第25話 謎はまだ解けない
読んでくださりありがとうございます。マシューの父は時の勇者だったようです。しかしまだ不可解な点は残っているのです。
マシューは収納袋から手紙を取り出しじっと見つめた。書かれた文字が父のものであることをマシューは確信している。ニコラの言う勇者候補になる条件が正しいのであればマシューが勇者候補となったのは間違いなく地下室にマシューたちが入ったあの日である。
「……ニコラの話が正しいのなら、父さんが勇者だったことは事実なんだろう。そして父さんが時の勇者だったのなら、聖騎士から命を狙われていたのも納得がいく」
「……マシュー」
マシューのその口調はやや投げやりであり、それを感じ取ったレイモンドは少し心配そうな表情をしていた。マシューが旅に出た理由は父が殺された理由と父がしたかったことを知るためである。言ってしまえばその目的は既に果たされているのだ。
「……ちょっと待ってくれ。それじゃあケヴィンさんは聖騎士に殺されたのか?」
ニコラは何かが引っかかったらしい。それに対する答えは簡単に出せる。その記憶は決して薄れてしまわないように記憶に刻み込んであるのだ。忘れられない、忘れてはいけない記憶である。
「ああ。……忘れもしない。3年前突如テーベへとやって来た聖騎士たちによって俺の父さんは殺されたんだ。レイモンドのお祖父さんと一緒にね」
「……おかしい」
「……は?」
「それはおかしいんだよマシュー。君が知っているかは分からないが、勇者の持つ《七つの秘宝》はその持ち主が死んだ時ひとつを除いて元の場所に戻されるんだ。……深緑の騎士団が保管・管理する《勇気》の象徴、獅子頭の兜が元の場所へ戻されたのは5年前のこと。つまり5年前にはケヴィンさんは既に亡くなっているはずなんだ」
ニコラの話を聞きながらマシューは修羅の国でアイザックがしていた話を思い出していた。確かにアイザックはあの時に5年前時の勇者が突然消息を絶った数日前には既に元の場所へ戻ってきていたと言っていた。
「……5年前に時の勇者は亡くなっていた? ……時の勇者であるマシューの父さんが殺されたのは3年前、その時には時の勇者は既に亡くなっていたはず。……ええと、つまりどういうことだ?」
「……分からない。謎が増えただけだ。ただひとつ分かっていることは」
不意にマシューが手に持つ明かりの火が小さくなった。それにより見える範囲も狭くなりマシューの表情は一切見えなくなる。少しだけ場の空気に緊張が走った。
「【着火】」
暗闇でマシューの声が響く。再び発動された【着火】によってマシューの表情がくっきりと見える。彼は力強い微笑みを浮かべていた。
「まだ旅を終えてはいけないってことだけさ」
レイモンドは少しだけ肩をすくめてみせた。レイモンドはマシューがこの瞬間に全てを止めてしまうような気がしていたのだ。だが、それは要らぬ心配だったようだ。
「霊竜ウタカタはこの世界の全てを知る観測者だと言われている。ウタカタに会うことが出来ればこの不可解な謎も恐らく解けるだろう。そしてそのための道具は既に揃っている」
「……天空の竜笛だな」
そう言いながらマシューは収納袋から天空の竜笛を取り出していた。独特の重みのあるそれはマシューの手に確かな感触として存在していた。これを吹けば霊竜ウタカタの棲む城にたどり着ける。そしてそこに最後の《七つの秘宝》があるのだ。
「……それでその天空の竜笛はどこで吹けば良いんだ?」
エルヴィスのその呟きにマシューとレイモンドは何も答えない。と言うより答えられないのだ。それを知っていればすぐにでも吹きに行っているのだ。
それをしていないということは、どこで吹けばいいのか全く見当もついていないということに他ならない。ケヴィンについての謎は霊竜ウタカタに聞けば分かるかもしれないが、それをするには笛を吹く場所を自力で探さなければならないのだ。
「……とりあえずこの場所を出よう。どうせなら明るい場所で考えた方が良い案が出そうだ」
レイモンドのその提案に反対する理由は無い。5人は地下室を後にするため1人ずつ外へ出始めた。マシューは明かりを持っている故に外へ出るのは一番最後である。
マシューは外に出る直前に明かりを使って地下室の床全体を照らした。何も落としていないかどうかの確認である。何も落としていないことを確認しマシューは外に出るために一歩足を前に踏み出した。
……そしてゆっくりと振り返った。視界の端に映るそれにマシューは明かりを近づけた。どうやら見間違えた訳では無いようだ。
「……皆、ちょっと帰って来てくれ」
「ん? 何かあったか?」
「文字が、……文字があるんだ」