第21話 雑貨屋
読んでくださりありがとうございます。さて、次は雑貨屋ですね。
――
雑貨屋
――
雑貨屋の店内はかなり整頓されているようである。綺麗に配置されたテーブルの上にはさまざまな色合いの液体が入った瓶や小さめの水晶が置かれていた。恐らくこの瓶たちは回復薬などの類だろうと思ったマシューだが小さめの水晶が何か分からなかった。試しに1つ手に取ってみたが何の反応も生じない。首を傾げていると店の奥からフードを被った年老いた女性が現れた。恐らくこの女性が雑貨屋の店主なのだろう。
「ええと、あなたが店主で?」
「いかにも私が店主のメリッサじゃよ。魔水晶に関心があるのかい? それはとても良いものじゃよ」
「魔水晶か……。いったいどう言うものなんだ?」
「使い方は簡単。その水晶に魔力をこめるだけじゃ。試しにそいつに魔力を注いでみな」
そう言うとメリッサはフードをさらに深く被った。それで前が見れるのか疑問を浮かべながらマシューは、言われるがまま水晶に魔力を込めてみた。その瞬間魔水晶が激しい光を放った。
目を背けるのが遅かったレイモンドと一番近くにいたマシューはしばらく前が見えない状態になったのである。なるほど、フードを深く被ったのにはこう言う理由があったのかとマシューは少ししてやられた気分で視界が明瞭になるのをじっと待っていた。
「ふむ、それなりに魔力を持っているようじゃの。魔水晶はその中に魔法回路が仕込まれた水晶のことじゃよ。使い方は簡単、自分の魔力を魔水晶に込めるだけ。それだけで魔力の属性に依存せずに簡単な魔法が発動出来るのじゃよ」
「それであの激しい光が放たれたってことか」
「もちろん。その魔水晶には【閃光】の魔法回路が組み込んである。驚かした詫びじゃ、その魔水晶はお前さんに差し上げようかの。遠慮せず持って行くが良い。それでお前さんたちはこの雑貨屋に何を買いに来たんじゃ?」
無料でもらえるようなのでマシューはありがたくその魔水晶を収納袋に仕舞うと手近にあった緑の液体が入った瓶を持ちながらメリッサに近づいた。何故だかその時メリッサの口角は上がっていた。
「冒険に必要なものを揃えたくて。例えばこの回復薬みたいなものを買い揃えたいんだよ」
「ふむ、確かにそれは冒険に必要かもしれないが、気軽に買うようなものでは無いぞ。必要無さそうなら無闇に触るものじゃ無いの」
「……? 気軽に買うようなものでは無い? 回復薬じゃ無いのか。……それじゃあこれは何だ?」
店内に入った時からこの緑の液体が入った瓶は回復薬だろうとマシューは思っていたのだが違うらしい。違うと言われたのだからとマシューは大人しくそれをテーブルの上に戻した。メリッサの方を向くと少し面白く無さそうな顔をしていた。
「……ふむ、雑に扱いはしなかったの。ちなみにそこらにある液体の入った瓶はそれなりに脆い。収納袋に入れる分なら問題ないが、手荒に扱うと即座に割れるから取り扱いには注意するんじゃの。割れたら使えなくなるからもちろん弁償してもらう。当たり前じゃの」
「なるほど、割れたら弁償なのか」
「ちなみにさっきお前さんが持っていたのは全回復薬、金貨1枚の貴重な代物じゃよ。割らなくて良かったもんじゃな」
マシューが勝手にただの回復薬だと思い込んでいたものは全回復薬であり相当貴重なものであるらしい。割れなくて良かったと安堵したマシューはメリッサに向けて頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「分かりゃ良いのさ」
「……しかし全回復薬なんて言う貴重なものをどうしてこんな無造作に置いてあるんだい?」
「そりゃあ簡単だよ。うちで扱ってる雑貨の中で価値の割に手に入りやすいものだからさ。お前さんのようにここに来て不用意に商品を手に取る人間は山ほどおる。そう言う者たちに自制を促すには適役じゃの」
「……つまり不用意に触ると危険なものも置いてある……と?」
「そう言うことじゃ。例えばそこにある赤い液体の入った瓶が見えるか?」
そう言ってメリッサはテーブルの端を指差した。なるほど赤い液体の入った瓶がそこに置いてあった。商品として並べてあるにしては置いてある場所が端っこのように思われる。2人は瓶を見つけてメリッサに向き直るとレイモンドはあることに気が付いた。メリッサの近くにもその瓶があったのである。
「ええと、そこにある瓶もそうなのか?」
「おぉ! よく気付いたな。私の近くにもその瓶は置くようにしているのじゃよ。察しの良いお前さんに聞いてみようかの。……この瓶、一体何だと思う?」
メリッサは赤い液体が入った瓶を顔の横に持っていきニヤリと笑った。恐らくその顔と先程までの話から考えるに何か危険なものであることは間違いない。指名されたレイモンドは考え込んだ。
「……爆弾とか?」
「おぉ! 正解じゃ! 良かったのお前さん。あの男は相当察しが良い。一緒に行動すればお前さんの目的は果たせるじゃろう。後はお前さんが気を付けるだけじゃ。何そこまで心配は要らん。……そうじゃ、お前さんたちの名前を聞いておこう」