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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第1章 風吹き荒れる平原の中で
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第19話 店主からの提案

 読んでくださりありがとうございます。マシューは良さそうな剣を見つけたようです。


「マシュー、何かいい武器でも見つかったか?」


「あぁ、剣がいっぱい置いてあったんだがこれが一番良いかな……と」


 そう言ってマシューはレイモンドに手にした剣を差し出した。剣先からしっかりとした重みが感じられるその剣は長く使っていけそうに思える見事な代物である。


「……これは良い剣だな。少し重いがその重みがなぜか逆に心地良い。……うん、俺もこの剣は良いと思うよ」


「ふむ、数ある剣からこの剣を選んだか。そっちのお前さんも中々見る目がありそうじゃの」


 レイモンドの隣でライアンが満足そうに頷いていた。先程から会話している故にレイモンドは何も思わなかったがそのことを知らないマシューは困惑した表情を浮かべていた。マシューにとっては全く知らない人なのだから仕方あるまい。


「ええと、……そのおじいさんはレイモンドの知り合いか?」


「あぁ、この人? この人はここの店主のライアンだよ」


「ライアンだ、ひとつよろしく頼む」


「あぁ、なんだ。てっきりレイモンドの知り合いだと思ってしまったよ」


 ライアンが店主だと分かるとマシューは安心した表情を見せた。ライアンはレイモンドが持っている剣を手に取るとマシューの方をじっと見上げた。


「さて、この剣は名前をウェイトソードと言うんだがわしの店でもかなり良質な一振りじゃ。値段は金貨2枚と少々高いがそれだけの価値はある代物じゃの」


 それを聞いたマシューは微妙な顔で少し下を向いた。金貨2枚ならギリギリ出せなくも無い。だがそれは他のもの、例えばレイモンドの武器や2人ともの防具、それに薬や地図などの雑貨などを買うためのお金を全てこの剣に注ぎ込めばギリギリ出すことが出来ると言う意味である。


 まだ雑貨屋に行っておらず値段の相場が分かっていない状態でとても金貨2枚は出せまい。心惜しいが今は諦めるべきだ。苦々しい顔を浮かべながらマシューは心の中でそう決断し顔を上げた。目の前のライアンは穏やかに微笑んでいた。


「……金が出せないって顔をしてるな?」


「……ええ、まあ。買うべきものが武器だけならギリギリ出せる値段だが、見ての通り防具も買う必要がある。それに薬とか地図とかも買わないと」


 ギリギリ出せる値段。そう聞いたライアンはニヤリと笑った。その眼は確かな鋭さを放っていた。穏やかな老人と思い込んでいたマシューは戸惑いの表情が顔から隠しきれていない。


「勿体無いよな、こんな良いものを今買わないなんてよ。いつ売り切れちまうか分かんねぇぞ? ……なぁ? お前さんもそう思うだろ」


「まったく、その通り。こんな良いもの買わないなんて勿体無い」


「……そんなこと言ってもとても金貨2枚は出せない。レイモンドだって今の所持金を知ってるだろう?」


「あぁ、知ってるさ。そこからこの木彫りのアトラトルの値段をさらに引かないといけない。残金から考えるととてもじゃないが出せない」


「待て。……もう何か武器を買ったのか?木彫りのアトラトル……?」


「おう! 良い買い物だったぜ」


 レイモンドはそう言って収納袋から先程買った木彫りのアトラトルを取り出した。出せるお金が限られている以上防具などの値段を吟味してから買い物をすると思っていたマシューは少し不満顔である。そんなマシューを放置してレイモンドはライアンの顔をじっと見つめた。


「……さすがに金貨2枚から値下げは……?」


「無理だな。そもそもその剣は気に入ってくれた者になるべく負担にならんように既に限界まで値下げしてるのじゃよ。だからこれ以上の値下げは不可能だ。……だが、それはあくまでこのウェイトソードに関しての話だ」


 そう言うとライアンはまっすぐマシューの顔を見た。ライアンの言っていることがいまいち掴みきれていないマシューは瞬きの数が先程から増え続けている。そんなマシューを見て再びニヤリと笑うとライアンは口を開いた。


「さっきギリギリ出せる値段と言ったの? その言葉に嘘は無いな?」


「……? ええ、まあ。防具とか地図を買うことを度外視すれば出せる値段では……」


「具体的に言ってくれ。今お前さんたちの所持金はいくらだ?」


 マシューにはその質問の意図が分からない。マシューは視線でレイモンドに助けを求めた。先程からライアンと妙に親しげなレイモンドならライアンの質問の意図が分かるに違いない。


「今の手持ちは……金貨が2枚、銀貨が7枚、銅貨が5枚。この剣に金貨2枚払えば手持ちの金貨が0になる計算でこちらとしては正直厳しいかと」


「なんだ案外あるじゃねぇか。雑貨屋に薬や地図をって言ってるところを見るとまだ何一つ買ってないんだろう?そいつらは真っ先に買うべきものだからな」


「……はい」


「そこでわしからお前さんに提案だ。お前さんたちの防具を、そうだな……銀貨4枚、銅貨5枚じゃな。その値段でわしが全部見繕ってやろう。条件はその剣をお前さんが買うなら……じゃ」


 ライアンが出して来た提案はつまりこう言うことである。手元に銀貨3枚を残した状態でマシューたちの防具を選んでくれると言う訳だ。それはすなわちその提案を受け入れれば2人とも武器と防具を購入出来た上で雑貨屋の分もお金を残せると言う意味である。


 ライアンは真剣な表情であり、そこに嘘は微塵も感じられない。それだけにマシューは戸惑いを隠せない。なぜなら2人にメリットがありすぎるからである。


「……どうしてそこまで…」


 その質問に答える代わりにライアンはまっすぐマシューへ近づくとマシューの持っているウェイトソードを手に取り眺め始めた。


「……例えばこの剣はわしが自信をもって冒険者に使ってほしい代物じゃが、特別な場所には置かないようにしている。むしろ他の剣とごちゃ混ぜにして置いてなかったかの?」


 そう言われてマシューは周りを見ながらこの剣を見つけた時を思い出していた。色んな武器をごちゃ混ぜにして置いてある場所でまるで元からそれがあるのを知っていたかのようにマシューはウェイトソードを手に取ったのだ。なぜそれを手に取ったのかをマシューは説明することが出来ない。


「わしはな、武器が人を選ぶものだと信じておる。良い人のもとに良い武器がやって来る。そう思っておるのじゃ。だからこそ、金が出せんなんて言うつまらない理由で諦めて欲しくは無いのじゃよ。……さて、お前さん。わしからの提案をどうする?」


「…………受けます。受けさせてください!」


「決まりじゃの、それじゃあ2人ともそこでしばらく待っておけ。わしが防具を探して来てやろう」


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