第17話 塵となって消えた
読んでくださりありがとうございます。ガブリエルは塵となって消えてしまいました。
「…………何が起こった⁈」
レイモンドはあまりの出来事に忙しなく周囲を見渡していた。彼はアンガスからガブリエルを打ち破る方法があるとだけ聞いていたのだ。それ故に何よりもまずアンガスの復活を優先させ、彼の言う通りに託された剣を構えガブリエルの体を貫いたのだ。まさかその後目の前でこんなことになるとは思ってもいないのである。
「済まない、動きが悪くなると思って詳しくは説明出来なかったんだ」
「それじゃあ……アンガスはこうなることを知っていたってことか?」
「あぁ、そうだ。……少し長くなる。座って話すとしよう」
復活してからのアンガスは【移動】を短時間に連発し、捕えられて死にそうになっていたとは思えない程の活動っぷりであった。とは言えさすがに限界は来ているようでそう言うとその場に座り込んだのだ。
アンガスが座り込んだことで自然と皆が座って話を聞くという流れとなった。最も遠くにいたニコラがアンガスの声が届く場所で座ったのを確認し、アンガスはゆっくりと口を開いた。
「……まず、ガブリエル・クラークの話をしなくてはならない。……マシュー、君はガブリエルは何歳くらいに見えた?」
そう聞かれたマシューは塵となって消えたガブリエルの顔を思い出していた。思い浮かぶのは威厳のある髭をあごにたくわえていたことであり、その顔から年齢を導きだすのは難しそうである。エルヴィスが息子であることから考えた方が予想がしやすそうだ。
「……40歳くらいか?」
「なるほど。……エルヴィスはどうだ?」
「……実は僕も詳しい年齢は知らないんだよね。……見た目はそれくらいだけど」
エルヴィスはどうやらガブリエルの年齢を詳しくは知らないらしい。だがある程度は知っているようだ。見た目はそれくらいと言う言葉からそれはマシューにも伝わった。どうやら実際にはもう少し年齢を重ねているようである。
「88歳だよ」
「……ん⁈ ……今何て言ったんだ?」
「だから、ガブリエルの年齢は88歳なんだ。ただし、時を遡る魔法で全盛期の年齢のままでキープしているがね」
88歳というと3年前にケヴィンと一緒に殺されたレイモンドの祖父ロナルドの年齢よりも上である。とてもじゃないが見た目からその年齢は想像出来ない。アンガスの言う時を遡る魔法というのが相当優れた魔法なのだろう。そうでなければ説明することが出来ないのだ。
「……ええと、その時を遡る魔法ってのは?」
「【時間操作】だよ。かつて時の勇者と呼ばれた男が使っていた魔法なんだ」
ニコラも騎士団長だけあってある程度は知っているようだ。レイモンドの質問に対してアンガスの代わりにすぐに答えを出した。【時間操作】。聞いたことのない魔法だがその効果が相当優れていることは中身を聞かずとも自明である。
「厳密に言えば【時間操作】ではなく、【複製】によって強引に発動させたものだがな。ガブリエル・クラークはその魔法であらゆる魔法を強引に発動させ神聖の騎士団を今の地位まで押し上げたんだ。だが、迫り来る年には流石のガブリエルも抗うことが出来ない。……はずだった。時の勇者が勇者候補としてやって来るまでは」
【複製】。数ある魔法の中でも最も異質な魔法。その効果は実際に目で見た魔法を複製し自分の使える魔法として強引に発動させるものである。そして発動させた魔法は使用者の魔法を完全に再現することが出来るのだ。
確かにこの魔法を使えばあらゆる魔法が発動でき、相手がどれほどの魔法の使い手であっても勝つことが出来るだろう。そして実際にそれで勝ってきたのだ。
「……それって反則じゃ?」
「実際反則だな。現実問題【複製】への対抗手段は純粋な身体能力で打ち勝つか、先手を取って一発で決着を狙う、……そして今回のように魔法自体の発動を止めるくらいしか無い。私たちが勝つのは彼が油断していたあの瞬間以外あり得なかった」
そう言うとアンガスは安堵の微笑みを浮かべていた。アンガスからすれば自分の騎士団の騎士団長を殺したことになるのだがそれについては気にしていないようだ。……もっともアンガスとガブリエルは敵対していた故に無理も無いのだが。
「……ええと」
「あぁ、そうか。レイモンドは彼が塵となって消えた理由が知りたいんだろう?」
「……ああ。俺があんたから聞いていたのは武器を構えていれば騎士団長の体を貫く方法があるって言うだけだからな。……まさか目の前で塵となって消えるとは」
そう言いながらレイモンドは苦い表情である。マシューも見ていたからよく分かるが目の前でついさっきまで生きていた人間が塵となって消えるのは衝撃の映像である。一番間近にいたレイモンドは特にその衝撃を感じただろう。
「先程も言ったが、ガブリエルは【時間操作】によって全盛期の30代後半頃で止め自身のの老化を防いでいた。そんな状況で私によって大元の魔法である【複製】が解除された。その結果【時間操作】はその効果を失い、止めていた老化の波が彼に凄まじい勢いで押し寄せた」
「……それで塵に?」
「……当然だが肉体は約50年もの年月を一度に受け止めることは出来ない。押し寄せる老化の波に限界を迎えたガブリエルは塵となって消えたと言う訳だ」