第28話 戦闘は上々
読んでくださりありがとうございます。戦闘開始です。
レイモンドはそう言いながら収納袋を広げて両手を突っ込み右手で木彫りのアトラトルを左手で勢いよく取り出した。その勢いそのままに1本目の槍をぶん投げたのである。アトラトルによって加速された槍はまっすぐバイコーンの左肩付近に刺さった。痛みからかバイコーンは激しく体をうねらせている。
「……へぇ、当てられるもんだな。意外とコントロールするのは簡単なのかい?」
「いや、当たったのはたまたまだ。第一狙ったところはバイコーンの顔だからな。外れてると言えば外れてるね」
バイコーンは前足を大きく前に出している。まるで力をためているようだと2人が感じた瞬間バイコーンの角の間辺りに手のひら大ほどの緑色の球体が現れた。その球体は2人が発動させた初級属性魔法と酷似している。故にそれは魔法だと考えるのが自然であろう。
緩い放物線を描きながらその緑色の球体はマシューに迫って来た。マシューは落ち着いて軌道を確認しつつ右横に飛び込むようにして回避に成功したのである。球体は地面に当たるとやや強い風を放出させた。
「……風? ならあの球体は初級魔法で風属性というところか。そういえば風属性の魔法を使ってくると言っていたな。【火球】や【水球】とかなり似ているから……【風球】なんて名前じゃないかな」
「マシュー! そんなに落ち着いて見ている暇は無いぞ! すぐ次が来そうだ‼︎」
レイモンドのその叫び声を聞き慌ててマシューはバイコーンの方を見た。なるほどまた同じ攻撃が来るらしい。バイコーンの角の間辺りに再び【風球】が現れていた。今度はマシューではなくレイモンドを狙ったようでレイモンドめがけて緩やかな放物線を描いて【風球】は飛んでいった。
レイモンドは回避しようとせずに防御を固めるようだ。【風球】が到達するタイミングに合わせて銀の大盾を前に押し出した。【風球】の威力が低いのかそれとも銀の大盾が凄いのか、レイモンドは何事も無かったかのような表情である。
「……どうやら威力はそれほどみたいだ。全くと言って良いほどダメージは無いね」
「それは何よりだ。あまり接近出来ないからここは魔法で攻めよう。挟み撃ちの要領で確実に当てるよ?」
「よし来た! それじゃあ行くぜぇ‼︎」
連続で魔法を発動させた反動でもあるのだろうか。その場を動かないバイコーンへ2人は手のひらを向けた。赤と青の球体がそれぞれの魔法の発動に呼応して現れた。
「【火球】‼︎」
「【水球】‼︎」
右側から【火球】が、そして左側から少し遅れて【水球】が追い討ちをかけるかのようにバイコーンに命中した。かなりのダメージを負ったバイコーンはふらつきながら弱々しく唸り声を上げてその場に倒れた。討伐完了である。
「……ふぅ、討伐完了だな」
「討伐の証はバイコーンの角だからさっさと採取してギルドに納品しようぜ。あんまり長居すると別のバイコーンと遭遇しちまうかもしれねぇ」
2人は討伐したバイコーンに近づいた。近くで見ると中々迫力がある顔でありこんなモンスターを討伐したのだと言う気持ちが今更ながらマシューは実感していた。
マシューは角を剥ぎ取るためナイフを取り出した。だがバイコーンの皮膚は硬くナイフの刃は中々通らない。それならとマシューはウェイトソードを取り出したが力任せに切りつけて角を剥ぎ取るイメージが全く湧かないのだ。仕方なしにマシューは綺麗に剥ぎ取ることを諦め手で直接掴むとバイコーンの角を折って手に入れた。
何とか討伐の証を手に入れたマシューはレイモンドの姿を探した。採取するのを手伝ってくれれば良いのにレイモンドは何かを探すようにどこかをふらついているのだ。どこへ行ったのかと思っているとようやくレイモンドが戻って来た。なぜかその表情は少し元気が無かったのである。
「やっぱり見つからないな」
「レイモンド、君はどこに行っていたんだ? 何かを探している感じだったけど」
「投げた槍をなんとか回収出来ないかなって思ってさ。使い捨てとは言っていたけど回収出来ないとも言ってなかったからな。体に刺さって無さそうだったからどこかに飛んで行ったかと思ったが……」
そう言ってレイモンドは頭を掻いている。それを見てマシューは槍が当たってからの記憶を辿り始めた。確かレイモンドが投げた槍はバイコーンの左肩付近に刺さったはずである。そして確かその辺りはちょうど【火球】が当たった場所と近いような気がしたのだ。
マシューはバイコーンの左肩を注意深く確認した。するとかつて槍だったらしき金属が僅かに顔をのぞかせているのが分かった。レイモンドの探していた槍は恐らくこれだろう。
「……なるほど、そんなことになってたか。仕方ない、素直に使い捨てと思って使うことにするよ。それじゃあ帝都に戻るか」