第2話 アンガスの役割
読んでくださりありがとうございます。アンガスの過去が明かされます。
「……君もよく知っていると思うが、アンガス様は元々神聖の騎士団にいた方ではない。アンガス様は自身の志を達成するためだけに今の副団長という地位を手に入れられたのだよ」
「……その志ってのは、確か全ての物事には必ず役割というものが備わっている。……だったか?」
「あぁ、その通りだ。アンガス様は《七つの秘宝》とも呼ばれる象徴のことを知り、それを守る騎士に強い憧れを持っておられた。そして最初は深緑の騎士団グリフォーンへの加入を目指し友と共に日々研鑽に努めておられた」
ポールの言う友が誰のことなのかは聞かずとも分かった。深緑の騎士団へ加入しようとしていたアンガスの友といえばニコラ1人しかいない。そしてアンガスはグリフォーンへの加入を目指していたにも関わらず神聖の騎士団ユニコーンにいるのは何か理由があるはずである。そしてその理由も何となくマシューには分かったような気がしたのだ。
「そんな折、アンガス様は神聖の騎士団の存在を知り、詳しく調べそして強い憤りを感じられたのだ。アンガス様からすれば持っている役割を放棄し、運命をねじ曲げようとする騎士団としか思えなかった。……だからこそ自身の役割は神聖の騎士団を無くすことにあると結論づけられた。そしてアンガス様は神聖の騎士団へ加入し副団長にまで登りつめられたのだ」
ポールの話をマシューは幾度となく頷きながら聞いていた。確かに少しおかしいとは思っていたのだ。傭兵として警護に参加するマシューたちにアンガスが与えた役割は象徴の返還を求めてやって来る名もなき騎士の無力化と撃退。言葉にすれば何ら問題無さそうだが、その実態はアンガスが本格的に行動に移すためのデモンストレーションであり本来の警護とは勝手が異なる。
それに警護しているものは今マシューの収納袋の中である。これはアンガスからレイモンドへと渡り、マシューにまで渡ったものである。今ゲートタウンと新興都市がどんな状況なのかは分からないが、もう無いものを警護していると思うとやや滑稽である。
これら全てはアンガスが主導で行われたものであり、もちろんそこにアンガスの意図が含まれている。そしてそれはどう考えても神聖の騎士団に良い影響を及ぼさないのだ。そしてアンガスが神聖の騎士団を無くそうとしていると考えればそれは辻褄が合うのだ。
「……ここまでがアンガス様の過去の話だ。ここまでで何か聞きたいことは?」
「無い。続けてくれ」
「分かった。……そこから先は君たちも知っているかもしれない。アンガス様は自分の志を果たすために準備を着々と進めていた。傭兵候補を探すのもその準備のひとつ。警護が始まるまでその準備は順調そのものだった。……だが、アンガス様の考えは思わぬところで狂ってしまったのだ」
狂ってしまった。その言葉にエルヴィスは思わず肩をすくめた。順調に進んでいた準備が狂うのはそう起こることではない。自分以外の誰かがミスをしたり、何か決定的な思い違いをしていたなどといった原因が必ず存在するのだ。そしてエルヴィスにはその原因に心当たりがある。
騎士団長のアクセス権限を使えば他人のデータベースの閲覧ログを見ることが出来る。エルヴィスはマシューたちと共に他人のアクセス権限でデータベースを閲覧していたのだ。それ故にアンガスのその計画がバレたのは自分の浅はかな判断のせいと言われても致し方ないのである。
そしてそんなエルヴィスを見てマシューもまた自分の軽率な行動を恥じていた。自分がデータベースを見ようと思わなければエルヴィスがデータベースにアクセスすることは無かったのでありその責任の一端はマシューにもあるだろう。
そんなマシューとエルヴィスを見てポールは優しく微笑みを浮かべたのである。
「……ふふ、心配せずとも君たちを咎めるつもりはない。むしろ感謝さえしているさ。私がここに転移されたのも君たちのおかげと言っても差し支えない」
「……へ?」
ポールは肩をすくめたエルヴィスやマシューを咎めるどころかむしろ感謝しているようである。それはあまりに予想外であり、2人は上手く反応が出来なかった。
「確かに君たちがデータベースを閲覧したが故にアンガス様の考えがバレたことは事実だ。だが、それで事態が好転したのもまた事実なのだよ。……神聖の騎士団ユニコーンの騎士団長はよく頭が回るひとでね。警護の最中にも関わらず傭兵の1人を捕え尋問を始めたのだよ。あれは真夜中のことであった」
「……⁈ ……じ、尋問?」
「そう、尋問。今回警護に傭兵として参加した本当の理由を探るためにね。……捕えられた傭兵は真面目な性格でとても巧く嘘が吐けなかった。それ故に尋問はさらに苛烈となった。……そうなればそこから先全てが明かされるのは時間の問題。そしてアンガス様は自分の考えが既に狂ってしまっていることにその時まだ気付いておられなかった」
今のところ事態が好転するような話には聞こえない。むしろアンガスの知らぬ間にどんどんと悪化しているようにしか聞こえなかった。徐々に不安で顔が険しくなっているマシューたちを見てポールはまた優しく笑みを浮かべたのだ。
「……だが嫌な予感はされていたらしく、不意にデータベースのことを思い出された。アンガス様もまた他人のログを閲覧出来るアクセス権限を持っていらっしゃる。それ故に当然君たちが他人のアクセス権限でデータベースを閲覧したこともすぐに気付かれた。そして尋問が苛烈化した真夜中、アンガス様は自分の考えを大幅に修正することを決断なさったのだ」