第25話 ちょっと行ってみようぜ
読んでくださりありがとうございます。書庫には入れませんでした。
「……不思議だろうな、鎧着て武器を持ってる人が銀貨1枚払えないで出ていくんだもんな」
「だが、無いものは出せん。書庫に行くのは大人しくお金を稼いでからにしようか」
「あぁ、……そうしようか」
やや気分が沈んでしまったが気持ちを入れ替えて2人は帝都から外へ出る門を目指した。昨日この門を通った時は溢れんばかりの人で賑わっていたものだがこの時間帯は比較的空いているようだ。帝都から出るのに少し時間がかかるのではと予想していた2人だがすんなり帝都を出ることが出来たのである。
「昨日はあっちの道を通って来たんだよな。だったらこっちの道を進めばあの広い地点に出るんじゃないか?」
「そうだね。……あれ? 道の端に何か刺さってないか?」
そう言ってマシューは帝都から外へ二手に続く道に刺さっている木で出来た札を指差した。どうやら道標のようである。右側には1つの、左側には2つの札が設置されており、書いてある内容を確認するために右側にマシューが左側にレイモンドがそれぞれ近づいた。
「ええと、……『この先紅玉の森』か。……なるほど、この目の前の森が多分そうなんだろうな。闘猿の森と何か違うのか?」
帝都へ来た時は一本道だと思っていたが帝都から行くことの出来る森はもう1つあるらしい。どうやら道標のすぐ近くの道から森の中へ入れそうである。地図が示しているバツ印は闘猿の森ではなくこの紅玉の森の中なのではないのだろうか。道標の前でマシューはそんなことを考えていた。
「マシュー! ちょっとこっちに来てくれ!」
レイモンドが道標の前から動かずにマシューを呼んでいた。その声はいつもより少しばかりトーンが高いようだ。どうやらレイモンドも何かを見つけたらしい。
「何が書いてあったんだ?」
「見た方が早いぜ。ほら、早く読めよ」
レイモンドはすっかりテンションが上がっている。言われるがままマシューはレイモンドが指差す道標に顔を近づけた。
「ええと、……『この先嵐馬荒原』。それから……『この先夜凪海岸』か。ん? 海岸?」
「そう! 俺が見てほしかったのはそこだ。この道をまっすぐ進めば海があるみたいだぜ。海なんて見たこと無いからなぁ。ちょっと行ってみようぜ」
「気持ちは分かるけど、そんなことをしている時間はあるのかって話だ。モンスターを討伐してお金を稼がないといけないしさ。……そうだ、魔法の鍛錬もしておかないと」
「魔法の鍛錬ならそれこそ海ですれば良いんじゃ無いか?」
「……なぜだい?」
「俺たちの魔法の属性を思い出してみろよ。俺は水属性だしお前は火属性だ。夜凪海岸がどんな場所かはよく分からないけど海ならきっと水でいっぱいのはずだろう? 海に向かって属性魔法の鍛錬が出来るんじゃないか?」
レイモンドのその言葉に同意するようにマシューは頷いた。こうして2人は予定を変えて魔法の鍛錬をするため夜凪海岸へ向かったのであった。
――
夜凪海岸
――
「こいつが海か……。なるほど、でっけぇや」
レイモンドは思わずそう呟いた。マシューとレイモンドの2人は当初行く予定だった嵐馬荒原を横目でスルーして夜凪海岸へと訪れていた。帝都から約20分ほど歩いた先にその海はある。砂浜へと続く石段の上で2人は突っ立ったままただ海を見ていたのである。
レイモンドが魔法の鍛錬が出来ると言ったゆえにここに来ているのだが、当のレイモンドは初めて見る海に興奮を隠せない。マシューも海は初めて見るがレイモンド程はテンションが上がらなかった。
「……それでレイモンド。この辺りではどんなモンスターが出没しているんだ? 魔法の鍛錬をするんだろう?」
「どんなモンスターが出没しているか……ねぇ。実はあんまり分からなかったんだよ」
「……どうしてだ? 図鑑には何も載ってなかったのか?」
「あぁ、載ってなかった。あの道標を見るまで俺はこの近くにこんな海があるなんて思ってなかったからな」
思ったより呑気な答えが返って来たためマシューは少し呆れたようなため息をついた。そんなマシューには気付かなかったが代わりにレイモンドは何かに気付いたようだ。石段を降りて砂浜へ足を踏み入れるとそのままどんどんとある方向へと進んで行ったのである。慌ててマシューはレイモンドの後を追った。
レイモンドは砂浜のど真ん中でしゃがみ込んでいる。砂浜をよく見てみると辺りに鳥の羽根のようなものが散らばっていた。そしてレイモンドの視線の先には何かにはまってしまったのか思うように動けない鳥モンスターが砂を被っていたのである。
「……それモンスターなのか?」
「あぁ、こいつはブラウンスパローだな。温厚な性格で人間に危害が及ぶことはほぼ無い。一応扱いとしてはモンスターではあるが、ギルドの依頼にも無かったし討伐する必要は無いな。基本的に群れを作るモンスターだが見たところ近くに群れはいない。群れでどこかへ移動している途中で動けなくなったってのが可能性が高いかな。多分原因はこれだろう」
そう言ってレイモンドはブラウンスパローの首にはまりこんでいる金属で出来た銀色の何かを指で弾いた。聞こえて来た音は中々の重みを感じられるものでありブラウンスパローが飛べなくなった原因と考えて間違い無いだろう。
「……何かの罠か?」
「いや、多分違う。罠ならもっと複雑なものなはずだ。これは何かの弾みでたまたま首にはまってしまってバランスを崩して飛べなくなったって感じじゃないかな。……ちょっと痛いかもしれないが我慢しろよ」
そう言いながらレイモンドははまってしまった金属を無理矢理引っ張った。それほど深くははまっていなかったようで金属はすんなりブラウンスパローから外れた。10センチ程の大きさのその金属は持ってみるとやはり中々重い。急に重さが無くなったことで再び飛べるようになったブラウンスパローは嬉しそうにレイモンドの周りを一周してどこかへ飛び去って行った。
「さて、……これ何だろ」
ブラウンスパローが飛んで行くのを見守った後、レイモンドは手元に残った謎の金属を見下ろした。U字型のその金属はところどころに突起が飛び出ていた。改めてよく見てみてもこれがどういうものなのか想像がつかなかった。