第35話 マシューの仮説
読んでくださりありがとうございます。マシューはいったい何に気付いたんでしょうか。
そして朝が来た。マシューは目を覚ますとすぐにベッドから出て部屋のカーテンを開けた。爽やかな青空が広がっている。レイモンドを起こそうと振り返ると既にレイモンドは起きていたようだ。ベッドに腰かけるようにして座ったレイモンドは収納袋を手に持っていた。
「……なぁ、レイモンド。昨日君が夜凪海岸で見つけたものを、……もう一度俺に見せてくれないか?」
マシューがそう言った瞬間レイモンドは大きく目を見開き、収納袋から謎の金属を取り出した。マシューはそれが何であるか昨日の深夜に仮説を立てたのだ。そして今目の前で見てマシューのその仮説は確信に変わったのである。
「……これをお前に見せれば良いのか?」
「あぁ。……俺はこの金属がいったい何のためのものなのか、確信に近い仮説が立てられたのさ」
「……なるほど、マシューも同じことを考えていたとはな」
「同じこと……?」
「あぁ。俺も同じことを考えていた。この金属は恐らく馬の蹄部分だろうな。……それもあのユニコーン像のな。」
どうやら2人は本当に同じことを考えていたようだ。マシューは喜びと落胆が入り混じった複雑な感情を抱きながらレイモンドと同じようにベッドに腰かけるように座り古びた地図を取り出した。
「いつそれに気付いたんだ?」
「ヴィクターの話を聞いている時だな。正直俺はあの時からこのことで頭がいっぱいだったよ」
そう言いながらレイモンドは苦笑いを浮かべていた。確かにあの時レイモンドは上の空だった。なるほど、そのタイミングで気付いていたのならあの上の空も理解出来よう。
「だけど、あのタイミングでお前に言ったって仕方ないだろう?あの時間から出発することなんて出来ない。せめてこのことをお前に言えるのは朝になってからだとその時思ったんだよ。……まあ、黙っているのが無理すぎてものすごく早く寝ようとした結果、結局全然寝れなかったんだけどな」
「なるほどね、それじゃああの時レイモンドは寝て無かったのか。俺が気付いた時は静かな寝息が聞こえていたから熟睡しているのかと思ってたよ」
「……そう言えばマシューは一度起き上がっていたな。なるほどあの時に気付いたのか。ちなみにその時は俺は完全に起きていたぜ。その時は眠れなさすぎて寝息を立てれば寝れるんじゃないかって言う実験中だったからな」
「それなら遠慮なく起こせば良かったよ。すっかり寝てるものだと思っていたんだがな。……話を戻そう。君はその金属が嵐馬荒原のユニコーン像の蹄だと言うんだな?」
「あぁ。ユニコーン像を見た時何か足りないように思えた。思い返せばあの像には蹄が足りないんじゃ無いかと思ってな。……この金属は、サイズと形からしてあのユニコーン像の蹄と考えて間違い無いだろう」
「……同じことを考えていたと言っても全て同じと言う訳では無いようだな。ちょっとそれを俺に貸してくれないか」
どうやらマシューはレイモンドと少し違うことを考えていたようだ。手を伸ばしたレイモンドから受け取るとマシューはその金属を裏返した。恐らく裏部分であろうそこにはところどころ突起のようなものが見られた。マシューはレイモンドにこれを見せたいようである。
「……それがどうかしたのか?」
「君の言うようにこれがあのユニコーン像の蹄だとして、恐らく向きはこちらが上になるだろう。それならこの部分は像との接触部分にあたるはずだ。そんな部分になぜかこうした突起があるのは偶然では無いだろう。それにほら、よく見て見なよ。この突起部分は全て同じようなカーブを描いて作られている。そして一番高い場所はどこかへ引っかけるかのような形状だ」
「……確かにマシューの言う通りかもしれないな。あの像の裏がどうなっているのか確かにまだ見ていない。……もしぴったりはまるのなら、何か秘密がありそうだ」
マシューは無言で頷いた。そこから2人は急いで出発の準備を整え朝食を食べてすぐに嵐馬荒原へと向かった。道中2人は一言も言葉を交わさない。2人とも早くあの像へ辿り着くことしか頭に無く前だけを見ていた。そうして2人はユニコーン像の前までたどり着いたのである。
レイモンドはしゃがみこみながらじっとユニコーン像を見つめた。少し古いからだろうか台座と繋がっている脚の蹄は確認出来ない。だがこのユニコーン像は左前脚だけ上に上げられている、となれば左前脚には蹄があるはずだ。
念のためとレイモンドは図鑑を開いた。そこに描かれているユニコーンの脚にはそれぞれに蹄が丁寧に描かれている。図鑑をパタンと閉じてレイモンドはニヤリと笑みを浮かべた。
「……やはりどこか足りないと思っていたのは蹄で間違い無さそうだ」
「あぁ、早速だが裏側を確認してみよう。……俺の仮説が正しければ足の裏側には同じようにカーブを描いた溝があるはずだ。……ふむ、どうやら仮説はかなり正しそうだぞ。かなり上手い具合でぴったりはまりそうだ」
マシューはレイモンドからあの金属を受け取るとゆっくりと溝にはめこみ、反時計回りに捻った。カチッと言う確かな手ごたえをマシューは手のひらに感じた。その瞬間辺り一帯の空気が冷たく鋭くなり、ユニコーン像の瞳に光が宿った。こうしてユニコーン像に魂が宿ったのである。
「……何か来る。伏せろマシュー‼︎」
レイモンドはユニコーン像から離れないでいたマシューを強引に引き剥がして伏せさせ、自分もそのすぐ横で伏せた。次の瞬間ユニコーン像を中心に光の柱か現れ2人を呑み込んだ。
その光は2人を呑み込みユニコーン像ごと消えたのである。像があった場所には風属性の魔法を思わせる小さな緑の球体が漂うのみ。まるで今まで何も無かったかのような空間となったのだ。
そんな場所へゆっくりと歩み寄る男がいた。彼はほぼ新品に近いような鎧に身を包み駆け出しの冒険者のような風貌である。
「……弱ったなぁ。まさか鍵の蹄を既に手に入れているとは思わなかった。彼らは今嵐馬平原にいるのか。……まったく、ここに辿り着くのはまだ先だと思っていたよ。……ここを下手に追いかけて不審がられるのが一番面倒か。仕方ない、彼らが出てくるまでゆっくりと待つことにしようかね」