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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第6章 その正義は誰がために
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第31話 さあ、最後の冒険を始めようか!

 読んでくださりありがとうございます。マシューはとうとう勇者となりました。そしてマシューの冒険も終わりが近づいてきています……。


 魔水晶はマシューの目の前で漂っている。マシューは勇者となる覚悟は決めた。それが父から託された使命だったからだ。そして魔水晶に触れれば魔王の棲む深淵城とやらに転移することが出来る。


魔王を倒すことは勇者に課せられた使命である。勇者になる覚悟を決めたマシューはそれもまた覚悟した上である。……とは言え、すぐに転移出来るほどその覚悟は強くはなかった。父でさえ勝てなかった相手に果たして自分が立ち向かえるのか。そんな考えがマシューの覚悟を揺らしていたのだ。


「……行かねえのか?」


「……!」


 振り返るとレイモンドがニヤリとした笑みを浮かべながら近づいて来た。その表情は何だか楽しそうである。


「……楽しそうだな」


「ふっ、そりゃあ楽しいに決まっているさ。ワクワクして来ないか? あの日偶然見つけた地下室から、俺たちの旅は始まった。……今、お前はお前の父さんの秘密を知り、そして勇者となり魔王へ立ち向かおうとしている。こんなもの予想なんて出来るはずがねぇ。……だからよ、……楽しんでいこうぜ」


「……レイモンド」


「それにお前はひとりじゃない。お前の近くにはエルヴィスも、エレナも、ニコラも、……それに俺もいる」


 マシューはゆっくりと周囲を見渡した。エルヴィスも、エレナも、ニコラも、……そしてレイモンドも。全員がマシューの方を見て優しく微笑んでいた。その表情からは自分への信頼が見て取れる。これが固有の魔法の【信頼トラスト】の効果なのだろうか。


 いや、違う。マシューはそう言い切れた。いつだって皆マシューを信頼し、思い思いの方法でその信頼を形にしてきたのだ。ここにはいないが、アンガスやポール、バーナードやアレックス。他にも色々な人や動物たちがこれまでのマシューの旅を後押ししてくれていたのだ。


 そんな彼らにマシューは何を返すことが出来るか。思い浮かぶことはたったひとつ。勇者としての使命を果たすこと。……それを果たすためにもう少しだけ力を借りても良いだろう。


「……レイモンド。……頼みがあるんだ」


 マシューの声が少し小さなものになった。相変わらずこの勇者は不安になると声が小さくなるらしい。不安なんて思う必要は無いのだ。それが分かっていてレイモンドはマシューの言葉を手で制した。


「待て、それは後で良い。……まずはみんなに問いかける方が先だろ?」


 レイモンドは裏表ない笑顔を浮かべている。ああ、やはり彼は自分よりも自分のことを理解しているんだな。そのことが実感されマシューは思わず笑みを浮かべた。


「……それもそうだな。……みんな、頼みがあるんだ」


 そう言ってマシューは再び皆の顔を見渡した。皆マシューの顔をじっと見つめて笑みを浮かべている。その表情に曇りは一切ない。ああ、自分はなんと恵まれているのだろうか。


「……魔王を倒すために協力して欲しいんだ」


「なんだ、そんなことか。それはもちろん協力するよ! 当たり前だろう? いらないって言ったってついて行くからね!」


「……エレナ」


「ああ、ここまで来て協力しない訳は無いさ。私も私に出来る限り君に協力するよ」


「……ニコラ」


「当然僕も協力するよ。……以前言ってくれただろう? 君を心から信頼しているって。今度は僕がそれに応える番だよ」


「……エルヴィス」


「……ふふ、聞くまでも無かったか。喜べマシュー。みんなお前のことを信頼しているんだってよ」


 マシューは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべている。マシューはこれまでこんなにもたくさんの存在から信頼されたことなど無かったのだ。故にこうした局面で浮かべる表情をそれしか知らないのである。そしてそのことを皆もまた知っていたのだ。


「……レイモンド。……頼みがあるんだ」


「……おう」


「俺の隣で……一緒に」


「戦ってくれないか。……か?」


 いたずらっぽくレイモンドは笑っている。やはりレイモンドには全て筒抜けのようだ。レイモンドには敵わない。マシューは嬉しさと恥ずかしさが混じった幸せそうな微笑みを浮かべた。


「何年一緒にいると思ってる。お前の考えてることなんて口に出さなくても分かるさ。……もちろん俺はお前の隣で一緒に戦うよ。当たり前だろ?」


 そう言うとレイモンドはまた裏表ない笑顔を浮かべた。自分はなんて幸せなんだろう。自分の心の中に幸福感が満ちていくのをマシューはゆっくりと噛み締めそして笑った。


「ふふ、……俺は幸せ者だな。こんなにも恵まれている」


「そのようだな。これほどまでに皆に好かれる勇者もまた珍しい」


 振り返ると霊竜ウタカタが優しい微笑みを浮かべていたのだ。この場に漂う雰囲気に流されてかウタカタも気のせいか何だか幸せそうに見える。


「覚悟は決まったかな?」


「ああ、……ここにいる全員で、深淵城に転移する」


「……なるほど、それもまた正しい選択かもしれんな。……勇者となったそなたにはアーノルドの家名と、称号が与えられる。そなたに与えられる称号は【絆】。……絆の勇者たちよ、その健闘を祈っている」


 マシューはその言葉に頷き魔水晶へ手を伸ばした。4人もまたそれに続いて手を伸ばす。こうして勇者候補マシューは絆の勇者となり、信頼できる仲間と共に深淵城へと最後の戦いに赴くのであった。


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