乗ったそのモンスターは空に向かって一声啼いたかと思うと風属性の魔法を発動させた。それだけならバイコーンとそう差は無い。だが2人ともその魔法を見て表情を険しくさせた。なぜならアルマは同時に3つ発動させていたからである。
「……【風球】」
こちらに向かってくる【風球】に対してマシューは回避を試みレイモンドは銀の大盾による防御を試みた。威力は抑え気味だったのだろうか、特に問題無くレイモンドは防御することが出来た。しかし飛んでくる速度の方はかなり速くマシューが試みた回避はギリギリであり体勢を崩してしまったのだ。
それをアルマは見逃さない。まだ放たずに残しておいた3発目をさらに速度を上げて発射させた。体勢が崩れていたことと先程がギリギリの回避だったことからマシューは咄嗟に盾による防御に切り替えた。
だがマシューの盾は十字紋の小盾であり、盾としてはやや小さい。魔法によるダメージこそ無かったが衝撃を抑えきれず盾は大きく宙に弾かれてしまった。不運にも十字紋の小盾は舞台の横の木の枝に引っかかっており戦闘中に取りに行くことはほぼ不可能である。