第6話 ついて来て
読んでくださりありがとうございます。果たして無事に帝都にたどり着けるんでしょうか。
そう言うとポールは紅玉の森の出入り口に向かって歩き始めた。紅玉の森を出る道はマシューたちもよく知る道である。特に問題なくマシューたちは紅玉の森の出入り口近くまでやって来た。
「……なるほど、これは厄介だ」
紅玉の森の出入り口から帝都の正門は目で見えるほどに近い。木の陰に隠れて聖騎士からは気付かれていないがマシューたちからは聖騎士の様子がよく見える。
見たところ4人、……いや5人の聖騎士が分担して警護をしているようだ。そして彼らは何かが描かれた紙のようなものを持っている。恐らくあの紙にマシューたちの情報が記されているのだろう。
「……予想以上に警護の数が多いな。多少誤魔化せば通れるかと思ったが、小細工で誤魔化すのは無理そうだ」
「……それじゃあどうするんだ?」
「警護というものは非常事態が起こらないように見張るものだ。そして案外よく起こる事態には目が回らないものだよ。……ここはひとつ堂々と正面から移動するとしよう」
そう言うとポールは立ち上がり、堂々と警護する聖騎士の近くを歩いていったのである。聖騎士は特にポールが通ったことを気にしてはいない。……なるほど、確かに案外堂々と通る方が警戒されないのかもしれない。
とは言え、それを実行するのは結構な覚悟がいるのである。そして先に出発したポールはかなり進んでおりぐずぐずしていると見失ってしまい勝手口の場所が分からなくなるだろう。さっさと覚悟を決めた方が良さそうだ。
「……ポールに続こう」
マシューのその呟きを契機として4人はそれぞれ立ち上がり、どこにでもいるような冒険者パーティのつもりで先を行くポールの後を追った。聖騎士たちに気付かれたかどうかが気になるが、振り返れば不審に思われるかもしれないと思うと4人には振り返ることが出来なかった。
「……どうやら上手く移動出来たようだな」
先行くポールが振り返ってマシューたちを労った。どうやら勝手口はこの近辺のようである。最初の関門は突破出来、これでマシューたちは何とか帝都へ入ることが出来そうだ。
「その勝手口はここから近いのか?」
「あぁ、もうすぐだ」
そう言うとポールは木と木の間を縫うようにして進み始めた。怪訝な表情をしながらマシューたちもその後を追って進んでいく。そして数分もしないうちに帝都で過ごす人の賑やかな声が聞こえて来た。そしてマシューたちの目の前には木で出来た仕切りのようなものが現れていた。
「着いたぞ。ここが帝都へ通じる勝手口だ」
「……これがそうなのか? 随分と簡単なつくりなんだな」
「この場所はそもそも普段から通るような場所じゃない。昔かつての聖騎士がこっそり帝都から出入りするために作ったと言われた場所でね。聖騎士の中でも限られた人しか知らない。こうしたこっそり出入りするにはうってつけの場所だよ」
どうやらこの場所は聖騎士だから知っている秘密の場所ではなく、ポールだからこそ知っている秘密の場所のようだ。もしポールがこれを知らなければマシューたちは正門から帝都へ入らざるを得ず、捕えられる可能性が高かったに違いない。そう言う意味でマシューたちは幸運だったと言えるかもしれない。
もっともそれはあくまでも可能性が低くなったというだけで0になった訳ではない。ポールは右手で仕切りを開けて帝都の中へ入ろうと数歩進んで目を大きく見開いた。彼の視線の先には白と銀を基調にした鎧を着た聖騎士が、そしていつの間にか後ろに4人の聖騎士が腕を組んで全員を包囲するようにして立っていたのである。
「……馬鹿な⁉︎ 何故……ここが?」
ポールは信じられないとばかりに口をぽかんと開けていた。既に完全に囲まれており強行突破は難しいだろう。そんなことをすれば騒ぎになって聖騎士の数が増えるだけである。
「……【魔法解除】。……これで私の声があなた方にも聞こえるようになったかな?」
「何故ここが? ……正門で警護をしていた騎士ではない。……誰だ」
「ええ、おっしゃる通り私は正門の警護をしている騎士ではありません。普段は書庫の警護をしていましてね。……今朝からある方からの要請でこの場所を警護しているのですよ」
ポールは困惑を隠せない。この場所から帝都へ入れば警護の聖騎士の誰にもバレないだろうと思っていたこともありパニックになっているのだ。そんなポールに正面の男は優しくそう言ったのだ。
そして忙しなく視線を動かすポールの後ろでマシューはじっと目の前の男を眺めていた。マシューには男が発した声、そしてその内容に不思議と少し馴染みがあった。まるでどこかで聞いたことのあるような響きである。
「……すまないマシュー。どうやら相手の思うように動いてしまったようだ。……何と詫びれば良いか」
申し訳無さと困惑でポールはその表情を歪めていた。だがそれに対して反応を示さずマシューはじっと正面の男を見ていた。……間違いない。目の前の男をマシューは知っている。
「あなたは……エリック?」
「おや、私の名前を覚えておられるとは。さすがは勇者候補。記憶力もさすがと言ったところですか。……さて、時間もありませんから皆さんついて来ていただけますかね」