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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第1章 風吹き荒れる平原の中で
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第37話 武器は袋の中

 読んでくださりありがとうございます。バイコーンは戦ったことがあるので楽に討伐出来るかと思われます。


 その場から動かないバイコーンに槍を当てるのは簡単である。思い切り投げつけた槍はバイコーンの額に突き刺さった。かなりのダメージだったようでバイコーンは先程よりも大きな声で啼いたのである。レイモンドは確かな手ごたえを感じたが討伐は完了していない。すぐさま木彫りのアトラトルに2本目の槍を装着させた。だがその間にバイコーンは魔法を発動させており【風球ウィンドボール】がレイモンド目掛けて放たれた。


 銀の大盾を上手く使い【風球ウィンドボール】をやり過ごしたレイモンドは再び槍を投げつけた。が、飛んだ場所が悪くバイコーンの立派な角に弾かれてしまったのである。その上地面に落ちた槍はバイコーンのすぐ前に落ちた。当然のように落ちた槍はバイコーンによって踏み潰されてしまった。


 レイモンドは戦局を立て直すためにバイコーンから距離を取りマシューと合流することを選択した。バイコーンは様子を伺っているのかレイモンドがその場を離れることについて何も反応を示さなかった。だが、そうだと言って逃げることは許されない。バイコーンはレイモンドを鋭く睨みつけていたからである。


「これはちょっと運が悪かったか。これ以上槍を投げるのは無駄撃ちになりそうだ」


「温存しておきたいが仕方ないね。魔法で一気に勝負をつけよう」


「あぁ。……もしかすると魔法で倒すなら1発で良いのかもしれない。だったらなるべく威力が高い方が良いからな。俺が接近を仕掛けるからその隙にマシューは【火球ファイアボール】を頼んだ!」


 そう言ってレイモンドはバイコーン目掛けて走り出した。レイモンドを正面から睨んでいたバイコーンは応戦するためか突進の予備動作らしき脚の動きを始めた。この隙にマシューはバイコーンの横側に移動していたのである。そんなマシューに気付いた素振りは見えなかった。最早バイコーンはレイモンドしか目に入っていない。


 本来なら動いているものを魔法の標的にするのは難しい。それはどこへ動こうとしているのか分かりづらいからである。今バイコーンは確かに動き出そうとしてはいるが標的はレイモンドであることは明白であり、狙いを定めるのはそう難しい話ではない。


「……【火球ファイアボール】!」


 マシュー渾身の【火球ファイアボール】がレイモンドに今にも突進をしかけようとしていたバイコーンの横腹に見事に直撃したのである。ダメージを負わされたバイコーンは激しくその身をよじった。


 かなりのダメージであることは明白であるが同時にまだ討伐していないことも明白である。せっかく接近したのだ。ここから畳み掛けなければもったいない。その瞬間レイモンドは致命的なミスに気が付いたのである。


 レイモンドの収納袋にはお金と図鑑、そして木彫りのアトラトルと槍が入っている。つまり接近戦用の武器は何も持っていないのだ。クラウンソードはマシューの収納袋の中なのである。


 だがそれで攻撃のチャンスをみすみす逃すレイモンドではない。暴れるバイコーンに接近すると辛うじて壊れずに形を残していた額の槍を力の限り引き抜いた。鮮やかな血が吹き出してくる。相当なダメージが入ったのだろう。バイコーンは上空を向き力無く啼いたかと思うとその場に倒れた。討伐完了である。


「……ふぅ、何とかなったな」


「【火球ファイアボール】で倒しきれなかった時は本当に驚いたよ」


「そうだな、俺もかなり焦ったよ。……あ、そうだマシュー。俺が武器を買うまでの間だけで良いからクラウンソードを貸してくれないか。さすがに接近戦で武器が無いのは厳しかったよ。」


 レイモンドは少し申し訳無さそうである。マシューは何かに気付いたような顔をしたかと思うと収納袋からクラウンソードを取り出してレイモンドに手渡した。いったい何を気付いたのだろうか。


「……どうしたんだ?」


「そう言えば俺が持っていたんだったな。さっきから武器を持ってるのにどうして使わないんだろうって思っていたよ」


「そうだよ。俺もさっき気付いたけどな」


 レイモンドは手渡されたクラウンソードを上手く使ってバイコーンの頭を落とした。討伐の証は角だが採取するのに時間がかかることをレイモンドは覚えていたようである。切り落としたバイコーンの頭を収納袋に入れようとしてレイモンドは手を止めた。


 レイモンドは2つ収納袋を持っている。1つは中に図鑑や木彫りのアトラトル、雑貨そしてお金が何枚か入っており、一応入っているもの同士は干渉しないので気にすることは無いのだがやはり血塗れのものを入れるのは少し抵抗がある。もう1つは今のところ何も入れていない。故に血塗れになりがちな討伐の証を入れるのにはまったく抵抗を感じないのだ。


「……なあ、マシューの収納袋って討伐の証を入れたことがあるよな?」


「あぁ、あるね。……それを入れるのに抵抗があるんだろう? 採取した時や納品した時には何にも思わなかったけど、今冷静に考えるとちょっと嫌だよな」


「だよな。……だったら今マシューの収納袋に入っているものをこの何も入ってない収納袋に入れることにして今マシューが持ってる収納袋を討伐の証を入れる専用にするのはどうだ?」


「……なるほど、それじゃあこれは俺が仕舞えばいいんだな」


 納得した表情でマシューはゆっくりと近づきバイコーンの頭を拾うとすぐさま自分の収納袋に放り込んだ。困惑したのはレイモンドである。収納袋に入っているものを出してから討伐の証を入れる順番で無いと意味が無いと思ったからである。


 使っていない収納袋を渡そうとした姿勢のままで数秒ほど固まったレイモンドはようやくマシューの行動を理解したようで納得した表情を浮かべた。


「……なるほどな。てっきり人の話を聞いてないのかと思ったぜ」


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