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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第6章 その正義は誰がために
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第12話 階段はどこだ

 読んでくださりありがとうございます。ついに書庫の閉架スペースへ向かうようです。


「……これは、凄いな」


 鍵を開けた先に広がっている光景にマシューは思わず声を漏らしていた。目の前には何百冊も入りそうな大きな本棚がいくつも横に並べられていた。このフロアにいったい何冊の本が保管されているのだろうか。


「……ざっと50万冊は軽く入りそうな規模だ。さすがに帝都の書庫だけあって規模はかなりのものだな。……急いで地下への階段を探そう」


 ニコラのその声にマシューは我に返った。限られた閲覧時間の中でマシューたちは天空の竜笛を探さなければならないのだ。仮にこの場所が天空の竜笛がある場所では無かったとしてもそれを確信出来るほどの捜索は必要である。ゆっくりと設備に感心している場合ではないのだ。


「……地下への階段ってのは本当にあるのか?」


 周囲を見渡したレイモンドはすぐにそう呟いていた。この閉架スペースのフロア面積はかなり広いものの、あるものは移動式の本棚ばかりで見通しはそれほど悪くない。それ故に地下への階段もすぐに見つかると思われた。


 しかし実際はすぐには見つからなかったのである。あまりに見つからない故にレイモンドはエリックが言ったことを疑い始めているのだ。


「エリックが嘘を言ったとは思えない。……だが、この本棚ばかりの空間に階段はかなり異質な存在なはず。それがなぜ見つからない?」


 エルヴィスもまた首を傾げていた。エルヴィスはエリックが嘘を言った訳では無いとレイモンドの疑いを否定している。


 だがだからと言って地下への階段を見つけた訳でも無いのだ。どうやら階段を見つけるのにも苦労するらしい。レイモンドとエルヴィスがほぼ同時にそう考えていたその時、フロアの奥から声が聞こえたのだ。マシューが何かを見つけたらしい。


「……どうした?」


「あぁ、レイモンドか。君もちょっとこれを見てくれ」


 そう言ってマシューは目の前を指差した。マシューの目の前にあるのは移動式本棚を動かすハンドルである。移動させるために作られたそのハンドルは右に回せば右へ、左に回せば左へと本棚を移動させるものである。


 ただマシューが指差した本棚は最後尾に設置されたものであり、壁にくっつけてつくられたこの本棚につけられたハンドルのみ回転させることが出来ない代物であった。


「……これがどうかしたのか?」


「これだけ回すことが出来ないんだよ」


「あぁ、そのハンドルだけは動かせないただの飾りだよな。まあ、デザイン上そこだけハンドルが無いってのも変だからつけておいたんじゃないかな?」


 レイモンドもそのハンドルには気付いていた。ただ、レイモンドは単なる装飾品だとして特に気にも留めなかったのである。……だが、マシューはそのハンドルをじっと見つめていたのだ。


「……本当に単なる飾りなのだろうか。……そもそも地下へと続く階段は決して近寄るなと厳命されていた。そんな場所が分かりやすい場所にあるだろうか? きっと何か秘密があるはずだ」


 マシューは独り言のようにそう呟き本棚の中を確認し始めた。見たところ古い文献が保管されているようだ。かなり年季の入ったそれらの本の背表紙にはマシューが見たことも無い文字で題が書かれていた。


 恐らく手に取っても何も分からないだろう。だがマシューはそれらの本の一つを手に取ろうと手を伸ばした。


 ……なるほど、どうやらこの本棚に秘密があるらしい。本棚に保管された本の背表紙をまっすぐ見つめながらマシューはそう確信していた。


「……レイモンド、みんなを呼んでくれるかい?」


「……何か見つけたのか?」


「あぁ、多分ね」





 レイモンドがフロア内を探している他の3人を呼んで戻ってきたその時、マシューはやはり本棚につけられたハンドルをじっと見つめていた。


「マシュー、呼んできたぞ」


「あぁ、ありがとう」


 そんなマシューとレイモンドのやり取りには目もくれず、ニコラはじっと最後尾に位置するその本棚を観察していた。だがニコラもまた何か秘密があるようには感じなかったのだ。何の変哲も無いフロアにいくつかある移動式の本棚のひとつ。全員を呼ぶほどの何かがあるとは思えなかったのだ。


「……この本棚に何か秘密があるのかい?」


「あぁ。……レイモンド、どれでも良いんだがこの本棚からひとつ本を取ってきてくれ」


「……? 分かった」


 レイモンドはイマイチ合点がいっていない表情を浮かべながら本棚に保管された本を手に取ろうとした。レイモンドが手を伸ばしたのは紫色に装丁された古い本である。どれも背表紙からは何の本なのか読み取れなかったが何となくレイモンドはその本が気になったのだ。

 

 ……だが、レイモンドはその本を手に取ることが出来なかった。まるで隣り合う本とひっついているかのように本棚から微動だにしなかったのである。


「……? 取れない?」


「あぁ、そこにある本は全て固められていて閲覧することが出来なくなっているようだ」


「……何のために?」


「多分動くと色々と困るからじゃないかな。……さ、戻ってきなよ」


 レイモンドはやはりイマイチ合点がいかない表情を浮かべながらマシューたちがいる場所まで戻ってきた。もちろんその手には何の本も無い。そしてニコラはただその様子をじっと見ていた。


「……動くと色々と困る? ……もしや」


「多分そうだと思うよ。この本棚はカモフラージュ。移動出来ない本棚と先入観を持たせることでセキュリティの意味を持つ代物。……階段はこの先だ!」


 マシューは目の前のハンドルを左手で強く押し込んだ。スイッチが入り動かせないと思われた目の前の本棚はゆっくりと右へと動き始めた。そして数秒後、マシューたちの目の前には下へと降りる階段が広がっていたのである。



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