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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第6章 その正義は誰がために
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第20話 責任は果たさなければ

 読んでくださりありがとうございます。マシューたちは次にテーベに向かうようです。

 

 収納袋の中に丁寧に仕舞われていた象徴たちをマシューはひとつずつ丁寧に床に置いた。蹄鉄の鎧、黄金の林檎、獅子頭の兜、ラグドールの盾、そして虹色の紋章。見返せばそれらを手に入れた時のことをいつでも呼び起こすことが出来るほどマシューは鮮明に覚えている。


「……この鎧は知らないな。これは何て言うんだい?」


「蹄鉄の鎧だよ。エルヴィスたちに会う前に嵐馬平原で手に入れたものさ」


「そうか、それで知らないんだな。それ以降に手に入った象徴なら全部知っているよ。何せ一緒に行動していたしね」


 そう言ってエルヴィスは照れくさそうに笑った。エルヴィスたちとは黄金の林檎を手に入れる時からずっと一緒に行動している。照れくさそうに笑うエルヴィスをを見てマシューは出会った時のことを思い出していた。


「……嵐馬平原。……するとこれは裏の世界を表しているのか? それに中心に描かれているのはテーベか。なるほど、確かに印の位置は一致しているか。……それじゃあ」


 ニコラは古びた地図を手に取ってマシューが収納袋から取り出した《七つの秘宝》をそれぞれ確認するように見始めた。何か確認する事項があるのだろうか。レイモンドがその様子を伺っているとニコラはやがて納得したようににこりと笑った。


「君たちがテーベに残る象徴があると言っていたのはこの地図が根拠だな?」


「ああ、そうだよ。それがどうかしたのか?」


「確かに見る限りこの古びた地図は象徴の場所を示していると言って良さそうだ。まさかこんなものを持っていたとは思ってなかったよ。……さ、残る象徴を手に入れるためにテーベへ行こうか」


 ニコラはそう言うと勢いよく立ち上がった。それに続けてマシューたちも立ち上がった。


 ……ただ1人アンガスだけはその場に座ったまま動こうとはしなかった。


 マシューはそれを見て首を傾げ、他の3人は少し困惑していた。そしてニコラはその様子を見て何かを悟ったのか悲しい表情をしていた。


「……アンガス?」


「……申し訳ないが、私は君たちについて行くことが出来ない」


「……え?」


「私は帝都に残ろうと思う。だから君たちについて行くことが出来ないんだ」


 マシューは驚いた表情でアンガスの顔を見た。冗談を言っている顔ではない。彼は本気で言っているのだ。それだけにマシューは何と言葉をかけていいのか分からなかった。


「……騎士団長亡き今、神聖の騎士団はかなり不安定な組織になっている。恐らくガブリエルのことだから自分が死んでしまった時のために何か手を打っているだろう。言い換えれば組織を変えるならば不安定な状態の今しかない。神聖の騎士団が本当の意味で聖騎士たり得る存在になるためには今のこのチャンスを逃す訳にはいかないんだ」


「……何となく、そんな気はしていたよ。昔のように一緒に行動したくなる気持ちはある。だが、その気持ちは時に優先するべきではない。……組織を率いる者として責任は果たさないといけないからね」


 そう言うニコラの表情には寂しそうな感情と共に納得の感情が感じられた。やはり騎士団の上の地位に立つ人間はそれなりの事情と言うものがあるのだろう。


 だが、だからと言ってマシューたちはアンガスをそう簡単には諦めきれない。行動を共にした時間は短いが、冷静かつ時に大胆なアンガスのその思考にマシューたちは度々助けられていた。これから先も共に行動し助けとなって欲しいと思うのは我が儘なのだろうか。


「……どうしても、無理なのか?」


「……ああ。……そうだ」


「……そうか。…………残念だけど仕方ないね」


 アンガスはもう行動を共にしない。その事実にマシューは少し肩を落としていた。そんなマシューを見てアンガスは立ち上がった。そしてにっこりと微笑んでマシューに何かを手渡したのだ。何かの魔水晶なのだろうか。その魔水晶の色は少し見覚えがあった。


「……これは?」


「私は一緒には行動出来ない。だからこの【移動アポート】を君に預けよう。きっと何かの役に立つはずだ」


 マシューは手の中にある魔水晶をじっと見つめた。例え共に行動をしてはいなくても、この魔水晶があればアンガスが行動を共にしている。そう思えるだけで幾分と心強かった。マシューはにこりと笑って【移動アポート】の魔水晶を丁寧に収納袋へ仕舞い込んだ。


「ありがとう」


「ああ。……君たちの行く末が明るいものであることを祈っているよ」


 そんなアンガスの言葉にマシューは微笑みで応えた。もうそこに肩を落とすマシューの姿は無い。人それぞれ事情があり、出来ることは違う。だがしかし何かをしてあげたいという気持ちに変わりは無いのだ。アンガスは出来る限りマシューたちの力になろうとしてくれた。マシューの気持ちはそれだけで充分満ち足りているのだ。






 地下空間を出てマシューたちは閉架スペースへとたどり着いた。閉架スペースの窓からは赤く染まった日差しが差し込んでいた。地下空間では何も分からなかったがどうやらかなりの時間が経過していたようだ。


「……日が落ちる前に移動しておかないとな」


「……? 日が落ちてからだと何か問題があるのか?」


「すっかり忘れてしまったのかもしれないが、君たちは今聖騎士に指名手配をされている。いずれそれも解除されるだろうが、解除されるまでに捕まってしまうのは少々ややこしい。視界が鮮明なうちにテーベへの移動は済ませておきたい。とにかく早く閉架スペースから出よう」


 確かにマシューたちは今指名手配されており、聖騎士に捕まる訳にはいかない状態であった。そんな状態で帝都に長居するメリットは皆無であろう。ニコラに続いてマシューたちは閉架スペースを出たのである。


 そしてニコラは閉架スペースを出るとそのまま登り階段を目指して歩き始めた。当然だが入り口へ向かうのに階段を登る必要は無い。


「(ニコラ! どこへ行こうとしているんだ⁉︎)」


「(決まっている。……屋上へだ)」


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