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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第1章 風吹き荒れる平原の中で
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第34話 嵐馬

 読んでくださりありがとうございます。バーナードが持ってきたのは夕食でした。


「あれ? ビールを取りに行ったんじゃ無いのか?」


「俺もそのつもりだったんだがちょうど料理の準備が整ったらしくてな。一度に運ぶのは危ないからビールを取りにまた向こうへ行ってくるよ。ええと、……ジョッキは4杯でいいか?」


 そう言ってバーナードはニヤリと笑った。ぎょっとした顔でマシューとレイモンドはバーナードの顔を見た。2人とも酒全般が苦手でありジョッキを持って来られても困るのだ。


「俺たちの分はいらないよ! ビール……と言うか酒はあまり好きじゃ無いんだ」


「……残念だが仕方ないな。それじゃあ追加のジョッキは1杯で良いな。もうちょっと待っててくれ。」


そう言うと再びバーナードは食堂を去っていった。危ないところだったと肩をすくめてみせたマシューを見てヴィクターはカレーを食べながら豪快に笑っていた。


「酒が苦手なのにジョッキでビールはちょっとキツイよな。俺も始めの頃は呑めなかったからその気持ちは分かるぜ」


「……呑んだことが無い訳じゃ無いんだが、どうも苦手でな。酒は好きになれそうに無い」


「ふふっ、そんなことを言ってるが結構後から呑めるようになる人もいるぜ? 俺の予想では後2年もすりゃジョッキでビールを呑んでるな。その時は一緒に呑もうぜ。ジョッキにビールを注いでやるよ」


「……そうなると良いけどね。そう言えばヴィクターは午後の間は何を?」


「……雑貨屋に寄った後書庫で調べものをしていたな。あそこは良いぞ。色んな文献があるから調べものをするには最適の場所さ。」


「……」


 お金が無くて書庫に入れなかったことを思い出し2人とも無言である。何か気を悪くさせただろうかと首を傾げているがヴィクターは何も悪くないのだ。


「書庫で仕入れた情報をあんたらにも教えてやろうと思っていたんだが……、そう言うのはあんまり好きじゃないのか」


「申し訳無い。ちょっと書庫に良い思い出が無くてな」


「……書庫で? そんな悪いことなんて起きないと思うけどな……。まあ、良いか。あんたら今日の午前に嵐馬荒原に行ったんだろう? あの場所はそれほど強い風も吹いていない場所だがなぜ嵐馬荒原と言うか知ってるか?」


「名前の理由? ……嵐馬と言う別名のモンスターがいる……とか?」


 レイモンドはパッと頭に思いついたことを口に出した。当てるつもりは全く無かったのだがそう言った瞬間ヴィクターは目を見開いた。どうやら当たりのようだ。


「……驚いた。それで当たりだよ。あの場所には嵐馬という別名を持つとあるモンスターがいたって言う言い伝えがあるのさ。そのモンスターの名前はユニコーン。俺は銅像でしか見たことが無いモンスターだ。一度で良いから見てみたいものだよ」


「……ユニコーンか。確かにそれらしきモンスターの銅像があったな。やはりあの銅像のモンスターはユニコーンだったのか」


「あぁ。書庫にあった古い本によればユニコーンは嵐を纏っているのではと思うほど風が強く吹きつける平原にひっそりと暮らしているんだそうだ」


「それが嵐馬荒原……だと?」


「その説が有力だろうな。そうでなきゃあんな銅像建ってないぜ。……ま、荒原と平原で違うから別の場所の可能性ももちろんあるけどな」


 そうヴィクターが言った時食堂の扉が開き奥からバーナードが現れた。今度こそビールを持って来たらしく右手にジョッキを左手に2本ほどの瓶ビールをぶら下げていた。ビールを呑まない2人がこれ以上食堂にいても仕方が無いだろう。そう判断してマシューとレイモンドは自分たちの部屋へと戻った。


 戻りながらマシューは明日のことを考えていた。今日の稼ぎは金貨1枚と銀貨1枚。装備をさらに強化するにはやや心もと無いが地図などの雑貨や書庫に入るための登録料には充分である。明日も再び嵐馬荒原でモンスターを討伐するか、それとも稼いだお金で準備を整えるのか。部屋に戻るまでにその結論は出なかった。


「なぁ、明日はどうするよ」


 結局結論が出なかったためマシューはレイモンドの意見を聞こうとしたのだ。だがなぜかレイモンドは他のことを考えているのか上の空である。


「……明日ねぇ。……起きてから考えるじゃあダメなのか?」


「別にそれでも良いけどまだ寝るには早いし、今決めたって変わりは無いだろう?」


「なら起きてから決めることにしようぜ。俺はなんだか眠くなって来て今何にも頭に思いつかないんだ。だからもう寝ることにするよ。それじゃおやすみ」


 そう言うとレイモンドはさっさとベッドに潜り込んでしまった。いつもと違った様子のレイモンドにマシューは戸惑いを隠せない。だが寝ようとしているレイモンドを起こしてまで明日の予定を立てることは優先すべきでは無いだろう。


 まだ寝るには早いが起きていても恐らく結論は出せない。仕方なくマシューも寝ることにしたのだ。開いていたカーテンを静かに閉めるとマシューもベッドへ潜り込んだ。隣のベッドからは既にレイモンドの寝息が聞こえて来ている。そうは見えなかったがどうやらレイモンドは相当眠かったようだ。そのことに気付いたマシューは微笑むと瞳を閉じた。





 ……帝都に住む誰もが寝ているであろう深夜に1人マシューは眠れずに目を開けた。こんな時間に起きてしまったのは早く眠りについたからではない。あることが気になって仕方が無かったのだ。マシューはゆっくりと記憶を辿った。だが鮮明には思い出せない。


 思い出そうとしているそれはレイモンドが持っているのだ。確認するためには彼を起こさなければいけない。寝ているレイモンドを起こすようなことをマシューは気になっているのだ。


 もしレイモンドの眠りが浅いのなら起こしてみよう。そう考えたマシューはベッドから降り、レイモンドの様子をそっとうかがった。部屋は暗くレイモンドの顔は見えない。だが、静かな寝息は聞こえて来た。


「(……起こすのはやめておくか。別に急ぐ必要は無いからね。……おやすみ、レイモンド)」


 マシューは自分が気付いたことを明日の朝に話すことに決めた。レイモンドはそれを聞いて何を言うだろうか。それを考えるとなんだか楽しくなって来たマシューは顔を綻ばせながら再び眠りについた。



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