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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第1章 風吹き荒れる平原の中で
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第17話 緋熊亭

 読んでくださりありがとうございます。神聖の騎士団が何やら動きを見せていましたね……。


「さて、……部屋があると良いんだけど」


 そう言ってマシューは手書きの地図から顔を上げた。到着した宿屋には緋熊亭と書かれた看板がぶら下げられていた。地図に書かれた名前と一致している。三階建ての建物で部屋数も多くいくつかの窓は明かりが灯っていなかった。これは部屋があることを期待しても良いだろう。マシューは緋熊亭の扉をゆっくりと開けた。


「……おや、いらっしゃい。泊まりのお客さんかな?」


 扉を開けると目の前にはカウンターらしき場所があったがその中には人がいなかった。聞こえてきた声のした方へ向くとカウンターの左端に座ってたばこを吸っている大柄の男性がこちらを見ている。この人が宿屋の店主なのだろうか。


「ええと、あなたが店主……で良いのか?」


「いかにも。俺がこの緋熊亭の店主バーナードだ。そう言う君たちは泊まりのお客さんで良いかな?」


 言いながらバーナードは椅子から立ち上がった。座っている時から大柄だとは思っていたが立ち上がると体の大きさがよく分かる。赤い髪と熊を想起させるほどのその体格を見てレイモンドは緋熊亭の名前の由来はきっとこの人なのだろうと声には出さずに納得した。


「あ! またお客さんをびっくりさせてるじゃんか! カウンターの外には出ないでっていつも言ってるのに!」


 突然カウンターの奥から大きな声が聞こえて来たかと思うとやや小柄な女性が出てきた。その女性の前では心なしかバーナードが小さく見えて来たのである。どうやらこの女性の方が立場が上のようである。


「いや、だってよ……。誰も居なかったから誰か居た方が良いかと思ってさ…」


「だったらカウンターの中にいなさい。そもそもカウンターの外にいたら店主とも思われないわよ!」


「……カウンターの中だとたばこが吸えねえじゃねぇかよ。俺は好きで外にいるんじゃねぇんだ」


 マシューとレイモンドはすっかり置いてけぼりである。話を止めることも出来ず困った2人は顔を見合わせていた。すると後ろの扉が開き誰かが入って来た。振り返ると鎧に身を包んだ男性が1人扉の前に立っていた。どうやら泊まりに来た冒険者のようである。


「おや? あんたらもここに泊まりに来たのか?」


「ええ、……まあ」


「ここは良い宿だよ。……ちょっと店主たちがうるさいけどね。ここに突っ立ってるってことはまだ部屋の案内もされてないな? ちょっと待ってな」


 そう言うと男性はまだエキサイトしている2人に手を叩きながら近づいて行った。


「ほらほら2人とも! 喧嘩も良いけどひとまずお客さんの対応が先なんじゃ無い?」


 男性が手を叩く音に反応して2人ともこちらへ振り返った。2人を見ていたレイモンドは女性の方と完全に視線が合う。それでようやくマシューとレイモンドの存在を思い出したらしい。女性は目を見開いてこちらへ近づいて来たのだ。


「あら! すっかり忘れてたわ。ごめんなさいね。私バーナードの妻のポーラと言います。あなた方は泊まりのお客さんで良かったかしら?」


「……連泊をお願いしたいんだが、部屋はあるか?」


「もちろんございます。ベッドが2つの部屋の大きい部屋もありますが……、お2人の部屋は分けましょうか? どうされます?」


 予想だにしてない質問に思わず2人は顔を見合わせた。宿屋の部屋があるかないかばかり考えていて部屋の形態のことを2人ともすっかり忘れていたのだ。とは言え3年一緒に過ごした関係性であり同じ部屋である抵抗は全く無い。故に問題があるとすれば1つだけである。


「……その場合料金はどうなる?」


「大きい部屋だと1泊銀貨3枚、部屋を分けるなら1泊銀貨2枚ずつの合計4枚になります」


「なら大きい部屋をお願いしたい。ちなみに連泊だと安くなると聞いたのだが……」


 マシューはレイモンドから収納袋を受け取ると中から金貨3枚を取り出しカウンターへ置いた。ニコラから連泊すると安くなるとは聞いているがどれくらい安くなるかは分からない。なら直接聞いてしまった方がマシューは早いと思ったのである。


「ええ、もちろん安くなりますわ。連泊してくださるお客さんはこちらとしてもありがたいですから。……金貨3枚なら14日ほどご宿泊が可能ですね」


「……それでお願いしたい」


 マシューは少し悩んで金貨3枚を支払うことに決めた。どれほどの期間帝都に滞在しているか分からないがなるべく長い期間宿を確保しておいた方が精神的にも余裕が持てる。そう考えたからである。


 マシューのその返答に女性はにっこりと笑みを浮かべて2人にお辞儀をしてカウンターから部屋の鍵を取り出した。銀色のその鍵は少し年季が入っているようで手に取るとすぐに手に馴染んだ。


「そちらが部屋の鍵となっております。無くされた場合追加料金をいただきますのでご注意くださいませ。それでは部屋に案内いたします」


 案内された部屋は2階部分の角部屋であり2人で使うには充分な広さの部屋であった。宿屋を利用するのはこれが初めてであり相場の程は一切分からないがこの部屋を見た瞬間に2人ともなんだか得をした気がして来たのである。


「この宿屋は冒険者の方が主に利用されますから遮音性が高い部屋が多いのです。秘密の話はもちろん、どんなに大きないびきを立てても他の部屋に聞こえることはありません。性能は私が保証いたしましょう。それではごゆっくりお休みになってくださいませ」


「あ、そうだ。この近くに雑貨屋や武器屋などはあるだろうか?」


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