第24話 その地図があった場所
読んでくださりありがとうございます。地下室へ向かうようです。
ニコラはやけに自信のある表情である。行ったことの無いはずの場所でいったいどうやって証明するつもりなのだろう。マシューとレイモンドは顔を見合わせて無言で頷いた。そうと決まればここに長居する必要性は無い。すぐにでも向かうべきである。
「……案内しよう」
マシューのその声で5人は一斉に立ち上がりレイモンドの家を出た。自分が今どんな表情をしているか、鏡が無い故に確認は出来ない。だが、恐らくその表情は複雑なものとなっているだろう。それが確信出来るほどに今のマシューの精神は複雑なものとなっていたのだ。
レイモンドの家からマシューの家はかなり近く、レイモンドを除いた4人は歩き始めてすぐに目的地に到着したのである。かつて父と共に住んでいたその家は今でも変わらずにその場所でたたずんでいた。不思議と懐かしさは感じない。この光景はいつだって目を閉じれば鮮明に思い出せるからに違いない。
「……これが君の家かい?」
「ああ、そうだ。地下室はこの家の裏から入ることが出来る」
マシューのその声に3人はマシューの家の裏に回り、それぞれ感心したような表情を見せた。あの時マシューとレイモンドは地下室を出てからその扉を土で塞いでいる。だがそれはあくまでも塞いだだけであり、裏口から地下室へ入ることが出来るという前提知識があれば簡単に扉の場所は推測可能である。実際ニコラの視線はまっすぐ扉があった場所に集中していた。
「……地下室への入り口は地面の下にあるのかい?」
「そうだよ。だから俺はこれを取りにいったのさ」
振り返るとそこにはレイモンドの姿があった。レイモンドはいくつかの大きめのシャベルを担いでいる。これが無ければ土で覆われた扉の先に行くことが出来ない。手分けして掘り進めるためにわざわざ家の納屋から持って来たのだ。
「……原始的だね。魔法は使わないのかい?」
「俺はこういう時に使う魔法を知らない。何かあるのか?」
シャベルを使って地面を掘り進めることは魔法が使えるこの世の中では確かに原始的と言えるだろう。都合の良い魔法があれば良いがレイモンドはそんな魔法に心当たりは無い。レイモンドはエレナ、エルヴィス、ニコラへと順番に視線を動かした。そして苦笑いを浮かべエルヴィスとニコラにシャベルを渡した。どうやら今これ以外で掘り進める方法は無いようだ。
人数が増えたこともあり掘り進めるペースは格段に早い。僅か5分足らずで地下室へ行くための扉が顔をのぞかせた。マシューがその扉を開けるのは二度目である。迷いなく扉のハンドルを握り思い切り横に引いた。
こうして地下室への扉はゆっくりと開かれたのである。地下室には明かりが無く、家の裏側にあたるこの場所は日当たりが悪いこともあり下り階段の先は暗くなっていて見えない。5人は1人ずつその暗闇の先へ歩き始めた。
先頭を行くマシューは木の棒に【着火】を発動させただけの簡易的な明かりを手にしていた。だがそれだけでも立派な明かりであり、それにより地下室の中の様子はよく分かった。
「……ここが地下室か。ちなみに古びた地図はどこにあったんだい? ここで見つけたんだろう?」
「地図の場所か。……確かここだったかな」
マシューは記憶を辿りながら地図を見つけた場所を探し始めた。確か地図はクラウンソードがあった場所の近くの台の上に手紙と共にあったはずだ。つまり地図があった場所を探すにはその台を探せば良い。
周りを見渡したマシューはすぐにその台を見つけた。剣があったであろう低い段差の横にその台座はあった。その時マシューに不思議な感覚が訪れた。地図と手紙を見つけた時は何にも思わなかったが、今改めてその台座を見ると感じるものがあるのだ。これはただの台なんかではない。
「……試練の……台座⁈」
「ああ、そうだ。この場所はテーベに保管された《探究》の象徴がある場所。君たちが最初に手に入れた《七つの秘宝》は《幸運》の象徴ではない。《探究》の象徴である古びた地図だよ」
「……これが、《探究》の象徴?」
思わずマシューは古びた地図を取り出してまじまじと見つめていた。最初は横にあるクラウンソードが実は《七つの秘宝》ではないかと疑っていたマシューだが、その疑いはどうやら本質を掠めていたようである。
「勇者候補になるためには条件がある。その条件を知っているかい?」
古びた地図を見たままその場を動かないマシューにニコラはそう声をかけた。だがマシューはそのことについて全く知らないために顔を上げても答えることは出来なかった。
「それは先代の勇者から《七つの秘宝》のうちの1つと、本人が持っていたものを受け取ることだ。……古びた地図の他にもここに置いてあったものがあるんじゃないかい?」
「……手紙と、クラウンソードを」
「そうだろう。だからこそ君は今勇者候補としていられるんだ。そしてそのことが君の父が勇者だったことの証明だよ。……理解してもらえたかい?」