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マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第6章 その正義は誰がために
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第3話 感じる重圧

 読んでくださりありがとうございます。真夜中に事態は大きく変わっていたのです。


「……すり替え」


「そう、その通り。そしてアンガス様は自分の志と共にすり替えた《希望》の象徴を君たちに託された。【魔法解除マジックキャンセル】の魔水晶を宿した剣を添えてね」


 ポールのその言葉にマシューはレイモンドの方を向き、レイモンドは手元の剣を見つめた。その鋒にはまだ血が残っておりレイモンドの手にはまだガブリエルを貫いた時の嫌な感触が残っていた。


「……その剣まで託すことが出来たのはアンガス様の偶然の思い付き。結果としてその剣は君たちの役に立った。……違うかい?」


「あぁ、これがあるから俺たちはここにいると言っても過言じゃあない。……これが無ければ騎士団長を相手にするのは不可能だっただろう」


「……やはりか。騎士団長が相手となる故に君たちが負けてしまうのではと不安だったが、こうして合流出来て良かった」


「……それで、話はまだ続きがあるだろう? アンガスはどうして俺たちに象徴と剣を託したんだ?」


「それは簡単な話だ。アンガス様自身が撤退を諦められた故、そして君が勇者候補であるが故だ」


 ポールは何でもないことのようにそう言った。マシューはアンガスが撤退を諦めたことと、自分が勇者候補であるが故に託されたというその話をすぐには受け入れられない。困惑の混じった怪訝な表情をするマシューを見てポールは少し笑ってまた口を開いた。


「先程警護に参加した傭兵が尋問された話をしたことは覚えているね?」


「……あぁ」


「それによって得られた情報で騎士団長はアンガス様の処罰ではなく、……君たちへの処罰を決定した。現在君たちは神聖の騎士団によって指名手配をされている」


「……は?」


 指名手配。聞き慣れない単語にレイモンドの口から思わずそんな間抜けな声が漏れた。


 騎士団長が行った尋問は《希望》の象徴の警護に参加した傭兵の本当の目的、つまりアンガスの考えを探るためだったはずである。そしてその結果アンガスの考えを騎士団長は全て把握したはずである。それなのに何故マシューたちが指名手配をされる事態になるのだろうか。思考が追いつかずマシューたちは全員困惑の表情を浮かべた。


「騎士団長がなぜそう決断したかの理由は分からないが、君たちに象徴を託した以上アンガス様にとって困った事態となったのは間違いない。君たちが神聖の騎士団に捕まれば《希望》の象徴は元に戻され、今よりも厳重に警護され、そしてアンガス様は今の地位を追われることになるだろう。完全なる事態の悪化。そうなればアンガス様の志は到底果たされなくなる」


「……」


「だからこそアンガス様はご自身の撤退を諦めなさったのだ。君たちが捕まれば全てが水の泡となる。アンガス様は私をここへ転移させ私に君たちのサポートを任せると、たった1人で君たちの指名手配の撤回とご自身への処罰を騎士団長に願い出たのだ。……そしてどうなったのかは君たちも、……もう知っているだろう?」


 ポールはもう笑ってはいない。その表情は感情を押し殺した悲痛なものであった。アンガスはマシューたちの指名手配を撤回させ、自分に処罰がいくようガブリエルに願い出た。それはアンガスの覚悟であり、決死の足止めである。


 そしてマシューたちは撤退の途中騎士団長と遭遇してしまっている。それがどういう意味を表しているのかはもはや言葉に出来なかった。


「……なぜ、……なぜ俺たちに? 俺は、……俺はそんな大それた人間じゃない」


「君が勇者候補だから……だよ。アンガス様は君の勇気に賭けたのさ。例え自分の身に危機が降りかかろうとも、君と、君の仲間たちならばこの困難を乗り越えられる。アンガス様はそれを信じて君たちに託したのさ。……そして君たちはここにいる。アンガス様の決死の覚悟は今もまだ繋がっているのだよ」


 ポールは優しくそしてはっきりとそう言った。ポールの言う意味をマシューは理解している。そしてアンガスがなぜ自分たちに託したのかも本当は分かっていた。象徴があるべき場所、つまり試練の台座に置かれる理由はただ一つ。勇者候補が現れるのを待つためである。試練に打ち勝ち、象徴を手に入れ続けたものが勇者となるのだ。


 言い換えれば象徴は勇者候補が手に入れるものなのである。そしてあるべき場所に無かったそれは今マシューの手にある。つまりあるべき場所にようやく置かれたと言い換えても良い。そしてそれが不都合であるが故にマシューたちは神聖の騎士団に指名手配されたのだろう。


「……俺は本当に勇者候補なのだろうか。俺はただ、……ただ父さんが殺された理由が、父さんが何をしたかったのか……知りたかっただけなんだ」


 マシューは底知れぬ重圧を感じていた。父であるケヴィンがしたかったものを、そして殺された理由を探すマシューの旅は出発してから順調に進んでいた。強敵を倒し、仲間が増え、そして象徴が手に入る。振り返れば全て順調に進んでいたと言って良い。


 だが今回の警護は今までのそれとは全く異なっているのだ。自分のやりたいことを進めた結果、アンガスが犠牲になったのである。もちろん覚悟はしていた。危険と承知で傭兵として警護に参加したのだ。仲間を失う覚悟はしていた……はずだった。


 アンガスが自分のために犠牲になった。その事実は重くマシューにのしかかっていた。そして託されたその使命にマシューは重圧を感じてしまっていたのだ。


「そうやっていつまでも下を向いているのか? ……懐かしいな。お前はあの時からずっと下を向いていたよ」


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