第18話 小柄な武器屋の主
読んでくださりありがとうございます。2人は買い物をするようです。
「どちらもございますよ。今からでも空いてると思います。……良ければ地図に書きましょうか?」
「是非お願いしたい」
「それでしたら下で地図を書いておきますから……、そうですね、大体5分後くらいにカウンターまで降りて来てくださいませ」
そう言うとポーラは急ぎ足で部屋を去って行った。部屋にはマシューとレイモンドの2人きりである。レイモンドは安心したとばかりに大きく息を吐くとベッドに座り込んだ。疲れこそまだ見えないがかなり張りつめていたようである。
「とりあえずなんとかなりそうで良かったよ。明日以降のことを早いとこ考えないとな」
「そうだな。……多分書庫である程度調べた後でどこかで依頼をこなしながら金を稼ぐ感じじゃないかな。だがそれはあくまで売ってるものの値段次第だより武器の値段もそうだが薬や地図の値段も気にしないといけない。早くお金を稼ぐ手段を確立させないとな」
「最悪この装備で当面は活動しないとダメかもしれないな。値段の予想がまるでつかない。まあそれは行ったら分かることだ。この部屋をちょっと確かめてから下へ降りようぜ。それでちょうど地図が書き上がるくらいになるだろ」
部屋にある備品や棚の位置などをあらかた把握した2人はポーラが部屋を去ってからちょうど5分後に部屋を出てカウンターへと降りて行った。既に地図は出来上がっており後はそれに従って出発するだけである。2人は少し悩んだ後、先に武器屋に行くことに決めた。
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武器屋
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店内には刀や短剣、弓など多種多様な武器が並べられていた。ここは1つの武器種に特化はせず満遍なく取り扱う店なのだろう。そもそも自分たちの武器の適性もまだ分かっていない2人にとってはその方が都合が良いのである。店主の姿が見えないので2人は自由に見て回ることにした。
「……結構色んな種類の武器があるものなんだな。こんなのなんて初めて見るぜ。……これはいったいなんだ?」
レイモンドは興味津々に周囲を見渡しとある武器を手に取った。ただの木の枝のようにも見えるが何かを装着させるらしきくぼみや取っ掛かりが見られる。それが置いてあった近くにはアトラトルと刻まれた石版が置かれていた。
「……そいつは木彫りのアトラトルって言ってな。槍を装着させて投げる武器じゃよ。魔力を上手く駆使してやれば剣より遥かに扱いやすいぞ?」
突然聞こえて来たその声に振り返るとそこにはやや小柄な老人がいた。恐らくこの人がこの武器屋の店主なのだろう。その老人はレイモンドの顔を見てニヤリと笑った。
「わしはこの武器屋の店主ライアンじゃ、ひとつよろしく頼む」
「……いつの間に背後に? いやそもそも何で背後に回ったんだ?」
「お前さんがそれを手に取ったくらいで既にわしはお前さんの背後にはおったよ。正確にはお前さんたちがわしに気付かずに勝手に通り過ぎただけじゃがの。……ふむ、ここに来て最初にそれを手に取るとは中々面白い。通常ならその木彫りのアトラトルは銀貨5枚ってところだが特別に2枚で譲ってやろう。どうだ? 買うか?」
どうやら手に取った武器はかなり珍しいものらしい。そして気に入ったのなら安く売ってやるぞとライアンは言っているのだ。手に取ったのも何かの縁レイモンドはこの武器を買おうと収納袋に手を伸ばしてその手を途中で止めた。買う前に確認しなければならないことに気付いたのだ。
「さっきこれは槍を投げるものだと言ったが、投げる槍はどこに? 当然それにもお金がかかるんじゃないか?」
それを聞いてライアンは右眉を少し上げ近くの籠を手に取りレイモンドの前に置いた。その籠には木で出来ているらしい簡素な槍が20本程入っていた。
「……投げる槍はこいつだ。見れば分かるが使い捨ての槍、使えば使うほど補充が必要にはなる。うちではこれを10本につき銅貨5枚の値段をつけておるの」
「やっぱりか。段々槍の補充が気になってくる系の武器ってことだな。悪いが他の武器を買うことにするよ」
そう言ってレイモンドは手にした木彫りのアトラトルを戻そうとした。少し面白そうだと思っていたが値段がかさむ武器を買う必要性が無いのだ。少なくとも今買うべき武器では無いはずだ。
「ふむ、……お前さん。この籠にある槍をタダでくれてやるって言ったらそれ買うのか?」
「……そうだな。それが無料って言うなら買うかもしれない。」
レイモンドのその返答を聞いたライアンは満面の笑みを浮かべた。レイモンドはその理由が分からず思わず眉をひそめた。
「なら買っていけ。ついでにこの槍も半分持って行け。……今回だけだがな」
そう言うとライアンは籠から槍を10本程取るとレイモンドに押し付けた。レイモンドはありがたいと思いつつも困惑した表情を浮かべた。ライアンへのメリットが全く浮かばないのだ。
「……それは俺にとっては嬉しいが、あんたには苦しい提案なんじゃないか? 別に武器を買わないって訳じゃない。これを買わないってだけだ」
「わしは武器屋。商売するのが仕事じゃよ。……だが、この仕事は武器が好きだからやってるもんだ。一目で気に入った武器を値段で諦めるのは勿体ないの。それならわしが出来る最大限の値下げで買ってもらった方がその武器にとっても嬉しいだろうよ。心配するな、すぐ使わなくてもいずれ使うタイミングが来るさ」
ライアンは穏やかな笑みを浮かべていた。そんな笑みを浮かべている人にこの武器は買わないとはとても言えない。そう思ったレイモンドは今度こそ収納袋に手を伸ばした。
「そこまで言うなら買うことにするよ。……本当に銀貨2枚で良いのか?」
「あぁ、良いとも。是非使ってやってやれ」
こうして木彫りのアトラトルを購入したレイモンドはさらに何か武器を買おうと再び周りを見渡し始めた。するとこちらへマシューが近づいて来るのが見えた。手には真新しい剣が握られていた。