第27話 浮遊城
読んでくださりありがとうございます。霊竜ウタカタの棲む城にたどり着きました。
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浮遊城
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「これが霊竜ウタカタの棲む城……。予想以上に……高いな」
【転移】の魔水晶によって転移された場所は霊竜ウタカタの棲む浮遊城の入り口である。座標としてはテーベと同じではあるものの、浮遊城の名前の通りこの城は空に浮いているのだ。
そして見上げても尚視界に入りきらないほどにその城は高く聳え立っていたのである。その見た目は城と言うよりは塔の方が近いかもしれない。
マシューに続いて4人とも転移された。皆同じようなリアクションをしている。恐らくそれぞれが思い思いに城の姿を想像しながら転移し、その想像とは違うことにやや戸惑っているのだろう。
「……すごいなてっぺんが見えない。いったいどれほどの高さがあるんだろうか」
「見えないんじゃどうすることも出来ない。俺らに出来ることはただ上を目指すだけ。……さ、中へ入ろう」
そう言ってマシューは浮遊城の入り口の扉を開けた。扉の奥から少し光が漏れる。中は案外明るいようだ。恐らくそれは等間隔に設置された壁掛けの燭台のおかげだろう。とはいえそれは些末なことである。
マシューたちの目の前にあるのは壁に沿って続く螺旋階段。その中心は吹き抜けになっておらず階層ごとに床で区切られており、それ故にここからでは何階まで登らねばならないかの見当がつかない。見渡しても螺旋階段以外に上の階層を目指す手段はない。どうやらこれを登るしか無いようだ。
「……外観から考えるに、この螺旋階段は途方もなく続いている。ちょっと進むには覚悟が要りそうだな」
「だが、それ以外に方法は無さそうだ。適宜休憩を取りながらゆっくり登っていく他ない。……覚悟を決めないとな」
レイモンドのその言葉にマシューも頷いて応えた。ここまで来て登らない選択肢は無い。途方もないこの螺旋階段がどこまで続くかは分からないが、霊竜ウタカタに出会うには登る以外の方法は無いのだ。いち早く覚悟を決めたマシューは振り返り全員の顔を見た。誰もこの螺旋階段を登ることに躊躇いはなさそうである。頼もしい限りだ。
「……今からこの螺旋階段を登っていく。休まずに進みたいところだが、長さを考えるとそれは不可能に近い。適宜休憩を取るつもりだから休憩したくなればその時に言ってくれ」
「了解」
どうやら皆の覚悟ももう決まったらしい。そのことを嬉しく思うマシューは優しい笑みを浮かべ、前へ向き直り螺旋階段を登り始めた。誰もいない空間に5人が階段を登る音だけが辺りに響き渡った。
浮遊城は階層ごとに床で区切られており、当然だがその階層ごとに螺旋階段は途切れてしまう。何も見落とすことの無いよう階層ごとに何か変わったものが無いか先頭のマシューは毎度確かめてはいるのだ。……だが今のところその甲斐は無い。どの階層もただ何もない床があるだけである。
「……少し、休憩しないか」
マシューの後ろからエレナのそんな声が聞こえてきた。今にも螺旋階段の続きを登り始めようとしていた足を止め、振り返るとエレナが疲れた表情で息を切らしている。階層で言えばここは7階にあたり、かなりの螺旋階段を歩いた計算になる。まだそれほど疲れは感じないが、そろそろ休憩しても良いタイミングであろう。
「そうだな、休憩しよう」
何も無い床故に何の遠慮もなく座ることができる。エレナは結構疲れてしまったようで足を投げ出すように座り込んだ。休憩しているのだから立ち続ける理由もない。マシューもエレナにならって足を投げ出すようにして座り込んだ。
「……いったいどれだけこの螺旋階段は続いているんだろう?」
「それは何とも言えない。案外次の階層であっさり終わりかもしれないし、まだまだここは序の口なのかもしれない。……せめて吹き抜けになっていれば予想も立てられるんだけどな」
マシューの言葉を聞きながらエレナは天井を眺めていた。いくら眺めても螺旋階段がどこまで続くのかは分からない。恐らくエレナもそれは分かっている。見るものが無い故に見上げているのだ。
「今ここは7階。この螺旋階段がどこまで続くかは分からないがひとまずこれをひとつのペースと考えよう」
「……と言うと?」
「次に6階分登ればまた休憩を取ろうと言う話だよ。出来る限り登ってはおきたいが体力にも限界はある。いつまで登るか分からない以上登るペースは落とさない方が良いだろう」
マシューのその提案に誰も異議は唱えない。登り始めた時マシューは適宜休憩を取ると決めたがそう何度も休憩を取るわけにもいかない。言わばこの休憩はひとつの基準であるのだ。
それならもっと早く休憩を提案すれば良かったという考えを胸の奥に仕舞い込んでエレナは立ち上がった。もう休憩は充分である。
「よし、それじゃあ出発しよう」
こうして5人はまた螺旋階段を登り始めた。休憩地点を決めた故に先程よりも足取りはやや軽い。目標地点が決まっていればモチベーションを保ちやすいのだ。……もっともそれはそれほど効果を発揮しなかったのだが。
「……ん?」
様子が変わったことに最初に気付いたのはもちろん先頭にいるマシューである。階層で言えば10階にあたるその階層には今までとは異なり床の中心に竜をかたどった銅像が台座の上に置かれていたのだ。そしてその像の中心部分にひとつ立派な剣が刺さっていたのである。